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失敗年鑑: 金沢シーサイドライン逆走事故
なぜやらぬFMEA

失敗年鑑記事へのリンクはここ
【飯野謙次】
 失敗年鑑の記事を1本足しました。2019年6月1日発生の金沢シーサイドライン逆走事故です。
 簡単にいうと、制御信号線が1本切れて、折り返し駅で車輪制御器だけに折り返しが伝わらず、進行信号が出たとたんに逆向きに発進、車止めに衝突したという事故です。普通に発進したため、発車後加速していた列車は25km/hの速度で車止めに激突。車止めに1mの緩衝ストロークがあったため、多少は衝撃が和らいだものの乗客25名のうち、重傷者12名、その他負傷者5名が出ました。
 比較的細い電線を使っていた制御線が、見えないところで部材の鋭い角にこすれて溶融してしまったのです。これは製造と物理的な配線の問題。ただし運行制御にも問題があり、モータ制御器は、2本ある上りと下りの司令線が、どちらもオフだったら、直前まで覚えていた方向を維持するようになっていたのです。事故を起した列車の車両は2000系、以前の1000系ではなかったモータ制御器のメモリ機能でした。
 なぜこのメモリ機能を追加したのだろうと考えました。上り下りの方向指示がない時に、とりあえず前の方向を維持して良いのは、途中駅だけです。確かに走行中に方向指示信号を乗せた電線が切れる、あるいは他の理由で方向を見失ったとき、このメモリ機能で途中駅で停止しても、発進は正しい方向を向きます。この理由でメモリ機能を追加したのなら、折り返し駅では逆走の原因になると、なぜ気づかなかったのでしょうか。

 もっと問題なのは、損傷モード影響解析、Failure Modes and Effects Analysis (FMEA) をやっていなかったことです。FMEAは、設計段階で個々の部品の損傷確率と、各部品が損傷した時に何が起こるかを解析し、高い確率で大きな被害が出るとわかったら、事前に対策を行うために行う解析です。このほかにも、解析途中で「もし○○が損傷したら」を分析しながら、その損傷が致命的な事態を引き起こすきっかけにもなることに気づかせてくれます。
 今回のシステムでは「もし、方向司令を出す制御線が切れていたら」、「途中駅では問題ないが、折り返し駅では逆走する」とわかったはずです。金沢シーサイドラインの運行会社は、事故後もこのFMEAをやっておらず、国土交通省にやるよう指導を受けています。事故解析は、やったという記録を残すことが大事です。事故が起こった時の対処、それに訴訟をされた時にきちんとやることはやっていたということの証拠です。やるべきことをやらずに事業をやっていた、では許してもらえません。



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