失敗事例

事例名称 激しい雨で原油貯蔵ダムが崩壊し原油が流出
代表図
事例発生日付 1994年10月01日
事例発生地 ロシア、ウシンスク
事例発生場所 ダム
事例概要 パイプラインから流出した原油を貯蔵しているダムが崩壊し、約10万2千トンの原油がシベリアツンドラに流出した。原油は付近の川に流れ込み、川に生息する生物や繊細な北極圏の環境が危機にさらされた。
事象 ロシアのウシンスクでは、1994年2月以来、北極圏下を通っているパイプラインから原油漏れが起きているが、こういった危機を回避するために原油はダムに収容されるようになっている。しかし、10月1日、寒さと雪のためダイク(堤防)が崩壊し、約10万2千トンの原油がシベリアツンドラに流出し始めた。原油は川に流れ込み、川に生息する生物や壊れやすい北極圏の環境が危機にさらされた。流出量はエクソンバルディス号の8倍に相当する量で、ロシアの原油流出問題は、当事故が起きてやっと外部に注目されるようになった。ロシアは毎年全原油全生産量の5分の1を流出によりなくしている。
経過 キャリャガ油田とウシンスクを結ぶパイプラインは築20年が経過、ロシアのA社がパイプの安全な運営と維持を行う努力をしている。しかしパイプラインからは頻繁に原油漏れが起こっており、1994年9月後半までに流出した原油はダムに蓄積された。10月に激しい雨が降った後、ダムのダイク(堤防)が崩壊し、原油がツンドラに広がった。天候が幸いして、流出した原油の大半は近くの川に流れ込み回収されたが、残った原油が広範囲に渡りツンドラと湿地帯に広がった。冬には凍って、雪解けの季節に残った原油がまた川に流れ込むことが懸念される。それらの川は鮭などの魚が大量に生息しているペコラ川につながっている。ロシアでは、効率性や環境問題への配慮なくエネルギー分野の生産高が増加し、環境技術領域の技術はすべて初歩的なもので、原油生産と運搬により生態系に多大な影響を及ぼしている。
原因 激しい雨がダムの堤防を破壊した。また、ロシアには、ガスと原油を運搬するパイプラインが100万マイル以上に渡り通っているが、整備が全く行き届いていない。故障しているにも関わらず時代遅れの基幹施設を最大限に働かせているために、多大な原油漏れが毎年起こっている。
対処 当事故後の原油回収作業の一環として、気温上昇により凍結した原油が新たに広がらないよう、原油を燃焼するという予防策が施された。
対策 当事故以前ではあるが、ロシアでは“天然資源の合理的な利用と汚染物質からの人命と健康の保護”を強調したロシア連邦の環境保護法が1991年12月に改正された。1991年のドラフト環境保護計画会では、現代技術で自然保護の基幹施設を設置するために、優先的に外国の会社から募集することを含め、現代的で環境に優しい設備と技術を導入する方針を強調した。当事故における原油の清掃コストはロシアに責任があるが、事故後、欧州銀行が2500万ドル、そして世界銀行が1億ドルをロシアの再建と発展のために提供した。また米国とオーストラリアの合併会社が原油清掃目的で雇用され、莫大な排水ダムを建設及び補強、原油含有水の氾濫を阻止するために頑丈な土台が建設された。
知識化 ロシアでは原油漏れが日常化している。毎年何百と言う穴や破損による原油流出が起こり、地面は油が染み込んで、木は黒い靴墨を塗りたくったようになっている。こういったロシアの状況や隣接する他国への将来の影響が当事故により初めて注目された。
背景 不明。
よもやま話 A原油工場とパイプラインで1986年以来少なくとも5回重大な事故が起こっている。1988年、工場で火災がおこり、パイプラインが破裂して2万トンの原油が流出した。1992年に起こった2件の事故では、約3万トンの原油が流出すると言う事故が起こり、川を汚染した。
データベース登録の
動機
ロシアの原油流出は非常に深刻であり、海水汚染は他国へ広がる可能性を秘めているため。
シナリオ
主シナリオ 不注意、注意・用心不足、保守時の不注意、環境変化への対応不良、使用環境変化、自然的条件変化、経時変化、脆性、環境変化への対応不良、使用環境変化、自然的条件変化、天候変化、材料的要因、腐食、割れ発生・成長、原油、漏洩、汚染、物質疲労、低温
情報源 http://www.american.edu/ted/KOMI.HTM
死者数 0
負傷者数 0
全経済損失 A社は、当原油流出事故に対して60万ドルの罰金が課せられたが、会社に殆ど支払い能力はなく、国民が一人あたり約$7を負担することになった。
分野 機械
データ作成者 ユリエローディ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)