特定非営利活動法人失敗学会 |
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(会員用フルバージョンはこちら )失敗学フォーラム 106 in 大阪報告(参加費 一般 1,000円、失敗学会員 500円、大阪分科会員 無料) 13:00 近鉄吉田駅集合、 タクシー移動フジ矢株式会社加納工場 13:20 鍛造工程見学 14:00 本社へ移動(タクシー) 14:20 本社工場 ペンチまたはニッパー工程見学 15:30 フジ矢代表取締役野崎氏のお話 16:00 大阪分科会打合せ 17:00 終了 18:00 シルクロードウイグルレストラン ムカーム(5,000円) 参加者: 小川正,岡田敏明,平松雅伸,大澤勲,岩崎雅昭,飯野謙次,小田烈弘, 久野裕介,中根和誠,木田一郎,長田俊彦,福井則夫,薄知香志,斉藤貞幸, 野村明宏,藤井信彰,大島泰子,佐々木英三 かねてから本多さんに“東大阪の工場、おもろいよお”と聞かされていたのだが、その見学がなかなか実現しなかった。 東大阪は、花園ラグビー場を擁するほか、中小企業の技術力で知られてる。 関東で言えば東京大田区だが、2つの地域には微妙な違いがあるようだ。 幸運にも今回、ペンチのフジ矢さんが土曜出勤の週に当たり、この見学が実現した。 事前に調べてみると 1本1万円近いペンチまで生産する工場だった。 高級クラブで鼻息荒いおっちゃんが、「ねえぇ、」ってせがまれてドンペリをオーダーするのとはわけが違う。 今や100円ショップでも買えるようになったペンチを、見栄を張って気前よく買っても、何を期待するのだろうか。 その秘密を知ろうとわくわくして出発した。 新大阪から御堂筋線、中央線、近鉄けいはんな線と乗り継ぎ、30分以上かかって近鉄吉田駅に到着。 集まった18人は、4台のタクシーと本多さんの自動車に分乗して加納工業団地へと向かった。 家にある機械を分解と称して壊したりすることに興味を持ったのは、小学校高学年のことだったと思う。 体験学習という高尚な目的を持っていたように思うが、哀れな生贄マシンは確実に壊れたし、大工さんの真似をして打った釘は十中八九途中で曲がった。 玄翁(げんのう)と違って金槌は、釘を打つことと、それを引き抜くという2つの機能を持っていたが、 ペンチは針金を切る、曲げる、潰すの他に、金槌の代わりとなって釘を打つことに使えたり、釘を抜くだけではなく、 力ずくで回そうとして溝を潰してしまったねじの頭をつかんで回したり、 とにかく道具入れのなかでも大事な一品だった。 ただ、我が家に長年居続けたペンチの色はくすんだ濃い茶色だったし、写真のようなきれいな握り部を覆うビニールもなかった。 1984年夏にアメリカに渡った私は、必要に応じてねじ回しや金槌など1つずつ工具を買い足していったが、 驚いたことに、ハードウェアショップに見慣れたペンチはなかった。似たような道具はあったけど、 釘は打てそうにもなく、なんとなく弱々しそうだった。 ちなみに“ペンチ”に対応する英語はない。ネットで見ると、英語の pintch やフランス語の pinces が語源ではないかと推測されている。対応する英語を無理やり引っ張ってくると、 pliers となるが、pliers といわれて思い浮かべるのは、Wiki にも出ているこの右の写真のようなものだ。 日本のカッコいい多面体風ヘッドを持ったものを画像ベースで探してみると、"Combination Pliers"、あるいは、 "Linesman Pliers" と呼ばれている。 フジ矢さんのお計らいで、加納工場で鍛造、本社工場で機械加工、組み立て、熱処理、仕上げ、 検査と全ての工程を見せていただいた。炭素鋼の丸棒が、切られ、熱せられ、 どつかれて写真の状態になり、組立工場に運ばれる。 失敗学会で、日本中のいろんな製造業を自分たちの目で見てやろうと活動を始めてから、 鍛造を見る機会が多い。大は 神戸製鋼さんの 8,000トンプレス()から、 変わりどころでは、和釘鍛治師の 白鷹幸伯さんに和釘の鍛造 ()を体験、させていただいた(こちらは一般公開記事)。 8,000トンの床をも揺るがすドーン、ドーンも、和釘のカン、カン、カン、カン、カン、も何度も叩いて鍛えていたのだが、 こちらはドカン、と一発かせいぜい二発。熱せられて黄色オレンジに発光している部品を、巨大ヤットコのようなもので、 型の上にかざして一気にドカン。涼しい顔でなんでもないようにやっておられたが、この鍛造が実はずいぶん難しいらしい。 本社工場では、上記機械加工以降の各工程をずいぶん丁寧に見せていただいた、それも3班に分かれて各グループに一人の説明要員がついてくださったので、 いろんな質問ができた。あちこちに海外工場の作業員を教育している姿も見られた。工場内部の写真は撮ってもよく、 見せていただいたテレビの取材でもおおらかに応えておられた。技術は見られても盗まれないという自信だろう。 最後の仕上げ工程がうわさに聞いていた、“最後にカンッ!”ってやつだった。なるほど、 素人ではどこをどう叩けば良いかわからないし、下手をすればお釈迦にしてしまう。 それまでは、知らなかったのだが、ペンチの切り刃は、左右がピッタリ合わないように造るのだそうだ。 これには正直驚いた。事務所に戻って日本製を見ると、確かにそうなっていた。 日本の技術、恐るべし。そのように切り刃の合わせも見ながらの仕上げ工程だそうだ。 見学後、三代目社長の野崎恭伸さんのお話をうかがった。29歳で社長に就任されたとのこと。 1本、1万円近くの秘密は以下の言葉で納得できた。 『ペンチは実は耐久品ではなく、消耗品。100円ショップで買ったものでは、すぐ駄目になって役に立たない。』 なるほど、電工職人が欲しがるわけだ。 一般家庭での使用感覚で測っちゃならぬと思った。今度お世話になった工学系の方には、フジ矢さんのペンチを送ろう。 どやどやと押しかけた私たちに丁寧な見学をさせていただき、ありがとうございました。 この場を借りて、改めて御礼を申し上げます。 さて、この日の懇親会では一味も、二味も違った趣向が用意されていた。 新疆ウイグル自治区からはるばる来られ、大阪ミナミの繁華街にウイグル料理のレストラン、 ムカームをでオープンされたジャミラ・ウライム(Jamila Urayim)さんの踊りを鑑賞しつつ、ウイグル料理を食べる予定だった。 何とかたどり着いて、一目見て、なるほどファンになること間違いなしとあの先生がおっしゃるもの無理がない。 美しい方なのだ。そして気づいたのが、中国というより、中東という雰囲気だった。 料理も、ジャミラさん始めお店の方々もまたそうなのだ。 ウイグルを紹介するパワーポイントを見て、人々が望むのは平和と幸せなのだとつくづく思った。 ウイグルと内モンゴルは、以前良く中国からの独立を目指した運動で国際ニュースをにぎわせていた。 今はどうなっているのか、私たちにはよくわからないのが現実だろう。 どうなっていくにしろ、平和に文化交流ができるよう、合掌。
【飯野謙次】
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