事例名称 |
A社の施設でのエチレンオキシドによる爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1997年06月24日 |
事例発生地 |
米国インディアナ州エルクハートのA社の施設 |
事例発生場所 |
スプレー製造工場のガス製造所 |
事例概要 |
ガス製造所でエチレンオキシドの充填作業中に呼吸用空気供給が途絶えたため、作業を中断し、作業者はガス製造所を出た。その際にエチレンオキシド供給システムのすべての弁が開いたままになっており、建物内に流出し、作業に戻った作業員がアラームに気づいて確認のために再度屋外にでた際に爆発が起こった。建物の扉、他の建物間の防壁、排気システムなどが適切でなかったため、死者1名、負傷者59名という結果をもたらした。 |
事象 |
滅菌用エチレンオキシドを容器に充填する作業がガス製造所で行われている際、作業員の呼吸用空気供給が止まり、作業を中断している間にエチレンオキシドがガス製造所内に充満し、発火源に接触して爆発。その時作業員はアラームの点灯を確認するためにガス製造所を出たところであった。ガス製造所の爆燃パネルは吹き飛ばされ、屋根は湾曲して開き、扉もすべて飛ばされた。作業員は約3m飛ばされ負傷。飛ばされた扉は隣の生産工場の扉に激突し、その扉が枠とともに押し倒され、生産工場内で作業中の従業員1名が死亡した。 |
経過 |
事故当日、主に病院などでの使用を目的とする滅菌用エチレンオキシドを容器に充填する作業がガス製造所で行われていた。液体のエチレンオキシドは保存タンクからガス製造所にステンレススチールのパイプを通して供給され、ガス製造所内のGracoポンプで600-650psigに加圧された後、充填機に供給。各容器に充填の際、100グラムの充填につき105グラムのエチレンオキシドが充填機から排出と表示されており、空気中にエチレンオキシドが流出していた。ガス製造所ではETO-Abatorが使用されており、空気中のエチレンオキシドを分解し環境を汚染しないよう対策がとられていた。午後2時、作業員への呼吸用の空気供給が止まり、呼吸のできない作業員は充填作業を中止してガス製造所の外に出た。呼吸用の空気ポンプの修理後、作業に戻った作業員はアラームの点灯に気づいた。炭化水素が爆発限界の下限の40%を超えたという表示であった(通常はガス製造所では炭化水素が使用されていた)。この作業員はエチレンオキシドの場合はどのレベルでアラームが点灯するのかを理解していなかったため、その確認のためにガス製造所をでて隣の生産工場へ向かうと、ガス製造所内で爆発が発生した。扉がすべて吹き飛ばされ、その1つが隣の生産工場の扉を押し倒し、生産工場内の作業員1名が死亡。 |
原因 |
呼吸用空気供給が止まったため作業を中断した際、エチレンオキシド供給システムの停止手順が不適切で、弁は全て開いたままになっていた。再生タンクは、作業場から離すべきであったにも関わらず、ガス製造所内にあり、内部の量を示す機器が取り付けられていなかった。また、ガス製造所と生産工場との間に適切な防壁がなく、十分なスペースもなかった。ガス製造所の扉が規定どおりのものではなく、爆発時に開かず、金具で止められていたため、吹き飛ばされた。ガス製造所では通常プロパンが使用されており、排気システムは何とかプロパンには適応していたが、エチレンオキシドの使用には適していなかった。また、エチレンオキシド使用のためのNEC規定が守られていなかった。 |
対処 |
消防隊が約3時間半に渡り消火作業を行い、その後ガス製造所内のエチレンオキシド供給パイプから火が出ていることを発見し、弁を閉じた。警察官は工場を中心に半径約1.6kmの地域各家を回り、避難するように告げ、住民達は避難した。約5時間の間避難した。 |
対策 |
科学薬品事故調査団は事故の調査の結果、今後このような事故を起こさないように次の提案をした。(1)全ての作業に対して、安全に非常停止を行うための手順書およびデバイスを準備する。(2)再生タンクをガス製造所の外に設置し、建物内の有毒物を最小にする。(3)適切な防壁を備え、災害が起こっても広がらないようにする。(4)適切な排気システムを備える。(5)内側から外へ開く扉を設置し、内部の圧力が増すと開くようにしておく。(6)ガス製造所内での電気機器の使用を最小にとどめる。更に、呼吸用空気供給システムの信頼性を最大化し、Gracoまたは同種のポンプの位置を変更し、危険物についての分析を行うことも提案された。このような事故が再発しないよう、アメリカの国立労働安全衛生研究所(NIOSH)、環境保護庁(EPA)、エチレンオキシド協会(EOSA)は、産業用エチレンオキシド(EtO)滅菌装置およびEtO再充填工場での爆発防止への協力を呼びかけた。 |
知識化 |
特に危険物をあつかう場合には、どのような非常事態が起こりえるかを事前に推定し、その場合にどのような対応が必要であるかを文書化、教育する必要がある。また、非常事態を防ぐためにはどのような対策をとる必要があるかを分析、実施する必要がある。特に通常行っていない作業をする場合、設備がその作業を行うのに適切であるがを充分に調べる必要がある。 |
背景 |
このガス製造所では、通常プロパンを扱っており、事故発生日はエチレンオキシドの4日間に渡るプロセスの2日めであった。通常使用するプロパンに対しては排気システムなども適していたが、エチレンオキシドに対しての適した排気システムや異常時アラーム表示などが備わっていなかった。作業者が呼吸をするための空気供給システムの信頼性にも問題があった。呼吸をできない状態で適切な判断をくだし行動するのは困難である。 |
後日談 |
消火には、設備内の貯水池の水が使用されたが、分析の結果エチレンオキシドは発見されなかったので、その貯水池の水はエルクハート市の飲料水処理場に流すことが認められた。事故の1.6km範囲内で魚などが死んだという状況は発生しなかったと言われている。 |
よもやま話 |
1994年から1998年までの間に、EtOが原因となった産業用滅菌装置およびEtO再充填工場での爆発事故は10件にのぼる。エチレンオキシドは眼、皮膚を刺激する。また粘膜も刺激し、味覚異常を生じさせる。アレルギー、生殖機能への悪影響、喘息の原因にもなりうる。濃度が高まると、むかつき、吐き気を催す。 |
データベース登録の 動機 |
毎日の危険物を扱う仕事をしている人々が数多くいるが、その人々がどのような危険にさらされているのであろうかと考えさせられた事件である。この事故でも、事故現場の建物の扉とその隣の扉が向かい合っていなければ、死者は出なかった可能性がある。このような所にも防災の注意を払う必要がある感じた。 |
シナリオ |
主シナリオ
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不注意、注意・用心不足、取り扱い不適、手順の不遵守、手順無視、操作手順無視、定常動作、不注意動作、エチレンオキシド、不良現象、化学現象、物質間反応、爆発、身体的被害、死亡、身体的被害、負傷
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情報源 |
http://www.epa.gov/ceppo/pubs/accrapac.pdf
http://www.jicosh.gr.jp/Japanese/library/highlight/alert/eto.html
http://www.jicosh.gr.jp/Japanese/library/highlight/nsc/01_01/news10.htm
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死者数 |
1 |
負傷者数 |
59 |
物的被害 |
ガス製造所および隣接の生産工場が大きな被害を受けた。 |
社会への影響 |
エチレンオキシドの汚染が心配され、周囲の住民および従業員に不安を与えた。 |
備考 |
負傷者の多くは、呼吸器関連の問題である。 |
分野 |
機械
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データ作成者 |
タカミハマダニ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)
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