失敗事例

事例名称 副操縦士の意図的行動によるA社航空機の墜落
代表図
事例発生日付 1999年10月31日
事例発生地 マサチューセッツ州ナンタケット島沖南東96Kmの大西洋上
事例発生場所 大西洋上
事例概要 1999年10月31日午前1時51分頃(アメリカ東部時間)ロサンゼルス発ニューヨーク経由カイロ行きA社航空A便(B社製B型機)が、ニューヨークのジョン・F・ケネディー空港を離陸後、マサチューセッツ州ナンタケット島沖南東96Kmの大西洋上に墜落した。この事故で運航乗務員4名、客室乗務員10名、乗客203名、計217名全員が死亡した。墜落の直前まで飛行は順調であったが、事故機は高度約33000フィートの上空からほぼ垂直の姿勢で墜落した。A社航空は、事故機の昇降舵には不具合があり、この不具合が事故の原因であると主張してきたが、米国国家運輸安全委員会は、2002年3月に最終報告書をまとめ、副操縦士の意図的な行動が事故を引き起こしたと結論づけた。
事象 濃霧のため約2時間遅れでニューヨークのジョン・F・ケネディー空港を離陸した事故機は午後1時45分に自動操縦に切り替えられたがその直後、異常なことにその自動操縦が停止された。その後、副操縦士は「神が頼りだ」と言いながらエンジンの出力を下げ、機長の反対を押し切って操縦桿を強く押したため、機体は急降下し始め、1時51分に海へ墜落した。
経過 レーダーおよび2つのボイスレコーダー(フライトデータレコーダーおよびコックピットボイスレコーダー)からの記録によると、高度33000フィートまでは何も異常がなかった。1時45分、通常通り飛行機は自動操縦に切り替えられた。が、その約1分後自動操縦の接続が打ち切られた。この時、エンジンの減速と推進力の減少がフライトデータレコーダーに記録されており、コックピットボイスレコーダーには副操縦士の「神が頼りだ」という声が録音されている。1時50分、機体は降下し始める。機体のマスター警告システムが警告を発し、およびエンジンモニターが油圧の減圧を警告するが、コックピット側の対処はなし。1時50分20秒、エンジンが止まる(B社によると、エンジンの停止は意図的な行動以外には考えられないという)。機体は降下していたが、一瞬上昇し始める。が、1時51分、力尽きたかのように高度約33000フィートの上空からほぼ垂直の姿勢で海へ墜落した。
原因 墜落の直前まで飛行は順調であったが、機長が席を外した際に、突然副操縦士は「神が頼りだ」と言いながら、エンジンの出力を下げ、操縦桿を強く押した。操縦室に戻った機長は機体を立て直すために操縦桿を引き起こそうとするとともに、副操縦士に引き起こすように呼びかけたが、応じることはなかった。急降下が始まった直後にコックピットで操縦士と副操縦士がもみ合ったことを示す形跡がコックピットボイスレコーダーに記録されている。A社航空は、事故機の昇降舵には不具合があり、この不具合が事故の原因であると主張してきたが、米国国家運輸安全委員会は、2002年3月に最終報告書をまとめ、副操縦士の意図的な行動が事故を引き起こしたと結論づけた。副操縦士の行動の動機について、米国国家運輸安全委員会は明らかにしていないが、A社航空関係者の証言として報道されたところでは、機長への個人的恨みによる報復と言われている。
対処 沿岸警備隊は管制当局から緊急通報を受けて、ただちに救難機7機と捜索船6隻を出動させ、捜索を続けている。連邦航空局の幹部によると、同日午前6時半ごろ、座席など機体の残がいや油が、同州のナンタケット島の南約70Km付近で見つかった。同日、沿岸警備隊は乗客とみられる1遺体を収容した。
対策 米国国家運輸安全委員会は、各航空会社に対しB社製B型機の昇降舵点検を勧告。米国側調査チームとエジプト側調査チームはそれぞれ独自に調査を開始。エジプト側は墜落は原因不明の機械的トラブルにあると主張。が、米国側は事故機を墜落に導いた副操縦士の生活態度や発言を調査したり、副操縦士が絶望的になった原因を知っている証人とインタビューを行ったりして徹底的に原因を究明した。
知識化 検査に慎重しすぎるという言葉はない。乗務員の身体検査を精神状態を含め、強化する必要がある。
背景 米国調査チームは副操縦士が絶望的になった原因を知っている証人と秘密のインタビューを行っている。この証人は元A社航空のパイロットで名前をC氏といい、2000年2月にエジプトから英国に政治亡命をしている。Cの話によると、墜落の2、3日前に問題の副操縦士とA社航空上級パイロットがニューヨークで口論していたという。この上級パイロットは副操縦士に対してA社航空としては彼のセクハラを含む度重なる非行にうんざりしていると言い渡した。また、A便がその副操縦士の最後のフライトになると言ったらしい。
後日談 このA社航空機事故で、乗客のシリア人男性の遺族が17日、A社航空と航空機メーカーのB社に対し、5000万ドル(約53億円)の損害賠償を求める訴訟を米国の裁判所に起こした。同航空機事故をめぐる訴訟は初めてとみられる。
よもやま話 A社航空機事故は副操縦士の自殺説が濃厚と発表されたがイスラム社会ではこの発表に激怒。イスラムでは自殺は最も忌み嫌う死に方らしい。
当事者ヒアリング 副操縦士「神が頼りだ」
データベース登録の
動機
副操縦士が意図的に飛行機を墜落させたと言われている事故なので選択した。
シナリオ
主シナリオ 不良行為、倫理道徳違反、悪意の行動、定常操作、誤操作、人為的条件変化、破損、大規模破損、墜落、身体的被害、死亡
情報源 http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/515921.stm
http://www2.justnet.ne.jp/~satoshitoyama/cadb/wadr/accident
/19991031a.htm
http://www.ntsb.gov/publictn/2002/AAB0201.htm
死者数 217
負傷者数 0
物的被害 機体、乗客および乗員の貴金属、持ち物など数々の物品。
社会への影響 A社航空墜落は副操縦士の自殺が原因という発表を聞き、人々は驚愕した。操縦士および副操縦士の健康チェックを精神面も含めて強化してほしい、という要望が殺到。
分野 機械
データ作成者 エツタイノ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)