失敗事例

事例名称 見えない磁力線に吸いつけられた。
代表図
事例概要 センサが磁石に吸い込まれ、指を挟んだ(図2)。実験前の打ち合わせで、実験にどんな危険が潜んでいるかをシュミレーションし、全員の安全意識を高めておくべきだった。さらに予定外の行動に対しても、それと同じシュミレーションをとっさにやり直すべきだった。
事象 吸引力1トンのリフティングマグネットの磁場で実験中、手で持っていた鉄製センサが吸いつけられて親指をつぶした。骨折、骨まで達する裂傷、痛い…
経過 1)強力な磁場によって、質量約16kgの鉄製センサの出力が影響を受けるか否かの実験を行った。実験前の打ち合わせでは、予定として、磁場中でセンサ出力ケーブルを振動させ、それがセンサ出力に及ぼす影響を調べる実験を行うことにした。   2)ところがその予定の実験が終了した後、誰かが「センサ本体を磁場に入れても大丈夫か確かめてみよう」と急に言い出した。そういわれればそれを確かめたくなったので、センサを2人で持ち、リフティングマグネットの20~30cm下に持っていった。すると、いきなりセンサがマグネットに吸い付けられ、片側を持っていた1人の親指が挟まれてつぶれた。本人は一瞬の出来事に痛みも感じず、しばらく何が起きたのかも理解できなかった。
対処 現場から研究所の人は“ぬけた”ことをやると笑われた…
知識化 1)磁力線は目に見えないが、そこに隠れた磁場がある。アナログ時計はすぐに磁化して狂ってしまう。2)リフティングマグネットは危険である。吸い付いている鉄が下に落ちてケガをすることもある。3)実験に潜んでいる危険を仮想演習し、全員の安全意識を高めよう。
よもやま話 図のマンガの“1コマ前”のマンガ、すなわち、2人でセンサをマグネットに近ずけようとするマンガを見せてから、全員でこれから起こるべく危険を予知する訓練が大切である。センサはまっすぐマグネットに向かうとは限らない。たとえば馬蹄形のマグネットだったならば、2つのN とS の極にわたるようにセンサが吸いつけられる。このとき、長尺のセンサが回転すれば指ではなく、あごがたたかれる。また、指がセンサの配線にからまって、体ごとマグネットに吸い付けられ、鼻を打つことも考えられよう。配線が足にからまったら転んで捻挫をするかもしれない、などなど。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、調査・検討の不足、仮想演習不足、手順、試験
マルチメディアファイル 図2.センサが磁石に吸い込まれ、指を挟む様子
分野 機械
データ作成者 畑村 洋太郎 (工学院大学)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)