事例名称 |
燃料不足によるA社航空機墜落事故 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2000年05月21日 |
事例発生地 |
アメリカ合衆国 ペンシルバニア州 ベアクリーク タウンシップ |
事例発生場所 |
ウィルクスベア/スクラントン国際空港近郊の山頂付近 |
事例概要 |
A航空サービスの所有するB型機が、ペンシルバニア州のウィルクスベア/スクラントン国際空港(AVP)から約11マイル(約18km)南の山頂に墜落し、地面激突の衝撃と火災によって、機体の大部分が破壊され、乗務員2名、乗客17名の合わせて19名全員が死亡する事故が起きた。直接原因は燃料不足による左右両エンジンの停止。 |
事象 |
事故機は事故当日の朝、2区間往復飛行の予定から、計4地点を結ぶ3区間飛行に変更された。これに従い最初の出発地点で燃料を補給。事故のあったB型機には左右2つの燃料タンクがあり、最大容量は両タンク合わせて3090パウンド(31型機マニュアルによる)。3区間の総飛行距離、乗客数、機の総重量を計算して燃料を追加するよう要請を受けた乗務員は、タンク内に残っていた繰り越し総重量およそ1100パウンドに、左右300パウンドずつ合わせて600パウンドを追給。この時左右のタンク内にある燃料差には注目しておらず、最初の一区間を飛行した直後で右300パウンド、左900パウンドと大きな開きがあった。第二区間を飛行し、視程距離の低い計器気象状態の中、第3地点への計器による着陸を試みたが視界が悪く失敗(進入復行)。再度着陸を試みる為、高度を4000フィートまで上げるよう管制塔から指示されたが、急上昇によって燃料が急激に消耗され、燃料の枯渇による右エンジンの停止、燃料不足による左エンジンの断続的な停止が発生。また左右のタンク内の燃料重量差から、機体が大きく傾きながら機先60度、左傾斜135度の角度で山頂付近に激突、炎上した。 |
経過 |
事故機は当初、ニューヨーク州にあるリパブリック空港(FRG)とニュージャージー州のアトランティック・シティ空港(ACY)の単純往復の日程であったが、事故当日の朝、急遽ACYからAVPのルートが追加され、中間地点ACYでの燃料補給をはぶく為、出発地FRGにて総行程をカバーする燃料を補給することになった。FRG-ACY-AVP-ACYの3区間の総飛行距離、乗客数、機の総重量を計算し、燃料を追加するよう要請を受けた乗務員は「両タンクに600パウンドずつ追加し、”ほぼ満タン(この機の左右2つの燃料タンクの最大容量は合わせて3090パウンド)”にする」と答えたにもかかわらず、実際に追加した燃料は左右に300パウンドずつ、合計600パウンドであった。また雨が降っていた為、燃料補充者が燃料を補給している間、乗務員は機内に留まり燃料計によって追加量を読んでいた(実際に機外に出て、スティックでタンクの内容量を調べる方法はとられなかった)。さらに左右のタンクの燃料重量には最初の一区間を飛行した直後で右300パウンド、左900パウンドと大きな開きがあった。第二区間を飛行し、視程距離の低い計器気象状態の中、AVPへの計器による着陸を試みたが視界が悪く失敗、主操縦士から管制塔へ進入復行の申告がされた。再度着陸を試みる為、高度を4000フィートまで上げ、ローカライザーが機の位置を確認するまで待つよう管制塔から指示されたが、急上昇によって燃料が急激に消耗され、燃料の枯渇による右エンジンの停止、燃料不足による左エンジンの断続的な停止が発生。その後管制塔に指示された飛行方角から機が大きくそれてレーダー、ローカライザーの範疇から外れた為、緊急着陸の補助ができなくなった。一旦左エンジンが復活したが、左右の燃料タンクの重量がアンバランスであったために、機体が大きく傾きながら2000フィートまで降下(この地点の最低誘導高度は3300フィート)した。最初のエンジントラブル発生から約4分後、「両方のエンジンが停止した」と管制塔に連絡があったのを最後に、機先60度、左傾斜135度の角度で山頂付近に激突、炎上した。 |
原因 |
左右2つのタンクへの燃料補給が、量、バランスともに不適切であった。さらにタンクに計量用のスティックを差し込んで確認する方法をとらず、機内の燃料計のみを用い、燃料の状態確認を怠っていた。また最初のエンジンのトラブルが発生した時点で、操縦者の方向性も適切ではなかった。 |
対処 |
管制塔が飛行針路、最低誘導高度、さらに緊急着陸可能な地点を指示。管制塔との交信内容中、主・副操縦士の両方とも燃料についてはまったく触れていないので、燃料不備のための措置はとられていない。事故後、燃え残った機材を復旧、操縦士の遺体調査、シミュレーターを利用した事故状態の再現、関係者、目撃者の証言などを綿密に行っている。 |
対策 |
燃料の補充にあたって、量、バランスを確実に把握する為には、機内のゲージのみならず、実際にタンクの中にスティックを差し込んで確認する方法が適切かと思われる。 |
知識化 |
飛行機などの状態確認が慣例化し、適切な措置を怠ることで、致命的な事故が発生する。 |
背景 |
副操縦士の婚約者で、第1区間(FRG-ACY)の乗客でもあった女性の証言では、第1区間飛行後、副操縦士がコックピットの燃料ゲージを見ながら、「実際にはどのくらいの燃料を積んでいるのかすら分からない」と発言していたことから、ゲージを信用していなかったことが考えられる。また、燃料タンクの繰り越し重量についても、記録と実際量には差があることが多いという。 |
シナリオ |
主シナリオ
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不注意、注意・用心不足、企画者不注意、計算間違い、手順の不遵守、手順無視、操作手順無視、非定常行為、変更、手順変更、使用、運転・使用、非定常操作、緊急操作、進路変更、機能不全、ハード不良、機械・装置、燃料切れ、破損、大規模破損、衝突、身体的被害、死亡
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情報源 |
http://www.ntsb.gov/publictn/2002/AAB0205.htm
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死者数 |
19 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
航空機1機 |
被害金額 |
記述無し |
全経済損失 |
記述無し |
分野 |
機械
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データ作成者 |
タカコホール (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)
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