失敗事例

事例名称 潤滑油ホースの取り付け不備による通勤用船舶上の火災発生
代表図
事例発生日付 2001年09月28日
事例発生地 米国ニュージャージー州
事例発生場所 高速船の船上
事例概要 ニュージャージーとニューヨークのマンハッタン間を運行する通勤用高速船で、右舷の第三エンジンに火災が発生した。潤滑油のホースが正しく取り付けられていなかったため、高温の排気マニホールドと接触し、炎が発生し、第三エンジンに点火した。CO2火災制御システムを稼動し、近辺の沿岸警備隊に避難し、無事乗客は下船し、負傷者も出なかった。
事象 ニュージャージー州ハイランドからニューヨーク州ニューヨーク市へ向かう高速船で、右舷エンジン室の第三エンジンで、潤滑油のホースから炎が発生し、第三エンジンに点火して火災が発生した。
経過 2001年9月28日午前6時20分、高速船A号は198人の乗船客と6人の船員を乗せて、ニュージャージー州ハイランズを出発し、ニューヨーク市に向かった。4機全てのエンジンが作動していた。右舷の発電機が作動し、電力を供給していた。6時30分頃、甲板員は左舷エンジン室を点検した後、右舷エンジン室に向かった。ハッチを空けたとたん、異常な匂いがした。第4エンジンは作動していたが、第三エンジン上に約30cmの炎を発見。壁に取り付けられていた消火器を手にし、ピンをはずし、消火するために第三エンジンの方へ戻る際に第三エンジンのスイッチを消そうとした時、炎がエンジンに点火し、エンジン室全体が火災になり、エンジンを切ることも、消火器を使うこともできない状態となった。衣類に火がついていると思った甲板員はエンジン室から避難した。近辺にいた他の甲板員に火災の報告を依頼し、火災報知機をマニュアルで鳴らした。船長は右舷エンジンへの燃料を遮断するよう指示。乗客は全員デッキに出て救命具を装着するよう指示した。CO2(二酸化炭素)火災抑制システムを稼動させた。左舷エンジンをつかって近辺の沿岸警備隊に連絡をとり、緊急停泊の許可をもらい、寄港した。乗客は無事に下船した。午前7時に消防隊が到着。7時30分には消防隊はエンジン室に入り、火災がCO2火災制御システムにより消火されていることを確認した。
原因 センチネル・システムの潤滑油ホースが正しく取り付けられておらず、また固定されていなかったため、高温の排気マニホールドとホースが接触し、火災が発生した。左舷のエンジンではホースがエンジンの側面を通っているが、右舷の第三エンジンでは、ホースがエンジンの上部を通過していた。正しい取り付けに対してセンチネル・システムの製造会社が詳しい説明をおこなっていなかった。
対処 炎を発見した時、消火器を使って消火を試み、同時に第三エンジンを切ろうとしたが、その前にエンジンに炎が点火し、エンジン室全体が火災となった。甲板員は右舷エンジン室から避難し、火災報知機をならした。CO2(二酸化炭素)火災抑制システムが稼動された。乗客は救命衣を取り付けデッキに出るよう誘導された。左舷エンジンを使って最寄の沿岸警備局にむかった。乗客を無事下船させ、バスを用意して目的地のニューヨーク市まで乗客を運んだ。
対策 乗組員に対して船上での火災時の研修プログラムを作成し実施するよう提案された。また、メンテナンスおよび点検プログラムの作成と実施が提案された。センチネル・システムの製造会社に対して、潤滑油のホースの正しい取り付け方や指導を詳しくマニュアルに記載するよう提案が出された。
知識化 ホース等、振動により位置がずれたり、はずれたりする可能性のある部品や機器は、常に正しく設置されているか目視点検をする必要がある。事故が発生しても正しく敏速に対応すると、負傷者を出さずに事故を被害を最小限に食い止めることができる。
背景 この船はオハイオ州のA社が所有し、ニューヨーク市のB社が運営していた。月曜から金曜日の朝晩2往復づつニューヨーク市のマンハッタンとニュージャージーを運行し、通勤者の足となっていた。B社では予防のためのメンテナンスや点検システムがエンジンや補足システムに対して設定されていなかった。正しく点検、メンテナンスを実施していなかったため、ホースの誤った取り付けを事前に発見できなかった。また、甲板員に対して、火災時の対応に対する研修が行われていなかった。この船は使用を始めてから6ヶ月未満であった。
後日談 このような事故が起こると、通常乗組員に対して麻薬の使用が無かったかのテストが行われるが、使用されていないことが証明された。またアルコールの使用についても、湾岸警備隊との対応状況等から、アルコールの問題がなかったと結論が出ている。
よもやま話 現在ハイランドからマンハッタンのピア11まで片道約40分のスケジュールで運行されており、片道の値段は$18、往復$33で、回数券になると割引が適応される。120回分では$1409になっている。また、年末に花火を見るためのクルーズや、野球の観戦用の便が運行されたりもしている。
当事者ヒアリング 乗客は、火災発生の際、乗務員は協力的で適切に乗客を誘導し、常に状況を乗客に知らせていたと語った。
データベース登録の
動機
ホースの取り付けが不適当であったという一見些細なことからも火災が発生することを人々に理解してもらい、家庭等での防災に役立ててもらいたいと思った。
シナリオ
主シナリオ 手順の不遵守、手順無視、操作手順無視、手順の不遵守、連絡不足、手順書、使用、運転・使用、不良現象、化学現象、接触、発火
情報源 http://www.ntsb.gov/publictn/2002/MAR0204.htm
http://www.ntsb.gov/publictn/2002/MAR0204.pdf
http://www.seastreakusa.com/SeaStreak/special_events/index.htm
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 高速船一隻
被害金額 81000
全経済損失 この時点でこの会社が運営していた船はこの船一隻のみであった。もう一隻は2001年12月から使用開始が予定されていた。この事故でしばらく会社は運行する船が無く、その間の収入が途絶えたと思われる。 また、乗客のために手配したバスの費用もかかっている。
社会への影響 ニュージャージー州ハイランドからマンハッタンへの通勤の足としてこの船が使われていたので、通勤者に影響を及ぼした。
分野 機械
データ作成者 タカミハマダニ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)