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第71回失敗学懇談会 in 門真
松下幸之助に学び、生きた消防を体験する


>> Part 1 はこちら、

 松下幸之助歴史館から、傘をさして歩くことおよそ20分、 第2目的地の守口市門真市消防組合消防本部(以下、消防本部)に到着した。舌を噛みそうな名前だが、 右の大阪府の行政市地図を見ると理由がわかる。 地図中黒く塗りつぶした守口市と門真市は、地図中央に位置する一際大きな大阪市の北東部に隣接する北河内地域の中で、 他の行政市に比べて小さく、2つ合わせてちょうど同じような大きさになる。いただいた消防本部の 『消防年鑑』によると、二市を合わせた面積は25.01平方キロ、人口28万人が13万世帯に散らばっている。 ちなみに、失敗学会本郷事務所のある文京区は11.3平方キロで、人口19万人が10万世帯に散らばっている。
 この地域の消防を受け持つのは、私達が訪問した消防本部のほか、守口消防署、門真消防署の合わせて3つであり、 それぞれの建屋の他に2つの消防署がそれぞれ3つずつ出張所を構えている。人員構成は消防正監から消防士の消防吏員がほとんどで、 2名の事務吏員を合わせて345名。そのうち300名が三交代で100人ずつのシフトを組んでいる。

 いただいた消防年鑑にあった現況の図が、統計的数字をうまく見せていた。二市から数字を丸め、抽出して並べると:
  • 1世帯当り、平均2.2人
  • 人口密度は 1平方キロ当り、11,200人(逆算すると、一人当たり90平米)
  • 市民一人当りの年間消防費は14,620円
  • 市民812人に消防職員1人
  • 119番受信回数、平均1日に83.5回
  • 火災 4.2日に1件
  • 救急出動 1日38.4件
  • 火災による死者183日に1人
 消防本部に到着した我ら一行は、表通りに面した車庫でオレンジ色のつなぎ服に身を固めた面々に出迎えられた。 通年で同じ服を着られ、夏でもくるぶしの10センチほど上までもある編み上げブーツを着用されるという。
「慣れたら、どうということはないですよ」との言だった。
 晴れていたら裏の敷地でレスキュー訓練を見せていただくことになっていたのだが、少しく雨が恨めしい。

 まず見せていただいたのが、ファイバースコープ。蛇のように自由自在に曲がりくねり、先端に照明がついている。 使用者は、手元の接眼レンズから覗き込んで、先端が指している先の様子が見える。胃カメラと同じものだ。 次には、望遠鏡と同じ仕組みで伸びるさおの先にビデオカメラを取り付け、先端からの映像が見れるというもの。 伸縮するさおの部分はまっすぐだが、カメラを取り付けた先端部は自由自在に方向を変えられる。 こちらは接眼レンズから覗くのではなく、カラー映像がモニターに写し出される。
 これら2つの遠隔映像ツールは、倒壊した家屋やビルの瓦礫の中から人を発見するのに使用される。 中国での四川地震の後、日本からの援助隊が被災地に持ち込んだものと同じだ。 他にも、大雨でマンホールに人が流された時、闇雲に降りるのは危険だから、このさおカメラで探したことがあるらしい。
 つい先日、失敗年間2006の流水プール、吸い込まれ事故 の記事を書き終えたが、この時、このさおカメラのもう少し長いものがあれば、女児の遺体ももっと早く収容できたかも知れない (この悲劇で命を失った女児は、溺死ではなく、後頭部強打による脳幹損傷が死因であった。詳しくは、上記記事参照)。
 もう一つ、画像系ツールで役立つのが、赤外線温度計スコープだ。一寸先の見えない猛煙の中、逃げ遅れた人の体温を感知し、 要救助者をいち早く発見できるツールだ。成田空港の入国審査場前の検疫エリアを通る時に、 注意深く見ると、歩いてくる人たちを赤外線温度計カメラで捕らえ、体温が高い人をモニターしているのがわかる。 消防隊のスコープは空港のものと違い、電源などの配線はなく、独立して持てるようになっている。

 次に、巨大油圧ヤットコ(下写真左)と巨大油圧蟹バサミ(下写真右)のデモを見せていただいた。 ヤットコは開く力が40トン、閉じる力が32トン、蟹バサミは20トンまで出せるということだ。 自動車事故などで車体が大破して動けなくなった人の救出に使用するそうだ。福知山線事故でもこのような機械が活躍した。

 油圧マシンの3つ目は、望遠鏡式に伸びる油圧シリンダー。三段式になっていて、1.5メートルくらいのストロークはありそうだ。 ただし、伸ばす前も70センチ程度の長さがあり、それが入らないことにはどうにもできない。 そこで、駅ホームと電車の間などに挟まれた人の救助には、下写真の空圧座布団の登場だ。 わずかな間隙に滑り込ませ、30メガパスカル(300気圧)の圧縮空気で膨らませて救助に必要なスペースを確保する。

 デモ最後には、佐伯さんが代表して耐火フル装備をつけてみた。 かなりの重量になる上、マスクまでつけると吸気音がまるでスターウォーズのダースベーダーだ。
 佐伯さんがダースベーダーなら、オレンジ色つなぎ服の消防隊の皆さんはさしずめ地球防衛軍というところだろう。 そういえば、皆さんの顔がえらく精悍である。この人たちが私達の街を守ってくださるなら安心だ。

 考えてみると日本のヒーロー物の主人公、あるいは脇役の取り巻き軍隊は大体ピシッと制服を着用していることが多い。 イギリス発の『サンダーバード』や『謎の円盤UFO』もお国柄なのか、出演者(人形)は襟を正した格好をしていた。 それに比べ、アメリカ映画やテレビシリーズでは、悪役の側がおそろいの服をきっちり着ているのに対し、 ヒーローはラフな格好をしていることが多い。 古くは『コンバット!』しかり、『スターウォーズ』しかり、『インディジョーンズ』でもそうだった。例外は『宇宙大作戦(スター・ウォーズ)』か。 保守的なイギリスを中心とした欧州支配から脱却した反動だろう。

 デモを一通り見せていただいた私達は、消防隊の皆様に深くお礼を言い、次なる通信指令室見学に移動していった。
 その前に、休憩室で消防本部の概要説明と質疑応答の場が設けられた。休憩室に向かう廊下の両側には畳敷きの仮眠室が数室。 消防車出動というと、 2階から竹のぼりのようなポールを伝って、1秒でも早く消防車に乗り込むイメージが強かった。 右写真のように今でもそのポールは残してあるが、調べた結果、ポールを次々に伝って降りるより、 みんなで階段を駆け下りた方が早いということだ。そりゃそうだわな。あれは昔と、今ではコメディの世界のことらしい。

 通信指令室には職員が4名常駐しており、かかってくる119番に応対している。 といっても、我らが見ていた20分程度の間には、2本の救急車出動の通報があったようだった。 比例計算すると1時間に6本。24時間で144本。夜は少ないだろうから、1日平均83.5回もうなずける。 それでも通報があると、指令室にはさっと緊張が走るようだ。見ているわれらも一瞬息を止める。 指令係員は冷静に電話で対応し、コンピュータ画面を見て必要な出動指令を出している。 確かに119番を受けた人がパニックを起こしていたのでは、おちおち怪我もできない。

 こうして内容の濃い見学会が終了した。改めて、三田さん始め守口市門真市消防組合消防本部の方々にお礼を申し上げます。

(いいの・けんじ)




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