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提 言


 2011年3月11日に岩手県沖から茨城県沖を震源とするマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震が発生し,引き続き巨大津波が発生しました.この東日本大震災による死亡者,行方不明者は1万8千人を超えました.
 津波被災者には身体的理由,地震による負傷や建造物の崩壊のため逃げたくても逃げられなかった人がいましたが,津波は来ないと思っていた人や来ても防潮堤や建物に守られると安心して逃げなかった人も多くいました.また,家族の安否を確認しようとして津波にのまれた人や人命救助の勇敢な行動で落命した人もいました.その一方でハザードマップなどの予測に頼らず,愚直に先人の教えを守り,高所に逃げて助かった人も大勢いました.
 三陸地方には大津波の脅威を伝える石碑が数多くありますが,それでも石碑や口承による戒めが多くの人の心に浸透していなかったのが残念でなりません.世代交代や他所からの移住の結果,そこに住んでいる人達の中に大津波を自分の身にも起こり得ることとして考える切実感が薄れてしまったのではないでしょうか.
 人の知恵には限度があることや人間が自然と共存して生きていることをいやでも思い起こさせてくれたのが東日本大震災でした.命を亡くされた方々の御冥福を祈ると共に,今回の大災害を無駄に終わらせず,津波の教訓を後世に伝え子孫への戒めとするために,私たちは今回の東日本大震災で被災した遺構を一部でも保存することを提案します.
 災害遺構の保存について,現在被災地では賛否両論があります.辛い思いを呼び起こされるので早く壊して欲しいという意見と津波の教訓として遺構を残すべきだという意見です.しかし,遺構を残さなければいずれ津波の記憶は薄れ,教訓も消えてしまいます.
 辛いことではありますが,これらの遺構を残すことで,災害の教訓が世代を越えて人々の心に生き続けることを願ってやみません.
2013年6月11日
失敗学会会長 畑村洋太郎
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