失敗事例

事例名称 雪解けの洪水による歩行者専用橋の崩壊
代表図
事例発生日付 1996年01月20日
事例発生地 アメリカ合衆国ペンシルベニア州ハリスバーグ市サスキハナリバー
事例発生場所 サスキハナリバーにかかるウォールナット・ストリート・ブリッジの西側橋梁
事例概要 1996年1月20日午後、サスキハナリバーにかかる歩行者専用橋、ウォールナット・ストリート・ブリッジの西側橋梁のうち2つが、雪解け水による洪水と氷のために崩壊した。
事象 1996年1月20日午後2時半ごろ 、ペンシルベニア州ハリスバーグ市のサスキハナリバーにかかる歩行者専用橋、ウォールナット・ストリート・ブリッジの西側橋梁のうち2つが、雪解けによる洪水と堆積した氷のために流された。調査の結果、橋脚にさらなる損傷が発見されたため、数週間後に取り壊しが予定されていたが、その直前、3番目の橋梁も崩壊した。
経過 1889年にA社によって建設されたウォールナット・ストリート・ブリッジは、ペンシルベニア州ハリスバーグ市の中心街近くを流れるサスキハナ川にかけられている。鉄骨橋梁を持つこの種の橋としては米国内最古のものである。全長1820フィートのこの橋は、途中のシティアイランドをはさんで東西に伸びている。開通当初から2車線の車両交通路として用いられてきたが、1972年にハリケーン・アグネスの被害を受け、以降は歩行者専用橋として利用されてきた。1996年のこの事故に先立ち、ハリスバーグ市一帯は、ブリザード96と呼ばれる歴史に残る猛ブリザードに襲われていた。大量の降雪に続く温暖な気候により、雪解け水と氷がサスキハナ川に押し寄せ、川の水位は、洪水水位の17フィートをはるかに超える24.5フィートから27フィートに達していた。この大量の氷を含む雪解け水が、橋の土台を持ち上げるかたちとなり、橋梁の崩壊が起きる。1月20日の午後2時30分ごろ、橋の上を歩いていた数人の人々は橋が崩れ始めたのに気づき、大急ぎで逃げ出した。その直後、橋の橋梁が崩れ落ち、下流のコンクリート製の橋、マーケット・ストリート橋に衝突してばらばらになった。
原因 直接の原因は、激しいブリザードによる大量の降雪と、それに続いて気温が上昇したために雪解け水が川に押し寄せ、橋の土台を持ち上げる形になったことである。
対処 橋の修理が完了するまで、橋は閉鎖された。また、崩壊した橋梁が流され衝突した下流のマーケット・ストリート・ブリッジも、構造検査のため閉鎖された。この事故にさかのぼる1972年、ハリケーン・アグネスによる洪水でこの橋も被害を受け、調査の結果、車両交通には適さないとの判断がされている。以降は歩行者専用橋として利用されてきた。また、ハリケーン・アグネス後は、水の分散方法の充実、表面に流失した水を吸収する場としての湿原の重要性の認識、洪水予報技術の革新などが図られていた。
対策 橋の修理か、架け替えかが議論されたが、この橋の歴史的な価値を重要視する声が高く、修理工事が行われた。損傷したモルタルが取り返られ、各橋脚は新たにコンクリートの外壁で囲まれた。橋の上部も修理され、ペンキが塗りかえられた。1996年12月23日に橋東側が再開通した。
知識化 洪水予報技術の革新により、洪水がもたらす人的および財産的被害は減少した。しかし、開発に伴う建造物の増加により空地が減少、舗装面が増えて地中に吸収されないで表面に流出する水が多くなるなど、洪水そのものが起きる可能性はむしろ高くなっているといえる。
背景 1898年建造のこの橋は、1951年の段階で、エンジニアによってその寿命が1970年代前半までと言われていた。1972年大型ハリケーン・アグネスが一帯を襲った際、この橋は持ちこたえたが、同年の調査で、将来橋の重量を支えきれなくなって崩壊する可能性があることがわかり、その後は車両交通が禁止され、歩行者専用橋として用いられていた。
後日談 この洪水では、ペンシルベニア州知事公邸も被害を受け、知事夫妻も避難した。また、橋の中間点にあるシティアイランドには、野球のマイナーリーグ地元チームのハリスバーグ・セネターズのホームグランドもあるが、ここも冠水し、その時点では4月のオープン戦までに整備が間に合うかどうかが危ぶまれた。
よもやま話 歴史的に由緒のある橋として、ことに歩行者専用橋となってからは、ハリスバーグ市民にいっそう親しまれていた。毎年、5月末のメモリアルデー、7月の独立記念日、9月のレーバーデーには、市が主催する各催し物が橋付近で行われている。
データベース登録の
動機
100年以上の歴史を誇る橋の崩壊の過程に興味を持った。
シナリオ
主シナリオ 環境変化への対応不良、使用環境変化、自然的条件変化、雪、環境変化への対応不良、使用環境変化、自然的条件変化、天候変化、環境変化への対応不良、使用環境変化、自然的条件変化、洪水、破損、大規模破損、崩壊
情報源 http://www.iti.northwestern.edu/publications/bridges/harrisburg.html
http://www.highwayengineers.org/scanner101402e.html
http://www.modjeski.com/projects/servproj/walnut.htm
“Waterlogged Harrisburg,” January 22, 1996, The Philadelphia Inquirer
“Pennsylvania Transportation Reopens Eastern Span of Walnut St. Bridge,” December 23,1996, PR Newswire
“A remembered visitor,” June 20, 1997, Intellingencer Journal
“City's Historic Walnut St. Span Has “Twin’ in Harrisburg, Pa.”, August 3, 1997, Chattanooga Free Press
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 橋梁が3ヵ所で崩壊。修理完了まで橋が閉鎖された。
被害金額 橋の修理に700万ドルには、橋の架け替えには1500万ドルが必要と推定された。新聞記事
全経済損失 歩行者専用橋であったため、物流、車両交通への影響はなかった。
社会への影響 鉄骨スパン製のこの種の橋としては米国内で一番古いものであり、また歩行者専用橋として、人々に長い間親しまれてきたこの橋は町のシンボルでもあった。その一部崩壊、閉鎖は市民に精神的なダメージも与えた。
分野 機械
データ作成者 タエコマエダ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)