特定非営利活動法人失敗学会 |
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不思議報道とその魔力我らの注意を引いたのは、原子力安全基盤機構の研究報告に関するくだりで、 『15メートルを越える津波で全交流電源喪失、炉心損傷がほぼ100%起こる』 と警鐘を鳴らしていると言うのだ。 ここで、読者は5月9日付けの 吉岡メモ第36報を読み返していただきたい。 このメモの冒頭、吉岡さんはこう書き記されている、 『原子力安全基盤機構の研究報告の予測シナリオと、今回の福島原発事故とを比較しました。 結論から言うと、殆ど今回の福島原発事故を予測したような報告書です。』 前述、産経新聞の記事ではこの事実が明らかになったのが5月30日としているとのことだ。 失敗学会のHPアクセスをカウントしてみると、吉岡メモの掲載を開始してから、 それまで日平均 700程度だった Visit 数が今や日平均 3,000以上と大きく躍進した。 なお、Visit数 とは Hit数と違い、訪問した人の数に近い数字である。 吉岡メモを参考にしている人は多い。 しかし、失敗学会のホームページに掲載された情報が、“明らかになった”こととはならないのは残念だ。 残念ではあるものの、多くの人がその情報を目にし、役に立てているならそれで良しとしよう。 私たちが注意しなければならないのは、安易に世間を驚かす言葉を使わないことだ。例えば、 「メルトダウン」と騒がれ始め、それが定着したかのようだが、 吉岡メモ第42報にあるように、 原発で melt というときは二酸化ウランが溶融する約2800度に達したということだ。 燃料ペレット(吉岡メモ第7報参照)は、 ジルコニウム合金の被覆管に守られているものの、 そのジルコニウム合金は700度程度で融け始める。そうすると、燃料棒内の二酸化ウランペレットはバラバラになって落下する。 それも使い古しの燃料棒の場合、最初のペレット形状を保っていることはなく、かなりのひび割れを起こしている。 米国、テネシー州オークリッジ国立研究所の報告書 4、5ページ (ここをクリック)には、 MOX燃料だがその様子を写真撮影した画像があるので、こちらも参照すると良い。 残念ながら、同報告書第1ページには、内容の転載は米国連邦政府の目的に限るとあるので写真を本ページには再掲載できない。 日本で英語が勝手に一人歩きを始めることが意外に多い。失敗学に関する言葉で言えば、インシデントとアクシデントの使い分けだろう。 元々の incident という言葉は accident や故意によるものも含めた“できごと”を意味する包括的言葉だ。 決してできごとのうち、事故にならなかったヒヤリハットを意味するものではない。おそらくはどこかで英語圏の人が "It was an incident, but not an accident" と言ったのを耳にして、2つの言葉が排他的と勝手に勘違いしたことに起因しているのだろう。 勝手にカタカナ英語の意味を変えて使うと国際社会で思わぬ勘違いが起こってしまう。 本記事では、メルトダウンはなかったと断言するものでは決してない。現時点ではそれはわからないのではないかと疑問を投げているだけである。 冒頭の新聞記事では、5月30日に明らかになったのではなく、記事執筆者の知るところとなったというのが正確だろう。 吉岡メモ第36報も、 その原子力安全基盤機構報告書の内容を示して、事前にその危険が知れていたと初めて明らかになったとは決して書いてはいない。 つまり、誇張やゆがみがないのである 失敗学会HPも、人が注目する情報発信源となった。これまでにまして情報を正確に伝えるよう、心しなければいけないと思った。
【飯野謙次】
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