失敗事例

事例名称 利害の衝突、私的団体標準化へ
代表図
事例発生日付 1971年04月12日
事例発生地 アメリカ、シカゴ
事例発生場所 シカゴでの夕食会
事例概要 ボイラー用安全装置を扱うA社の職員が、当職員と面識のある米国機械学会C小委員会の副議長と共謀して、競合するB社の安全装置が関連する米国機械学会Cの規格を充足していないことを証明するよう仕組んだ。そして、A社のセールスマンが、それを利用したことにより、B社を破綻へと追いやった。B社は、米国機械学会C副議長個人の役割が公になった後、米国機械学会CとA社、他関連会社を独占禁止法違反で訴えた。この事件は、強い経済的影響を有する公的団体である米国機械学会Cがずさんな運営をしており、その規格設定団体の当事件担当小委員会の役職を兼任する者が自分が関係する会社のために行動したことにより利害の衝突が発生(図2)。米国のあらゆる規格及び基準設定の概念を大きく変えた事件である。
事象 ボイラー用安全装置を扱うA社の職員が米国機械学会CのBPV(ボイラー及び圧力容器)規格委員会に競合するB社の安全装置が関連する規格を充足しているかの解釈を要求し、A社の職員と面識のある米国機械学会C小委員会の副議長がこれに返答。その後、A社のセールスマンが、B社が米国機械学会CのBPV規格に充足していない装置を販売しているという証明にその返答を利用したことにより、B社は破綻をきたした。B社は、返答した副議長個人の役割が公になった後、米国機械学会CとA社、他関連会社を独占禁止法違反で訴えた。
経過 1971年4月、A社の副会長であり、米国機械学会C小委員会のメンバーで本件安全装置の規格の発案や改正に携わっていたA氏と当会社の職員であるB氏が米国機械学会C小委員会の副議長であるC氏と夕食会で会い、B社の安全装置について審議。B社は遅延手段を用いた電子低水位燃料供給遮断装置で低水位遮断バルブ市場の重要な顧客をを勝ち取った。B氏は、B社の遅延手段が米国機械学会CのBPV規格に違反していることを釈明すれば、A社が安泰だとジェームス氏に相談を持ちかけたのだ。その後、A社は、B社の安全装置に関する手紙を正式に米国機械学会C委員会に送った。手紙は副議長のC氏に回され、低水位燃料遮断は即座に行われなくてはならないという返答が出された。C氏はコネチカットのD検査・保険会社の副会長でもある。そして、A社のセールスマンが顧客に対して、B社の製品を購入しないように勧めるために該返答を用いたことにより、B社は事業を維持できるだけの市場進出の場を得られずついに破綻を来たした。B社は米国機械学会Cに該返答の訂正を求めたが、もとの手紙の起草に関する副議長個人の役割が公になった後、シャーマン法違反で米国機械学会C、A社、そしてD社を提訴した。A社とD社とはそれぞれ75万ドルと7.5万ドルで和解が成立、米国機械学会Cに対しては最高裁判所までの訴訟となり、米国機械学会Cの独占禁止法違反で750万ドルをB社に支払うものとして終結した。
原因 米国機械学会Cは機械工学のあらゆる分野から9万人の会員を有する非営利の団体であり、工学及び産業に関わる規格を公刊しており、規格は助言的性格のものであるが、強い経済的影響を有する。その公的機関である米国機械学会Cがずさんな運営をしていた。また、本件に関連する米国機械学会Cの担当小委員会の役職を兼任する者が、公的機関である米国機械学会Cの職務に反して、自分が関係する会社の利益のために行動した。
対策 この事件後、米国機械学会Cで規格の取り扱いが以下のように変更された。規格の質問に対し、返答が出される前に最低5人の担当員が確認する(以前は2人だった)。質問と返答は、米国機械学会Cの公開月間刊行物で発表される(以前は質問者と質問に携わった委員会の間のみで行われていた)。そして米国機械学会Cは規格の返答に使用される便箋に否認を表明する陳述を印刷することになり、規格が変更される際には新たな情報が必要で、個人は不当であると感じた返答に対して公正な判断を求める権利ができた。利害の衝突においては、米国機械学会Cのボランティアを含むすべての会員は、起こりうる利害の衝突に対して定義の明確なガイドラインに沿って対処すると言う誓約書にサインすることになり、行動基準の法的影響を述べている刊行物により倫理上の工学基準がすべての会員に提供される。また、協議会、委員会、小委員会にそれぞれ、公共利益と費用有効性における基準をもとに2年ごとに運営の見直しをすることを義務付けた。
知識化 利害の衝突は、人一人の職歴に傷をつけるだけでなく、その専門分野全体に渡り強い影響を及ぼすため、技術者は専門家としてその徴候に敏感でなければならない。
背景 事件当時、米国機械学会Cはボランティアを含む会員からなる委員会及び小委員会を運営していたが、会員の行動基準が明確にされておらず、個人の主観で規格の発案や変更がされ易くなっていた。また、今件に似た規格に関する問い合わせは、毎年何千通も米国機械学会Cに送られて来ており、担当者が手に負えない運営事情などもあり、厳粛な運営体制が整っていなかったことで、私的体制が取り易くなっていた。
データベース登録の
動機
この事例は、利害の衝突と様々な工学規律倫理について論議しているだけでなく、技術者たちがその専門分野で果たしている種々な役割を例示しているため、すべての工学カリキュラムに役立つ。
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、運営の硬直化、審査手順不備、企画不良、組織構成不良、企画不良、戦略・企画不良、試験計画不良、不良行為、倫理道徳違反、組織の損失、経済的損失
情報源 http://ethics.tamu.edu/ethics/米国機械学会C/米国機械学会C1.htm
死者数 0
負傷者数 0
被害金額 475万ドル、裁判所が打ち出したB社の被害総額。
全経済損失 米国機械学会C750万ドル、A社75万ドル、D社7.5万ドルをB社に支払った。
社会への影響 今回の事件後、米国におけるすべての規格、基準に対する取り扱いが見直され、その施行、利害の衝突に対する規則が増強、新しくサンセット法(政府機関[計画]の存続見直しの定期検討を求める法律)が改正された。
マルチメディアファイル 図2.背徳の構図
分野 機械
データ作成者 ユリエローディ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)