事例名称 |
濃霧の中、空軍ヘリコプターが丘陵地に墜落し、乗員乗客29名が死亡 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1994年06月02日 |
事例発生地 |
イギリス、スコットランド西部 |
事例発生場所 |
アーガイル州南部・キャンベルタウンの南およそ24キロメートル地点 |
事例概要 |
北アイルランド・アントリム州のアルダーグローブ軍用飛行場から飛び立った英国空軍機・A社製B型ヘリコプターが、キンタイア半島の岬西側の丘陵地に墜落。現場は当時、濃霧に覆われていた。この事故で、パイロット2名、搭乗員2名、乗客の北アイルランド安全保障機関幹部25名全員が死亡。機体および人命の損失はもとより、安全保障の最重要機密に関わる人材が失われたことで、この事故による損失は計り知れないものとなった。なお、事故原因については、長らく事故機のパイロット2名の重過失とされていたが、その後の調べで、エンジン自動制御システムの欠陥によって機体が制御不能に陥った可能性が極めて高いと発表された。 |
事象 |
事故機は、インバーネス近郊のフォートジョージで開かれる安全保障会議に出席する25名と乗員4名を乗せて、ベルファスト国際空港に隣接するアルダーグローブ軍用飛行場を出発。入手した気象情報をもとに、予定していた飛行ルートを変更し、有視界飛行方式による低空飛行を行った。離陸後18分、機体は低空飛行のまま危険回避行動をとることもなく、濃霧に包まれた灯台近くの丘陵地に墜落、その衝撃で火災が発生した。乗員乗客29名は死亡。機体の損壊については、20%が墜落の衝撃によるもの、80%が火災によるものであった。 |
経過 |
1994年6月2日午後5時42分、事故機はアルダーグローブ軍用飛行場から離陸。機長は気象情報と安全高度をもとに、有視界飛行方式による低空飛行および、キンタイア半島灯台付近を通過する飛行ルートを選択した。午後6時頃、局地的に濃霧が発生した灯台付近で、雲高のかなり下を飛行する姿が目撃されたのを最後に、機体は海抜810フィート、灯台の東およそ500メートル地点に墜落した。墜落時、機体は5~10度左に傾き、機首を30度上げた状態で、コクピット対地速度およそ147ノットだったと推測される。事故機は広範囲にわたって航空燃料を撒き散らしながら横転し、直ちに火災が発生した。空軍・海軍・湾岸警備隊などが出動して大規模な捜索および救助活動が行われたが、濃霧で視界が阻まれ作業は難航。乗客乗員29名全員の遺体が発見されたため、事故後3時間で救助隊は解隊となった。 |
原因 |
事故機にボイスレコーダーもフライトレコーダーも搭載されていなかったことや、パイロットが死亡したことにより事情聴取ができなかったことなどから、当初は濃霧による飛行状態の不良と、事故機のパイロット2名の重過失が原因とされていた。しかしながら、数年間にわたる調査の結果、2002年2月6日、事故機に搭載されていたエンジン自動制御システムのソフトに欠陥があり、このため機体が制御不能に陥った可能性が高いという報告がなされた。同ソフトの欠陥とは具体的に、システム内部で勝手に飛行制御が働く、エンジン故障表示が誤作動する、勝手にジェットエンジンの回転数が急変動する、エンジンの故障・復旧が断続的に発生する、など、どれも機体制御を著しく困難にするものであった。 |
対処 |
事故直後、ヘリ5機・海軍機2機・空軍機3機ほか、予備湾岸警備隊や救助艇、山岳捜索隊らが出動して大規模な捜索および救助活動を行った。翌日には、空軍・陸軍・国防省の専門調査員による事故調査委員会が発足、現場や機体の残骸の調査、目撃証言の収集、機体製造元のボーイング社によるシミュレーションの実施など、本格的な事故原因究明に乗り出した。 |
対策 |
上院は2001年7月、パイロットの重過失が事故原因とする1995年の空軍事故調査委員会の結論を再検討するよう国会に命じた。翌年2月6日にようやく、1995年の結論は不当であると発表、これによりパイロット2名の潔白が事実上証明された。 |
知識化 |
調査や考察を十分行わず軽率に事故原因を判断すると、真の原因が分からずじまいになるだけでなく、事故の防止対策を講じるのが遅れ、同じ過ちを繰り返すことになりかねない。また、事故防止や被害縮小の観点から、重大な機械的欠陥があると判明したら、直ちに、かつ、徹底的に改善していかなければならない。 |
背景 |
事故の6ヶ月前に、ソフト設計およびシステム・インテグレーションに起因する問題が同機種で多数発生していた。事故の3週間前には事故機に、エンジン交換につながる1件を含むソフト関連の問題が3件発生していた。また、事故の前日、国防省が実施した同機のテスト飛行でテストパイロットを務め、事故機の機長になったジョナサン・タッパー氏は、マーク2より新しい型の機体を求めたが、その要求は容れられなかった。その他にも、空軍所属の同機全てにボイスレコーダーまたは事故データ記録装置を搭載するよう、空軍調査委員会から事故までに3回勧告がなされていたにもかかわらず、事故機にはどちらも搭載されていなかった。なお、事故機のパイロット2名は空軍特殊航空部隊の一員で航空機の操縦に練達していたうえ、事故現場付近で日常的に訓練を行っていたため地形と気象状況にも精通していた。 |
後日談 |
国防省は事故後、それまでにエンジン自動制御システム関連の欠陥が23件報告されていたことを認めた。 |
よもやま話 |
1993年にA社製B型2機が空軍で使用されるようになった直後から、エンジンが突然故障・暴走するといった重大な問題が報告されていた。また、エンジン自動制御システムのソフトが開発されてからの9年間に、深刻な異常が175ヵ所も見つかっていた。 |
データベース登録の 動機 |
誤審のせいでいわれのない非難を浴びつづけたパイロットとその家族、政府要人の生命が一度に失われたことで生じた国家的損失など、1つの事故によって波及していく影響の甚大さと、機体のシステムソフトの欠陥を10年以上もなおざりにしていた安全管理の甘さが、非常に衝撃的だった。 |
シナリオ |
主シナリオ
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不注意、注意・用心不足、企画者不注意、使用、運転・使用、非定常操作、緊急操作、機能不全、ソフト不良、墜落、身体的被害、死亡
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情報源 |
http://www.parliament.the-stationery-office.co.uk/pa/ld200102/ldselect/ldchin/25/2501.htm
http://www.guardian.co.uk/uk_news/story/0,3604,645243,00.html
http://www.guardian.co.uk/Archive/Article/0,4273,4098417,00.html
http://www.aeronautics.ru/nws002/military_aircraft_prices.htm
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死者数 |
29 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
A社製B型機1機 |
被害金額 |
1590万USドル。チヌークCH-47型機1機の金額に相当。算出根拠は情報源を参照。 |
社会への影響 |
北アイルランド安全保障幹部25名の死は、北アイルランドの機密情報のみならず、これまで蓄積されてきた情報管理の経験までも失う結果となり、イギリスの対テロ作戦上の大打撃となった。 |
備考 |
距離の単位をメートルに統一した。 |
分野 |
機械
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データ作成者 |
サトミヨコタ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)
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