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失敗年鑑2007: エキスポランド、ジェットコースター事故

 2007年こどもの日、大阪万博記念公園に隣接するエキスポランドで凄惨な事故が発生した。 おざなりの保守のため、 気づかれず放置されていた車両不具合が、乗客を乗せて実走中に車輪ブロックが脱落するという事故を引き起こした。 バランスを失った車両は大きく傾き、乗客の一人が軌道脇の手すりに頭部を強打して死亡した。


 私たちは高い入場料を支払い、長蛇の列で待たされることも厭わず遊園地の乗り物に乗る。 目的は、普段では味わえないスピードとスリルに己の身を委ねて叫び、 同乗した友達とその興奮を分かち合ったり、笑ったりしたいためである。 これは基本的に“移動”や“景観鑑賞”を目的とした通常の乗り物とは違う。 また、宇宙ロケットや深海艇、戦争用車両、速度記録達成のための特別車両などとも違い、 乗客に“危険”を意識させることが重要である。 そしてその“危険の錯覚”が強ければ強いほど、よりスリルのある人気アトラクションとして位置づけられる。
 乗客に危険を意識させる目的があるので、車両を通常ではないような速いスピードで大きな曲率のカーブを走らせたり、 急激な上下動をさせたりする。乗客は、表面は柔らかいががっしりした保持器具で動きようがないほどに固定される。 これは、普通には体験しないような上下や左右の加速度、G-フォースに振り落とされないためである。 当然、車両も同じように大きな加速度にさらされ、部材には通常の設計よりも大きな負荷がかかることになる。
 ディズニーのアトラクションや、このところ人気が沸騰しているシルク・ド・ソレイユ舞台装置の設計者は、 安全率を 10に設定するという。機械の設計では変動・衝撃荷重下では Unwin の安全率表より 12が一般的である。 事故を起こした風神・雷神IIの設計がどのようになされたのか設計書が気になる。
 しかし、はっきりしているのは運用者による保守の不備である。磁粉、超音波、 もしくは探傷試験用浸透液を用いた車軸の探傷試験が義務付けられているのに、 目視でその状態を確認して良好と報告することを 15年間も続けていた。 保守検査の意味を、 そしてアトラクション用乗り物の車軸が人の命を預かっていることを考えなかったと言わざるを得ない。

 多くの事故や不祥事は、私たちが形式に囚われ過ぎていることに起因している。 もちろん、設計教育は先人の設計を真似ることから始まるが、 形をなぞるだけではなく、なぜそういう設計になっているか考えることが肝要である。 そうして初めて、自分で何かを設計するときや機械を運用して事業を行うとき、 やらなければいけないことが自ずとわかるものである。
 やらなければならない保守を確実に実行するために必要な収益を上げることができなければ、 その事業に手を出してはならないのである。

飯野 謙次
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