特定非営利活動法人失敗学会 |
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長瀬ランダウア失敗学連載 3第2回 失敗対策はどう打つか
失敗学会 副会長・事務局長 飯野謙次 いつからのことだろうか、私たちは緊張感の非常に高い社会に住んでいるように思う。平凡な私たちは、そう気にしなくてもよいのかも知れないが、少し世間様に名が知れると、ちょっとした言葉使いの誤りで、やいのやいのと責められ、自分が平身低頭する姿を電波に乗せて全国に配布しなければならない。何をやるにしても“正しい”様式があって、それに従わないと小言をいただくこともある。 工学者にとっても1995年7月に施行された製造物責任法、いわゆるPL法以来、無責任な設計はできなくなった。 僕は少し緩い昭和に生まれ、土曜は半ドンで学校に行ったが、辛いと思ったことはなかった。学校は近所の同じ年齢の子供たちが集まって、遊ぶ算段をするためのものだと思っていた。そろばんと習字は習ったが、学習塾というもの自体存在しなかったと思う。 この生き方によくマッチしたのが、四代目林家小染さんの「怒りないなぁ」である。今ネットでみると、酒飲みが度を過ぎて他界されてしまったようだが、この言葉は今でもよく思い出す。 1月号に、自動運転について触れたが、これも目指すことは、交通事故の激減である。過渡期を経て完全にできるまでは2、30年はかかりそうだが、完全自動運転が実現したら、大きな社会問題が起こるだろう。夜の街で酔っ払った上、運転して帰宅する人が確実に増加する。運転して帰れるのだから、酒量が度を越えた人で繁華街はあふれ返るかも知れない。 ところ変われば法律も変わり、アメリカでは数値が厳しくなったものの、少量の酒気帯び運転はかまわないとされる。それだけが取りざたされるのはおかしな話で、公の場で“酔っ払って”妙な言動を取れば、有無を言わせず、逮捕、勾留される。 以前、夜の日本人街を歩いていたら、奇声を発しながらよたよた歩いている御仁がおられ、たまたま通りかかったパトカーが U-ターン、2人で下りてきた警官が、質問もほとんどせずにいきなり手錠をかけ、パトカーに押し込んでいた。ここでは人に迷惑をかけないということは道徳ではなく、法律なのである。だからアメリカでは、自動運転が実現しても、街が酔っ払いであふれかえる心配はない。 人が生き易い社会を目指すのは結構だが、基本がシュッと筋が通っていなければならない。他所の緩さだけを真似していては社会の崩壊を招く。 失敗学会でも、設計者や企画者が仕事をする上でよい環境作りを目指している。ただし、たがを緩めるのではなく、気付かず安全を踏み外しそうになる人の肩をたたいて、「大丈夫ですか」と気付かせてあげるのが目標だ。これをどうやって実現するかを説明しよう。 1月号では、人間の創造活動に使う分割統治法について説明した。事故が起こる、すなわちもくろんだ設計や企画が失敗に終わることをこの手法でみると、要素機能の一つを請け負った構造要素が、その要求機能を果たさなくなったところから始まる。そしてその破綻が機能領域を左に、構造領域を右に伝播して、製品が提供していた要求機能の関係が破壊される。この機能と構造の要素から製品とその要素機能にいたる損傷の伝播を「失敗の軌跡」と呼んでいる。製品の失敗は、必ずどれかの要素間ペアの破綻から始まる。参考のため、図に2012年に発生した笹子トンネル天井板崩落事故の失敗の軌跡を赤い太線で示す。この軌跡の起点は「ボルト固着」と「エポキシアンカー」の間のリンクである。 図 笹子トンネル天井板崩落事故失敗の軌跡
一方、2月号で紹介した失敗知識データベースには、1,000件以上の事故データがある。これらデータを収集した時は、失敗の経緯を記述する「失敗のシナリオ」に重点を置いていた。今、失敗の経緯よりも、設計者が設計をした時の思惑、すなわち思考展開がどうであったか、そしてその展開の中で、機能・構造の要素ペアから始まり、全体に伝播した失敗の軌跡は何だったのかを見直している。 新しい設計や企画に組み込まれた要素ペアは、せいぜい10か20くらいだ。そして要素ペアが決まれば軌跡も決まる。それらをすべて、失敗知識データベースに蓄えられた1000件以上の、実在した失敗の軌跡と自動比較すれば、設計者が思いもしなかった新しい設計の弱点を指摘できる。 世の中が平和になっても、個人がぎすぎすしていたのでは疲れてしまう。欧米先進に比べると、私たちの勉強不足ももっともだが、もっと楽しく学べる環境を築きたいと思う。そうすればいいアイデアも生まれるに違いない。 |
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