事例名称 |
燃料タンク爆発によるコンコルド機墜落で乗客等113名が死亡 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2000年07月25日 |
事例発生地 |
パリ北方約20Km、シャルル・ド・ゴール空港の南西約6Km、バルドワーズ県ゴネスのホテルA別館レストラン付近 |
事例発生場所 |
ホテル |
事例概要 |
2000年7月25日午後4時44分、フランス、パリ発アメリカ、ニューヨーク行きA社航空A便(B社製B型機)が、パリのシャルル・ド・ゴール空港を離陸約2分後にパリ北方約20Km、シャルル・ド・ゴール空港の南西約6Kmの町バルドワーズ県ゴネスでホテルAの別館レストラン付近に墜落した。この事故で、乗員9名、乗客100名、計109名全員と墜落現場のホテル付近にいた4名の計113名が死亡し、10名以上が負傷したB社製飛行機の墜落事故は本件が初めてであった。直接の原因は、B社製飛行機離陸数分前に離陸したC社航空D機から部品が脱落し、その部品によってB社製飛行機のタイヤが破裂したことにある。破裂したタイヤの破片が主翼下面に衝突し、いろいろな因子が重なり、燃料タンクが爆発して墜落に至った。本件事故によりB社製飛行機は運航停止となり、事故原因を踏まえた安全対策が施された。B社製飛行機が路線復帰を果たしたのは、事故から1年3か月半経った2001年11月7日のことである。 |
事象 |
事故機はドイツの旅行会社F社のチャーター便で、乗客はニューヨークから豪華客船によるカリブ海クルーズでエクアドルに向かう途中であった。事故機は、離陸前の点検でエンジンに異常が見つかり、出発直前に部品を交換。このエンジン・トラブルも事故の間接的な要因として注目された。午後4時44分離陸時、滑走路走行中にタイヤが破裂したことにより、燃料タンクが爆発し、同機は炎に包まれながら落下し始め午後4時47分、道路わきの2軒のホテルの間に墜落。直撃を受けたホテルAは全焼、客1人と従業員3人が死亡。乗客・乗員109人も全員死亡した。 |
経過 |
同機は離陸前の点検で左翼内側の第2エンジンに異常が見つかり、出発直前に部品を交換。この修理のために離陸が数十分遅れたが、午後4時44分、パリのシャルル・ド・ゴール空港を離陸。離陸と同時にタイヤが破裂し左翼から煙が発生。タイヤ破裂の衝撃により、エンジン・トラブルが起きる。尾翼が火に包まれる。パイロットはエンジンおよび着陸装置のトラブルを報告するが、機体は急速に失速。ローリングしながら午後4時47分にパリ北方約20Km、シャルル・ド・ゴール空港の南西約6Kmの町バルドワーズ県ゴネスでホテルAの別館レストラン付近に墜落した。 |
原因 |
フランス運輸省事故調査局(BEA)は2001年1月5日、離陸滑走中に破裂したタイヤの破片が主翼下面に衝突したことにより、内部の燃料タンクが変形するとともに衝撃波が燃料を伝わってタンクを内側から破壊し、燃料タンクが6回爆発したという調査報告書を発表した。同報告書ではタイヤ破裂の原因とみられる金属片について、同じ滑走路を事故機の離陸数分前に離陸したC社航空D型機から脱落したものと結論付けた。BEAは、問題の金属片が使用されていたとみられるD型機の主翼部分の調査も行なったが、機材の消耗が著しく、D社(D機製造元)の定める耐久基準を満たしていないと報告した。D機から脱落した部品は、事故の僅か16日前に取り付けられたばかりのものとみられ、部品の交換作業についても不手際があったとし、C社航空の整備ミスが指摘された。直接の原因はタイヤの破裂だが、なぜタイヤの破裂が燃料タンク爆発の引き金になったのだろうか。BEAは、磨耗のため鋭利に貫通し、油圧制御システムにダメージを与えた、と報告している。油圧制御システムはギアをたたむ着陸装置を格納する格納室の中にあり、燃料タンクが火事になったため油圧系パイプがひきちぎられ、制御不能に陥ったと思われる。滑走路整備については、通常1日に数回点検を行うことになっているが、この日は予定の午後3時点検が諸事情で行われなかった。予定通り点検が行われていたとしても、B機離陸数分前にC航空機から脱落した金属片を発見するのは現行の点検スケジュールでは不可能であったと思われる。 |
対処 |
墜落現場は空港利用者が使用する郊外型のホテルが散在している地区でまさに滑走路の延長線上にある。墜落で全焼したホテルの被害者が、夕方にもかかわらず宿泊客1人と従業員3人だけだったのが不幸中の幸い。現場一帯は主要道路が封鎖され、一般車両は立ち入り禁止になった。警察や救急隊の車両が頻繁に行き交い、焼け焦げた機体からは夜にかけて80人以上の遺体が収容された。 |
対策 |
事故後、BEAは、全B型機のタイヤおよびホイールを徹底的に検査するように勧告。B型機は運航停止となり、再び運航を開始したのは事故から1年3か月半経った2001年11月7日。 |
知識化 |
