失敗事例

事例名称 爆発によるA社航空機墜落事故で230人が死亡
代表図
事例発生日付 1996年07月17日
事例発生地 米国ニューヨーク、ロングアイランド沖
事例発生場所 大西洋上
事例概要 1996年7月17日、米国ニューヨーク、J・F・ケネディ国際空港発パリ行きA航空A便が、午後8時40分、離陸直後、突然上空で爆発し、ニューヨークのロングアイランド沖に墜落した。230人の乗客と乗組員の全員が死亡する大惨事となった。当時、墜落の原因としてテロやミサイル衝突説が浮上したが、結局、その後のNTSB(米国国家運輸安全委員会)の報告では、胴体にある中央の燃料タンクが爆発したのが墜落原因とされている。米国国家運輸安全委員会は事故の再発防止策として、老朽化機体のメンテナンス・チェックおよび窒素不活性化ガスの注入や断熱材の適用を促した。
事象 1996年7月17日午後8時19分、予定より一時間遅れてJ・F・ケネディ国際空港から、パリに向けてA航空A便(B社製B型)が230人の乗員乗客を乗せて飛び立った。午後8時25分、同便はボストン運航管制センターのレーダーにロングアイランド上空で捕捉されたが午後8時40分突然爆発した。爆発直前、オレンジ色の発光体を見たという証言のため、テロ説やミサイル衝突説が浮上したが、燃料タンクの火災が墜落原因だと判明。
経過 1996年7月17日午後8時19分、J・F・ケネディ国際空港を出発した事故機は、午後8時40分、ロングアイランド上空で突然爆発し、そのまま火の塊となって大西洋に墜落した。午後10時30分、ホワイトハウスに緊急会議司令センターが設置され、連邦航空局、沿岸警備隊、FBI、CIA、国防総省の面々が集まり、テロの可能性を示唆。 この日はアトランタオリンピック開幕の2日前のことで、テロの予告もいくつか報告されていた。さらに、154人にのぼる、ロングアイランド付近に住む住民たちの目撃証言が謎を深めた。オレンジ色の光の筋が、飛行機に向かって飛んでいき、その後爆発が起こったという。証言者全員が、ほぼ同じような話をした。ロングアイランド沖は、アメリカ海軍にとって重要な警告ゾーン、つまり頻繁に軍事演習が行われる地域で、A航空A便はミサイルに撃ち落とされたのではないかと思われた。しかし、NTSBは結局、胴体にある中央の燃料タンクが爆発したのが墜落原因と結論を出した。電気配線の老朽化により火災が発生し、燃料タンクが爆発したと指摘。
原因 事故原因としては当初、テロまたはミサイルの誤射などが言われたが、結局、燃料タンクの爆発の可能性が最も有力。燃料タンク爆発原因については、Poly-Xワイヤの電気配線問題が指摘されている。事故機のB社製B型機は25年間にわたって使用され、電気系統のPoly-Xワイヤに老朽化が進んでいた。Poly-Xワイヤは老朽化が進むと、絶縁体部分にひびが入ったりしてショートが発生しやすくなる。さらに、燃料タンクの下には引火しやすい器具が搭載されていたため、電気配線のショートが燃料タンク爆発レベルのパワーまで発展してしまい、飛行機の墜落事故につながったのだとNTSBは報告。
対処 墜落地点は水深およそ120フィート、5平方マイルの区域として沿岸警備隊が捜索した。海中はおよそ華氏65度の水温で、生存者が助かるのはおよそ8時間が限度という。73人の遺体が回収され、遺体安置所に運ばれた。
対策 米国国家運輸安全委員会は老朽化した機体のメンテナンス・チェックおよび電気配線問題の解決策を促進するとともに下記の対策を勧告。(1)タンク内の透き間に窒素不活性化ガスの注入。(2)エアコンなどの熱源と燃料タンクの間に断熱材を入れる。(3)飛行の前に冷たい燃料を注入する。また、2か月前にC航空の事故(酸素ボンベの取り扱いミスが原因)が起きたばかりだったので、今回のA航空事故も合わせ、大統領の任命でゴア副大統領を議長とする特別委員会が設立され、対策を提案するレポ-トが出された。
知識化 過去の事故から学習すること。2か月前にもC航空の事故が起きたばかり。航空機事故の場合、事故が起きてからでは救済が間に合わないケースが多い。そのため、何重にもわたる事前チェックは必須。飛行機設計後のエンジニアによるダブルチェック、また老朽化に対しても航空会社はメンテナンス・チェックを入念に行う必要がある。
背景 Poly-Xワイヤの電気配線問題、燃料タンクの下に引火しやすい器具が搭載されていたこと、老朽化した機体のメインテナンス・チェックの不備、コスト削減、危機感の喪失などの要因が合わさり、今回の事故につながったと考えられる。また、米国では1978年に航空の規制が撤廃され、運賃やサービスが自由競争となった。新規参入や値引き競争が熾烈になり、航空各社はコストを切り詰めるため古い航空機を買い、整備費用を下げるなど安全面を犠牲にした。その結果、格安運賃を売り物にした新規会社のC航空が1996年から1997年にかけて連続事故を起こした。さらに監督者であるべき連邦航空局は、業界の『パートナー』としてC航空など新規会社の支援を優先、厳しい安全監視をしていなかった。
後日談 1996年5月にはC航空機墜落事故が、同年7月にはA社機墜落事故が相次いで発生した。ともに老朽化した機体に火災が発生して墜落している。両事故の後、米国国家運輸安全委員会は老朽機の電気配線チェックなどの強化策を打ち出した。にもかかわらず、同じ電気配線問題が原因で1998年にスイス航空機墜落事故が発生。スイス航空の事故は、米国国家運輸安全委員会が打ちだした対策を軽視した結果としか思えない。ちなみにA社は2001年4月にD航空に買収された。
よもやま話 惨事から1年たった1997年7月17日に、A航空A便犠牲者の家族と友人たちが、追悼式に出席するためにニューヨークに集まった。 式典は、マンハッタンの五番街にあるセント・パトリック大聖堂で行なわれた。その日の午後、ロングアイランドの墜落現場近くにあるスミスポイント公園で追悼会が行なわれ、ニューヨーク州知事が主人役を務めた。なお、A航空A便の事故の死者を追悼し、また救援に協力した人々をたたえるためのメモリアルパークが作られた。
データベース登録の
動機
老朽化した機体のメインテナンス・チェックの大切さを再認識させる事故だから選択した。
シナリオ
主シナリオ 環境変化への対応不良、使用環境変化、自然的条件変化、経時変化、使用、運転・使用、不良現象、電気故障、電気接点、短絡、火花、不良現象、化学現象、発火、引火、破損、大規模破損、爆発、ガソリン、破損、大規模破損、墜落、身体的被害、死亡、身体的被害、負傷
情報源 http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/893705.stm
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad/5479/hi-jack7.html
http://www.aviationtoday.com/reports/wiring7.htm
死者数 230
負傷者数 0
物的被害 機体、乗客および乗員の貴金属、持ち物など数々の物品。
社会への影響 今回の事故で亡くなった方のなかには、まだ学生のティーン・エージャーも多かったので、本当に悲惨な事故として人々にショックを与えた。また、事故はテロやミサイル衝突とは関係ないとの結論が出されたが、爆発直前のオレンジ色の光は何だったのかと疑問に思う人も多く、民間レベルではA航空墜落事故は未だに謎につつまれている。
分野 機械
データ作成者 エツタイノ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)