特定非営利活動法人失敗学会 |
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羽田空港衝突事故の対策を考える
「パイロットAND/OR管制官のエラー」と報道されていますが、MITのレブソン教授が書いた「セーフウェア」と言う本を翻訳出版した時に彼女が「ヒューマンエラーは事故の『原因』ではない。それは、不適切な設計/組織/教育などの『結果』である」という一文を書いていたことを思い出しました。
とあり、ヒューマンエラーで片づけてはいけない問題だとつくづく思った。その後の報道で、どうやら海保機の機長が、管制塔からの誘導路で待機する指示を勘違いして滑走路に侵入、停止したのが原因であることがわかった。 翌3日には、国土交通省が管制塔と海保機を含めた航空機との交信記録を公表した。最初に日本文を読んだが、英語で行う交信はどうだったのだろうと英文も読んだら微妙な違いに気が付いた。 問題の通信箇所だけ抜き出すと英文は以下の通りである。
で、国土交通省(国交省)が同時に公表した日本語の会話は以下の通りである。
よく見ると気づくが英語原文では「誘導路(taxiway)」、「滑走路(runway)」とは誰も口にしていなく、"C"、あるいは "C5" としか発声していない。日本語訳をした人が、それでは何のことか読む人がわからないから書き足したとの親切心からか、あるいは滑走路進入許可と勘違いしたことを強調したかったからかも知れないが、事故の原因解析で会話の言葉の中に補足しては正しい評価ができない。会話記録に脚注として入れるべきだろう。 後に "No.1" と伝えて待機中の順番を教えたのを、滑走路侵入の許可と勘違いしたとされ、"No.1" と伝えるのが禁止されたそうだが、そうではないと思う。待機の順番を知ることは重要な情報なのだと、何かの記事で読んだ。 なぜ誘導路の停止位置を "C5" とだけ呼ぶのかが疑問だ。日本語訳のように「C5 上の滑走路停止位置まで」と聞いたら普通の人間は、C5が滑走路上にあると思うだろう。英語原文にはないけど、「C5 上の誘導路停止位置まで」というべきだろう。英語では、"taxi to holding point C5 on the taxiway" あるいは日本人英語風に "taxi to holding point C5 taxiway" と言えば勘違いはなかったと思う。 管制塔の状態表示モニターには、海保機が誤って滑走路に侵入しているのを検知して画面のかなり大きな一部を黄色く表示するようになっていたが、管制官は誰も気が付かなかった。国交省は対策として、この警報だけを監視する監視員を配置するとしたが、これが忙しい管制官の中からというのだから、違う事故を発生しないかと心配である。 着陸レディになって、何もいないはずの滑走路に他の飛行機が侵入しているのを検知したら、それこそ J-アラートのようなけたたましい警報を鳴動させてはどうか。海保機は40秒間滑走路で停止していたというのだから、ゴーアラウンドの指示が間に合ったかも知れない。筆者はそれがわからないので、chatGPT に訊いてみたら、「状況による。40秒では間に合ったかも、間に合わないかも知れない」とのことだった。 いずれにしろ、起こってしまった事故を避けるために、人間の注意力を高める努力は何もしないのと同じと、失敗学では強くいさめている。海保がまた、「会話ルール」で必要最小限の会話しかしないという解決案を出している。これもまた人間の注意力を高めているようで、効果があるとは思えない。むしろ逆に聞き返すのをためらったり、人が委縮してしまうのではないだろうか。誘導路の停止位置を "C5" としか発声しなかったのが、大きな問題だったことに気が付いて欲しいものだ。 (2024年2月22日初稿、23日改訂)
【飯野謙次】 |
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