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第13回失敗学講演の旅: 富士の高嶺に雪を見る



   秋の国際大会も一段落し、秋風が強すぎもせず、 淀んだ街の空気を掃き清めてくれた11月14日、旭化成富士支社を訪れた。工場創業が昭和33年8月19日の同支社には、 従業員1,300人余りが働き、旭化成グループの旭化成、同エレクトロニクス、ケミカルズ、ファーマ、ホームズ、 その他関連会社等、独立採算を取るグループ 10数社が集まっている。それぞれのグループ会社がまた別の地区に工場等をもつのだから、 グループ全体が組織的には縦横に帯を渡したマトリクス構造になっている。
   同社は、電子基板材料、液晶用材料など、化学工業製品を幅広く扱っており、医薬品や肥料、さらには住宅技術の研究まで行っている。

   最寄駅が新富士とわかっていたので、東京駅を出るときから少しそわそわしていた。乗車したこだまが新富士駅に滑り込むと、 若い女性二人がしきりに携帯で富士の写真を撮っていた。私は降り支度をして通路に立っていたので、 さすがに一緒になってデジカメを引っ張り出すのは少しく気がひけた。 降りる間際に座席でネクタイを締めており、妙な見栄がネクタイにぶら下がって私の行動を制限する。
   到着は富士山から遠い側のホームだったので、わざわざ隣の上りホームまで行ってその姿を写真に収めてきた。 1週間前はほとんど雪もなかったようだが、その時富士山はうっすらと雪をその頂に冠り、ちょうど眉だけ描き終えたものの、 どうも満足ができずに次の工程に入るのをためらっているかのよう。 ロサンゼルスとまではいかないが、地平線あたりの黄茶色い空気がなんとも残念な風景である。私たちはこれを吸って生きているんだ。



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(飯野謙次)
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