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原子力に真の安全を

 マスコミの問題点は、本当に困ったものです。 失敗学会に参加されている優れた記者がいると思うと皆がそうではなく、 ひどい例もあります。
 例えば、ある全国紙の朝刊2面に、20km以内の放射線量調査データを図面で表示したその下に、 被曝の大きさの目安と言う解説のグラフを掲載されていました。
 線量調査結果の数字の単位は、「マイクロシーベルト」で、 そのすぐ下の被曝の人体への影響の大きさの目安は、「ミリシーベルト」です。 最初よく見ないで読み、とんでもない測定値のように思えて、 驚いて虫眼鏡を使ってよーく確認したのです。 すると、小さな文字で「マイクロ」と書かれていました。

 本日午後、駿河台中央大学記念会館で、日本人間工学会の緊急会議が開かれて、 専門家の集団として今できることは何か、 という意見交換会に出席してきましたが、専門家にできることは、 正しいデータを報道することに協力することかも知れませんね。 ただ恐怖感を煽るような報道を慎むことと、それをできるような知識と倫理観を専門家の立場から指導し、 あるいは監視するくらいの気迫が必要でしょう。

 人間工学会員の立場でも、福島第一原発で起きた現象を「事故」扱いにして、 当事者企業に賠償責任や倫理的責任を押し付けるやり方は、 間違っていると思います。当該企業が一番の被害者の様に思います。

 責任追求ではなく、このような大きな災害にも耐えられるようなリダンダンシィを備えていなければ、 「原子力は安全です」と言ってはいけないという発想で、如何にすれば原子力発電を信頼して安心して貰えるか、 というポジティブな発想をとるべきであるという考え方を、社会に発信していくべきではないかと考えています。

 現に、航空分野では、1952年に就航した夢のジェット機コメット号の失敗を徹底的に分析した結果、 「フェールセーフデザイン」という発想に到達し、 それをさらに改良して「ダメージトレーランスデザイン」へと発展させ、 現今では、「ワーキングトゲザー」という、ユーザを設計に巻き込む思想が採用されるようになりました。
 これが「人間工学的な」アプローチではないかと思います。事故が少なかった原子力分野では、 これから数少ない事故から教訓を得て改善していくのです。これを墓石安全と言っています。 大きな犠牲を払ってから改善するからです。

 これに対して、予防安全という手法が現在では安全対策の主流を占めています。 何も起こらないうちに問題点を探求して、それを改善する手法です。 しかし、大事故を経験していない分野では、はじめからこれが機能していたかのような錯覚に陥ります。

 「原子力は安全である」と頭から主張する姿勢にそのことが伺えます。因みに航空分野では、 「3つの真理」として、(1)空は危険である、(2)自然の法則は変えられない、(3)人は誰でも間違える、 ということは関係者全員の常識となっています。 ここが大切なのではないでしょうか?航空事業は、大きなリスクを抱えているのです。 そこが原点です。それを忘れてはいけないのです。

 (1)を原子力は危険であると入れ変えるだけで、原子力分野における3つの真理に入れ替わります。 これを大切に安全対策を実践していくことによって、次第に国民の信頼を得て、 安心して原発を運転できる日が来るのではないでしょうか? 日本の航空分野では、25年間も人身事故ゼロの実績を継続しています。 全日空においては39年間、雫石事故以来死亡事故を起こしていません。
 現在では、飛行機が怖いから乗らない、と言う人は極減しています。 この無事故実績がそれを勝ち取ったと言っても過言ではないでしょう。

 原子力分野でこれができない筈がありません。今、頑張っている現場の関係者を責めてしまっては、 改善の意欲も何もすべてスポイルしてしまいます。 逆に、あの想定外の災害の中でよくもここまで安全を守ってくれた、と褒めて欲しいのです。 現場を守った人々は英雄です。あの、ハドソン川のサレンバーガー機長にもましてヒーロー扱いされるべきです。 その経験から、再発防止対策をこの機会に確立して欲しいのです。
 頑張れニッポン!頑張れ原子力!です。

 吉岡さん、飯野さん、正しい情報を社会に発信することを是非とも続けて下さい。
 失敗を二度と繰り返させないためにも!
【組織行動分科会会長 石橋 明】


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