航空機墜落事故はいくつかの複数因子が重なって起きる。つまり、ひとつの因子だけでは飛行機は墜落しない設計になっているという。今回の事故はそれを象徴しているように思う。タイヤ付近の部品やホイールの磨耗がなければ、タイヤが破裂しただけでは飛行機は墜落しなかったかもしれない。 |
背景 |
折りしも事故前日の24日にE航空が、同社保有のD型7機全ての尾翼に亀裂を発見し、うち1機の運航を停止したと発表したばかりで、事故との関係が注目されたが、A社は、事故機からは亀裂は見つからなかったと述べた。これらの亀裂については、同年2月の点検の際に、尾翼で5cm程度のものが確認されたが、安全上問題はないとの判断により、その後も英仏両国の航空当局の監視のもと通常通り運航されていた。しかし、このうち1機の亀裂が拡大していることが判明したために、運航停止の措置を24日にとった。また、今回の事故は20年前のトラブルと酷似していると強調。最初のトラブルは1979年6月。米国ワシントン、ダレス空港でA社のB社製B機の後輪2つが離陸中に破損、金属部分の破片がエンジン1基と主翼内部の燃料タンクを貫通、電気配線も損傷した。同機は残るエンジン3基で空港に引き返し、大事故は回避された。 |
後日談 |
本件事故では、犠牲者の遺族らが、A社に対し損害賠償請求訴訟を提訴。それに対し、A社と保険会社は2000年11月、C社航空の責任を追及するためにC社航空を相手に訴訟を起こした。なおC社航空は、滑走路で発見された部品がC社のD型機のものかは確認できず、 【追補;2010年3月】 また部品が落ちていた場所より手前で既にエンジンから発火していたなどとして、整備不良などが事故原因などと主張。 2010年2月2日、事故責任の所在を審理する裁判がパリ郊外ポントワーズの裁判所で始まった。C社の担当者やコンコルドの整備責任者、設計責任者らが被告となり、審理を受ける。 |
よもやま話 |
D機は、ジャンボジェットよりも更に高度の高いところを倍のスピ-ド(マッハ2)で飛行するスーパーソニックジェットとして脚光を浴びていた。また、民間レベルでは「空の貴婦人」という愛称で人気を集めていた。しかし、ハイテクを誇る分、燃費が非常に悪く、座席数もG社製G機と比較すると格段に少なかったので(100席)、経済効率が悪かった。そのため、航空機市場ではその購買数を伸ばすことができなかった。 【追補;2010年3月】 フランスのA社は2003年5月に運航を終了し、英国の航空会社も2003年10月24日に運航を取りやめた。これによりコンコルドは全て退役した。 |
当事者ヒアリング |
ホテルAに隣接するホテルの支配人「ちょうど電話をかけながら外を見ていたら、黒煙を噴くB機がこちらに突っ込んできた。あわてて外に飛び出した」 |
データベース登録の 動機 |
他社のメンテナンス不備が他社の航空機墜落事故を誘発しためずらしい事例なので選択した。 |
シナリオ |
主シナリオ
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不注意、注意・用心不足、保守時の不注意、使用、保守・修理、機能不全、ハード不良、機械・装置、メンテナンス、取付け部品、ボルト、脱落、不良現象、機械現象、過負荷、想定外負荷、タイヤ、不良現象、機械現象、衝突、破損、変形、塑性変形、不良現象、化学現象、発火、引火、破損、大規模破損、墜落、身体的被害、死亡、身体的被害、負傷
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情報源 |
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/851864.stm
http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/article/concorde /200007/26-8.html
http://www2.justnet.ne.jp/~satoshitoyama/cadb/wadr/accident /20000725a.htm
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死者数 |
113 |
負傷者数 |
10 |
物的被害 |
機体、乗客および乗員の貴金属、持ち物など数々の物品。ホテル建物、ホテル内の設備、宿泊客の持ち物などの物品。 |
社会への影響 |
英仏両国が世界に誇るB機の墜落事故は空港関係者にとって大きな衝撃だった。高速のスーパーソニックよりも安全を、という声が高まった。 |
分野 |
機械
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データ作成者 |
エツタイノ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)
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