特定非営利活動法人失敗学会 |
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>>会員用フルバージョンはこちら Part 3 はこちら>> 第68回失敗学懇談会、愛知 岐阜 (Part 4)かがみがはら航空宇宙科学博物館を出たときは小雨がぱらつきだした。 “ふれあいバス”に乗り込み、木曽川のしずかな流れを眺めながら、 名鉄犬山線新鵜沼の駅に向かった。駅が近くなると木曽川の向こう岸に国宝犬山城が姿を覗かせる。 戦国時代に城主が次々に変わり、今では天守閣のみ、伊勢湾台風後に解体修理された形で残っている。 姫路城、松本城、彦根城とともに国宝4城の1つである。 遠目に見ても心惹かれるその城にずいぶん近づいたのに登らなかったのは少し残念だった。 名鉄の車両に乗り込むと、土曜から参加組と待ち合わせの栄生(さこう)駅までは30分余りで到着した。 ここで本懇談会計画の失敗が露呈した。 駅と言えばすぐ近くに食事をするところがあるだろうと思っていたら、 それが見当たらなかった。しばらく探した末、仕方なく目的地の産業技術記念館に入った。 ここで少しもたもたしたため大事な見学時間が少し減ってしまった。各自の判断で技術館の中でホットドッグなど食して昼食とした。 これが大人たるゆえん。少なからずホッとした。 産業技術記念館には90分の見学時間をとってあったのだが、これが全く足りなかった。 この展示館がこれほどまでに見るものが豊富だとは思わなかったのである。 トヨタと言えば今は自動車の代名詞のような感があるが、 グループ創業者は豊田自動織機の豊田佐吉である。 1867年、今の静岡県に生まれた豊田佐吉は1890年、弱冠23歳で豊田式木製人力織機を発明。 その後次々と新しい機械を発明し、1926年、株式会社豊田自動織機製作所を設立。 1930年、63歳で世を去る。記念館に入ってすぐのところにその胸像と自動織機が飾ってある。 さらに歩を進めると、技術者にはたまらない巨大スペクタクルの入口だった。 展示はまず、蚕の繭から糸をつむぐところから始まる。 製鉄であれば、さながら高炉に鉄鉱石と石炭を放り込み、下から銑鉄が出てくるところから見せてくれるのと同じだ。 これは勉強になる。次に手動の機織り機で布を作るところだ。 ちなみに機(はた)は、織物をつくる機械という意味。 だから“はた織り機”というと、Machine for Weaving Machine と機械の意味が2つ重なって妙な日本語になる。 “はたおりキ”という湯桶読みを容認した時点からこうなってしまったのだろうが、 「おおい、あの“はた”を動かしておいてくれよ」と言われても、 「なんでまた、こんなに忙しい時に旗を動かしたいんだろう」と漫才になってしまう。 妙な日本語かも知れないが、機織り機と言われると何のことだか万人に伝わる。 繊維機械館の圧巻はなんといっても環状織機(かんじょうしょっき)だろう。普通の機は平面状の布を織るが、これは円筒状の布を織り上げる。 豊田佐吉渾身の作、天才的才能の発現などと言われているが、ネットには市販に至らなかったという記述もある。 平布を織る機では横糸が往復するが、これは横糸がらせん状にぐるぐる回るのだろう。 恩返しをした鶴なら、中央部に陣取って機を織ることになるから与平(よひょう)に見られずに幸福な一生を終えたかも知れない。 ただし、休むまもなく回転し続けたら目を回して倒れていた可能性もある。 しかし、横糸が一箇所切れてほつれ始めたら、環状布全体が存続の危機にさらされる、と無粋なことまで考えてしまった。 今回はタイミングが合わずに見れなかったが、次回訪れた時は実動デモを是非見よう。 設立当時から活躍した自動織機を大切に保存、しかもいくつかはいつでも動かせる動態保存してあるのはさすがだ。 余裕がなければそんなことはできない。 トヨタ自動車工業の設立は1937年。創業は第2代社長の豊田喜一郎。豊田佐吉の長男である。 1929年、35歳の喜一郎は自動車事情視察のために欧米を訪問、翌年小型ガソリンエンジンの研究を始める。 1933年、父親の豊田自動織機製作所内の自動車部設置を経て、1937年トヨタ自動車工業(株)の設立となるが、 初代社長は喜一郎の12歳年上の妹婿、豊田利三郎であった。 写真は、まだ豊田自動織機製作所自動車部だった1936年に完成した3,400cc のトヨダAA型乗用車である。 2つ目の大展示室は、そのトヨタ自動車工業の歴史を展示している自動車館だ。 ここでも実に丁寧に来訪者に自動車作りを教えてくれる。 下の写真は、エンジンのシリンダ中に噴射されたガソリンと空気の混合気の爆発と排気により、 絶えず往復運動をくり返すピストンの動きを回転軸に伝えるピストンロッドという部品の製造の様子である。 もちろん加工条件などは、安全な展示のために大きく落としている。 加熱、高周波焼入れ、鍛造など各工程で加工がされる様子を訪問者に説明している。 子供に見せても理解は難しいだろう。