失敗事例

事例名称 廃サイダムの決壊で汚泥が流出
代表図
事例発生日付 1998年04月25日
事例発生地 スペイン南部、セビリヤ
事例発生場所 ロス・フライレス鉱山
事例概要 スペイン南部のロス・フライレス鉱山の廃さいダムが突然決壊し、流れ出た汚泥が周辺の河川に流出、周辺部の農作物や環境に多大な被害をもたらした。ダムの設計時に誤算があった結果、ダムの地下で地滑りが生じ決壊につながった。
事象 スペイン南部に位置するロス・フライレス鉱山の廃さいダムが突然決壊し、流れ出た汚泥が周辺の河川に流出、周辺部の農作物や環境に多大な被害をもたらした。この鉱山を所有しているA社(スウェーデン、カナダ)は事故直後、即座に鉱山業務を停止し、スペイン政府の協力とともに除去作業に全力を注入、11月末までに除去作業はほぼ完了した。しかし、汚染された川の下流に位置している国立公園にも多大な被害が及び、周辺に生息する動植物への影響が懸念されている。
経過 1998年4月25日午前1時頃、スペイン南部の都市セビリヤから約45km西に位置するロス・フライレス鉱山の廃さいダムの南東部が約50メートルにわたって決壊し、ダム内に貯蔵されていた大量の廃さいが近くのアグリオ川及びグアディアマール川へ流出した。流れ出た廃さいと酸性水の量は、それぞれ、130万m3、550万m3と報告されている。周辺部の約4,600ヘクタールの土地が流れ出た汚泥に汚染され、農作物などに多大な損害を及ぼした。また、グアディアマール川の下流にあるドニャーナ国立公園の湿地帯は絶滅危惧種の野鳥や希少動物が生息し、欧州連合の環境保護地域に指定されており、生物学者や環境保護団体は、流れ出た酸性水の一部が公園周辺部の地下水に浸透した可能性を指摘しており、公園内の動植物の生態系に多大な影響を及ぼしたとして懸念を表明している。
原因 事故の起きた廃さいダムは1978年に建設され、約200ヘクタールの面積を有し、このダムの周囲には、内側を不透水性のレッド・クレイと呼ばれるスクリーンで覆い、粘板岩を積み重ねて作られた高さ30m程の堤防が築かれている。堤防の基礎の約14m下部のブルー・マールと呼ばれる粘土層内で、60mに渡るほぼ水平な地滑りが発生した。これは、ダム自体の重量と堆積された廃さいの重量によって過剰な圧力がかかったためであると推定される。これに伴って、堤防は、このブルー・マールの上部13m~15mの地層とともに、ひと塊のブロックとして東側へ動いた。 この変動の結果、南東部の堤防に亀裂が生じ、そこから廃さいと酸性水が流出し始めた。その後、亀裂は、どんどん拡大して流出が増大し、最後は約50mに渡って堤防が決壊した。 この報告を受けたアプリサ社のコンサルタントは、ダムの設計者と過去に安定化調査を行っていた独立コンサルタント会社の専門家による、このブルー・クレイ層の剪断破壊の可能性に関する指摘が全くなかったことを強調した。また、ダム建造者がダムに使用さた材料の強度を誤算していたことがその後の調査で判明している。
対処 A社は事故直後、鉱山業務を即座に停止し、汚泥の除去作業に全力を注入した。この作業に加わった人員は600名以上、輸送用トラックや重機は1,000台以上と言われている。また、スペイン政府も、回収作業に3,000万ドルの緊急融資を発表した。
対策 事故後、A社は自らを原因究明側に置き、率直な姿勢でマスコミ、世間、そしてスペイン側に対応した。外部の科学者に再調査を依頼し、継続的な改善における原理を適用したことで事故における環境査定と改善策の支援を確立。A社の事後対応体制は、類似した事故への模範となった。
知識化 兆候が現れたときに対処しておかないと必ず大惨事につながる。
背景 生態学者によると、A社はダム決壊の危険性を1995年頃から認識していたと主張している。
後日談 A社は、事故の責任はダムの設計、建設、及び拡張したスペインの建設会社にあると主張。しかし、環境学者や事故で被害にあった農民は、A社の自己責任を非難している。
よもやま話 A社は1996年、ダムの状態が不安定のため、拡張計画を中止するよう生態学者から起訴されていたが、担当裁判長が当事故の前日にこのケースを却下している。
データベース登録の
動機
兆候が出ているのに、それを見逃して大事故につながった事例の紹介。
シナリオ
主シナリオ 不注意、注意・用心不足、企画者不注意、計算間違い、調査・検討の不足、事前検討不足、審査・見直し不足、不安定、崩壊、材料強度不足、破断、混合流、汚染、過負荷、想定外負荷、機械的連鎖反応、建設
情報源 http://www.worldscinet.com/journals/mre/09/sample/
S0950609800000111.html
http://ens.lycos.com/ens/apr2000/2000L-04-12-02.html
死者数 0
負傷者数 0
全経済損失 スペイン政府が清掃作業費として3,000万ドルを融資
分野 機械
データ作成者 ユリエローディ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)