事例名称 |
インド・ボパール工場で有毒ガス流出、4000人以上が死亡。 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1984年12月02日 |
事例発生地 |
インド、ボパール |
事例発生場所 |
ボパール農薬工場 |
事例概要 |
米A社のボパール農薬工場から有毒ガスが流出し、4000人以上が死亡、約40万人が負傷する事故がおきた。運営資金の削減による技術面、構造面、そして人的過失が原因となっている。 |
事象 |
インド中央部に位置する米A社のボパール農薬工場から深夜、MIC(メチル性異シアン酸塩)*が噴き出し、4000人以上が死亡、約40万人が負傷するという大惨事が起きた。 |
経過 |
12月2日深夜、事故発生の2時間前、監督者が作業員にMICのタンクに通じるパイプを水で洗うように命じた。この洗浄用の水が大量にMIC貯蔵タンクに流入したことにより、猛烈な化学反応が起きた。目に異常を感じた従業員が午後11時30分に管理者に報告するが、緊急対処が施されず、40トンのMICが約2時間に渡り付近に流出した。流出したMICは、北からの風に乗って90万人が生活する街へと流れていった。ガスを吸入すると、呼吸困難、失明、神経障害などの症状を引き起こす。 インド中央に位置するボパールは、鉄道交通が充実している、大きな湖による水資源、十分な電気と労働力の確保が可能であり、A工場の敷地として選択された。ボパール市の工場は、インドでカーバイド社が所有する14工場の内の一つでありA社は1969年にこの工場の操業を開始、主に殺虫剤を生産する工場で、1979年から当事故の原因となったMIC(メチル性異シアン酸塩)の製造が開始された。これは、アメリカのA本社のあるバージニア州で生産され、輸入されていたものをコスト削減のため現地生産されるようになったものである。 |
原因 |
ボパール惨事は、アメリカのコネチカット州にあるA本社が1980年運営資金を削減したことがそもそも起因している。A社は利益増大を計って、経験ある従業員の削減、劣質で安価な資材の使用、安全装置や危険な作業を行う装置に関わる費用を減らすなどの対策を施した。直接の原因はMIC貯蔵タンクに洗浄用の水が大量に(500l)流入されたことによる。そして化学反応が発生した結果、以下の抑制と安全の基準、また共同情報と緊急対策の完全な欠落により悪化した。 きわめて重要なMIC保存タンクなどの温度と圧力を測定する計測器が信頼できるものでなかったため、従業員が事故につながる初期の兆候を無視した。 MICを低温度で保存するための冷却ユニットが度々遮断されていた。 流出したMICを中和するガス洗浄器が保守点検のため、遮断されていた。しかし、たとえ作用していたとしても、事故を引き起こした量の最大4分の1の量しか対処できなかった。 洗浄器から流出したMICを燃焼するために設計されているフレアータワーも腐食したパイプの交換待ちで遮断されていた。しかし、タワーも当事故で流出したガスの4分の1の量しか対処できない設計になっていた。 残ったガスを中和するために設計されている水を供給するカーテンは、短すぎてフレアータワーに届かなかった。 効果的な警報装置システムが導入されておらず、保存タンクに設置されているアラームが夜間に起きた温度上昇に作動しなかった。 事故の起きたMIC保存タンク610番のMICの保存量が規定の収容量を超えていた。 MICの超過量を保存するためのリザーバータンクの中にすでにMICが保存されていた。 ユニオンA社の周辺に住む住人は、地方新聞などで起こりうる危険性を告知されていたが、住民は対処の方法が分からずこれを無視していた。 当事故は、これらの適法、技術、構造、そして人的過失が原因となっている。 |
対策 |
米国のA本社の安全対策チームの報告(1982年5月)によると、ボパール工場の設備不良、運営問題、保守問題によるMICユニットの有毒物質の大量流出における危険な可能性があり、工場の安全性を確保するため、多方面の変更が必要であること、またこの勧告が実行された証拠が全くないことが指摘されていた。 |
知識化 |
開発途上国は特に産業危機による被害を受けやすい。これは、危険物資の使用や乱用による損害を十分理解しないで危険物質を使用、または開発している世の中で我々が直面している問題である。また無計画な人員削減、設備の保守費用削減を行うと大きなしっぺ返しが来る。 |
背景 |
当事故が起こる以前に、A社は、ボパール工場の設備不良、運営問題、保守問題における安全勧告を受けており、当事故は明らかに予見できた。 |
後日談 |
生存者は有毒ガスによる長引く後遺症に苦しんでいる。1985年7月のインド政府によると、有毒ガスが原因で、36人の妊婦が自発的に流産を引き起こし、21人が奇形を伴って生まれ、27人の死産が報告されている。 1996年11月6日、A社と元最高経営責任者のA氏が当事故における被害者の国際法と人権に対する違法行為で告訴された。 1999年9月にA社はダウ・ケミカル社に買収されることを発表した。 |
データベース登録の 動機 |
当事故は、18年経った現在でも事故の後遺症で苦しむ被害者に十分な賠償金などの対策が取られていない現状が問題になっている世界最大の産業事故の一つであるため。 |
シナリオ |
主シナリオ
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調査・検討の不足、事前検討不足、危険物取扱い対策、不注意、注意・用心不足、保守時の不注意、不良現象、化学現象、有毒ガス、気体、物質間反応、材料的要因、異物混入・混在
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情報源 |
http://www.american.edu/TED/BHOPAL.HTM
http://ens.lycos.com/ens/nov99/1999L-11-16-02.html
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死者数 |
4000 |
負傷者数 |
40000 |
全経済損失 |
-4億7000万ドル(ユニオンA社がインド政府に支払った賠償金) -家畜用の牛、約4000頭が死亡 |
社会への影響 |
当事故における被害者、また被害をうけた環境に対する十分な対処が行われていないということで、インド、米国、日本を含む各地でA社を非難する様々な活動が現在でも引き続き行われいる。 |
備考 |
*MICは殺虫剤生産に使用される中間生成物の一つで危険物質である。空気の2倍の重量があり、空気中に漏れ出すと地面近くに留まる性質を持っている。 |
分野 |
機械
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データ作成者 |
ユリエローディ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)
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