しかし、鉄を焼くと赤くなること、叩くと思う形に変形できること、 それには大変大きな力で叩かなければならないことなど、記憶葉の奥深くに仕舞い込まれればその子の将来の成長に大いに役立つ。 筆者が子供の頃は、社会見学というと寺や神社にやたら連れて行かれた。 友達とのおしゃべりや、その日のお菓子がもっと大事な時代だったが、子供なりに平安神宮が赤いこと、宇治平等院が10円玉にもあること、 そしてなんとも言えず美しいこと、 さらに清水寺では山の湧き水に狸のオシッコが混じっているかも知れないこと(これは引率の体育系松本先生の言)など、 いまだに覚えており、大人になってからこれら名所を再訪すると思い出すのが驚きだ。 見学はまだまだ続くが、時間がなくなって集合場所に行く羽目になった。 この産業技術記念館は、名古屋駅から一つの栄生駅が最寄だが、名古屋駅から北に歩いても20分から30分くらいでたどり着けそうだ。 今度時間を作って、名古屋に立ち寄った時は是非とも再び訪ねよう。 今回の懇談会は、行程の最後にビール工場見学を持ってきた。 以前、ナルックス社訪問の前にウィスキー蒸溜所を見学して試飲ができなかった苦い経験からこのような計画になった。 人はやはり失敗に学ぶ。 2日間のきついスケジュールを終え、試飲室に入った我々は実にリラックスして生ビールをおいしくいただくことができた。 案内をしてくださったお嬢さん、後藤さんには缶ビールのおいしい注ぎ方まで教わった。 右上写真の右後ろに、心霊写真のように写っている御仁を見ると、如何にゆっくりと注ぐことが大切かがわかる。 最後の写真に大澤会長製作のプラカードに御登場いただいた。このビール工場見学待合室で誰かがこれを持っており、 「失敗学会ってなんですか?」と尋ねられていた。 聞かれた人がどう答えていたかは忘れてしまったが、この名称が思わぬ会話のきっかけとなることが多い。 以前は「産業事故などの原因を解明し、そこから知識を・・・」などとまじめに答えていたが、 今では、「大人の社会見学と飲食の会です」などと返す。「面白いですよお。いっしょにいかがですか」と勧誘も忘れない。 事実この会は面白い。あまり堅苦しくなく、各人がその中でどう活躍しようが、あるいはただいるだけでも、 全くの自由に任せられているのがいいのだろう。そして、会の中にかなりの人脈を持っておられる人も多いので、 講演会、見学会も普通には聞けなかったり、できなかったりすることを経験できて実に楽しい。 そしてその恩恵を受けて、さああなたが還元する番ですよというプレッシャーもない。 個々の参加者がそれぞれの中で「ああ、楽しかった」と思えればそれで会としては大成功だろう。 今年5月のイベントを報告するのに、ずいぶんかかってしまった。今はもう来年5月の計画が進行中である。 2010年の春の懇談会が今から大いに楽しみだ。 (完)
[ 飯野謙次 ]
なお、交信の始まりが一番下、上に行くほど新しいメールです。
From: 大澤
愛知地区の"日本の工業ツアー・・・”と銘打った春の地方懇談会に参加されたSさんから、 参加してよかったとのお礼のメイルが私宛に来ました。 ご参考までに、当方とのやり取りを含めて転送します。
大澤様 お世話になります お返事とてもうれしく拝見しました。 今回の見学は、私には技術的にかなり高度すぎましたが、 みなさんのお話をうかがうことで、そうか、こんな思いの込められた技術なんだ、 と私なりに受けとめることができる部分もあり、とてもありがたく思っておりました。 大澤様のメールを拝見してますますその思いを強くしました。 どんな技術も、それを生み出した人の思いがあり、また守ってきた人の思いがある、 そんな時間の流れの重みをも感じさせてくれた体験でした。 感謝をこめて。S S 様 ご丁寧なメールを有難うございました。 遠方からの参加にお礼申し上げます。 私も中部電力資料館は、もともと学校で電気を習った当時の製品や発電所、 入社当時の水銀製整流器(俗称たこ)の製品が続々と展示されていて旧友に会うように感激しました。 6月に札幌で同窓会があり電気のクラスメートに会いますので、そこで見せようと資料館内の写真を撮りました。 また、豊田佐吉の手動織機から自動織機に至る発明の歴史的製品の実演は、興味深く豊田佐吉の卓越した発明に触れられたことで、 シニアながらも胸がおどりました。 大澤 大澤 勲 様 おはようございます、失敗学会ツアーでお世話になったSです。 ツアーでは大変お世話になり、ありがとうございました。 思いをもって集っておられるみなさまとご一緒させていただき、 とても充実した二日間を過ごさせていただきました。 また、中部電力資料館など、普通ではできない貴重な体験をさせていただきました。 いつか、会社の若い人たちと、みんなでトヨタなど見学にいけたらいいなーと思いました。 ほんとうにありがとうございました。 |
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