事例名称 |
ヘリコプター火災、原因はエンジン故障 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2002年07月15日 |
事例発生地 |
イギリス・ドーセット州 |
事例発生場所 |
プール湾岸、イギリス海軍兵舎の運動場 |
事例概要 |
海上で行方不明になったとされる男性の捜索にあたっていたポートランド湾岸警備隊のA社製A型ヘリコプターが、陸地からおよそ4分の1マイル離れたプール湾上空を飛行中、エンジン部分より出火した。機長の判断で、プール湾岸にあるイギリス海軍兵舎の運動場に緊急着陸を行い、乗員4名は直ちに脱出したため無事だったが、その直後に激しさを増した火災によって機体は大破した。出火原因は、機体ギアボックス内にエンジンオイルが流入したためと見られている。 |
事象 |
2002年7月15日、ポートランド湾岸警備隊のA社製A型ヘリコプターは、海上で行方不明になったとされる男性の捜索活動を行っていた。エンジン作動から約1時間後、プール湾上空を飛行中に第2エンジン部分から出火、ついで油圧装置が故障した。この事態を受けて、プール湾岸にあるイギリス海軍兵舎の運動場に緊急着陸を行うことになった事故機は、煙をはき出しながらも接地に成功。乗員は直ちに脱出した。着陸と前後して第1エンジンから出火し、その火災によって機体は10分ほどで大破した。ヘリ1機のみの被害におさえられたのは、機長の冷静な判断と、乗員一人一人の的確かつ迅速な対処、そして日々の訓練のたまものである。 |
経過 |
事故当日、乗員4名は午前8時から機体および機器の点検を実施したが、その時点で異常は見られなかった。午後2時20分頃、事故機はエンジンを始動。5分後の同時25分に、男性が海上に投げ出されたおそれがあるという情報を受信し、プール湾での捜索を開始した。約40分後、現在位置から北方向にある船舶から大量の発煙が見られるとの連絡を受け、事故機が現場へ急行するべく機首を旋回させた直後、機体後部にいた乗員2名が異常音に気づき、続いて第2エンジン発火警報が発せられた。その点検中、第2エンジンの排気装置付近から煙が発生。機長は無線で湾岸警備隊に緊急事態を報告し、現在位置からおよそ8マイル地点のボーンマス空港へ向けて旋回を始めた。やがて、トランスミッションの油圧低下を知らせる警告灯が点灯。機長は、機体左方に見える海軍兵舎の運動場に緊急着陸する旨を湾岸警備隊に連絡し、進入体制を整えたとき、補助サーボ油圧低下の警告灯が、ついで主サーボ油圧低下の警告灯も点灯した。着陸装置を下ろした最終進入時点では、第1エンジン発火警報も発せられ、煙もさらに充満していたが、午後3時15分に機体は着陸に成功。接地後、乗員が第1エンジンを切り、直ちに機体から脱出した。その直後に本格的な火災が発生し、機体は大破。最初に発火警報が発せられてから接地するまで、約80秒間の出来事だった。 |
原因 |
事故調査は継続中であるが、現時点で、第2エンジンの主駆動軸の継手が何らかの理由で異常に回転していたことが判明している。その継手部分には放射状の遊びが見られたが、この遊びを生ぜしめる動きによって、管状後部エンジンの支柱とそこを通っている主駆動軸が接触し、支柱が徐々に損傷、その状態が続いたことにより、ギアボックス内へエンジンオイルが流入して第2エンジン内またはその付近から出火したと考えられる。 |
対処 |
事故機は2001年11月、累計使用時間29754時間40分時点でギアボックスの交換を行った。事故の約100時間前に行ったこの大規模な作業以降も、エンジン周辺の小規模な定例整備は行われていた。 |
対策 |
今後、航空機事故調査局は、可及的速やかに事故機の両エンジンをイギリス国内のオーバーホール施設へ搬送し、エンジンおよび機体メーカーと共同で分解調査を行い、エンジン出火の原因とされている主駆動軸の異常回転について究明するとともに、機体より回収した記録装置の解析を行う予定である。 |
知識化 |
乗員の訓練や機体の整備、各種機器の性能改良や信頼性向上、安全基準の検討などの努力によって、被害発生を防止することは非常に困難だが、被害を軽減することは十分可能である。このような努力は確かに相当なコストを要するが、長期的にはコスト削減につながるので、是非とも励行していくべきである。 |
背景 |
1988年にも、おそらく本件と同様の状況下で、A型ヘリが大破する事故が発生していた。 |
後日談 |
事故機は湾岸警備隊で使用された8機のうちの1機であるが、他の7機は事故調査中も使用を続行する。 |
よもやま話 |
ポートランド湾岸警備隊と航空機のリース契約を結んでいるB社の広報担当は事故後、自社が所有する航空機について「優れた安全記録を持ち、最高基準に基づいて定期的に整備を行っている」と述べ、非常に信頼性の高い機体であることを強調しながらも、航空機事故調査局と連携を密にして事故調査に協力する姿勢を示した。 |
当事者ヒアリング |
事故機・機長の談「エンジンから出火したときすぐに引き返せる地点にいたことや、緊急着陸可能な場所(海軍兵舎の運動場)を発見できたこと、乗員4名が無事だったことは、非常に幸運だった。機体から脱出したとき、ギアボックス付近から火が出ているのが見えた。緊急着陸した10分後には、機体は早くも煙のくすぶる残骸となっていた」 |
データベース登録の 動機 |
捜索救助活動に利用するような機体に機械的な問題があり、どうやらそれが10数年も解決されないまま放置されていたというのは、製造元や行政の信頼性向上努力が欠けていたということでもあり、極めて重大な問題であるが、当該事故は、乗員の的確な対処によって被害を最小限に食い止めることができたという点で特筆すべきものだと考えた。 |
シナリオ |
主シナリオ
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未知、異常事象発生、エンジン、不良現象、化学現象、発火、非定常操作、緊急操作、停止、緊急停止、爆発
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情報源 |
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/england/2159156.stm
http://www.aaib.dft.gov.uk/special/gbbhm/gbbhm.htm
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/england/2131775.stm
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/england/2130495.stm
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
A社製A型ヘリコプター1機 |
被害金額 |
4百万ポンド。A社製A型ヘリ1機の金額。 |
分野 |
機械
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データ作成者 |
サトミヨコタ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)
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