失敗事例

事例名称 設計上の欠陥から悪天候の中A社A型機が墜落
代表図
事例発生日付 1995年05月24日
事例発生地 イギリス・ウエストヨークシャー州
事例発生場所 リーズブラッドフォード空港の北東およそ10キロメートルの畑地
事例概要 1995年5月24日、乗員3名・乗客9名を乗せたアバディーン空港行きのA社A型機A便が、折からの雷雨のなかリーズブラッドフォード空港を離陸。およそ2分後、事故機の飛行計器が故障したため出発空港へ引き返すこととなり、航空交通管制の指示を受けつつ機体の制御を試みた。しかしながら、離陸後に判明した計器故障のために正確な現在位置が把握できなかったことに加え、悪天候による視界不良、機長および副操縦士の職務経験の浅さなどの要因が重なり、制御不能となった機体はきりもみ状態で急速に降下。急激な対気速度の変化に耐えきれずに機体尾部が空中で折れ、そのままリーズブラッドフォード空港の北東およそ10キロメートルにある畑地へ墜落した。乗員乗客全12名は即死。
事象 乗員乗客12名を乗せたアバディーン空港行きA社A型機A便が、激しい雷雨のなかリーズブラッドフォード空港を出発。離陸後、機首を143度方向に向けるよう管制官から指示されていたにも関わらず、機体は左旋回して50度方向に向かった。副操縦士の報告によって人工水平儀の故障が判明したため、事故機は出発空港へ引き返すことになった。管制官から高度および機首方向の指示を受けるも、人工水平儀の故障により飛行状態の判定ができず、コントロールを失った機体は高度3600フィート地点から急角度のきりもみ降下を始めた。降下中に、機体右翼・胴体・尾部などが損壊し、火災が発生。離陸からおよそ10分後、機体はリーズブラッドフォード空港の北東およそ10キロメートルの畑地に墜落、半径3キロメートル以上にわたって残骸が散乱し、乗員乗客全員が即死した。
経過 事故機は午前8時44分、アバディーン空港からリーズブラッドフォード空港に到着。機体整備を行い、午後に再びアバディーン空港へ出発する予定だった。午後4時20分頃、9名の乗客と3名の乗員が搭乗。当時のリーズブラッドフォード空港周辺は、激しい雷雨が発生したために強風および雷雨警報が発令されており、雲高400フィート、滑走路視距離も1100メートルほどしかない状態だった。午後4時41分、事故機は滑走路14へ移動、47分に離陸した。管制官から機首を143度に保つよう指示されていたが、事故機は離陸後すぐに左旋回し、1分50秒後に機体は高度1740フィートで50度方向に向かっていた。事故機の副操縦士から、人工水平儀が故障したため出発空港へ引き返したいとの報告があり、管制官は高度3000フィートで360度方向に向かうよう指示したが、機体は360度方向へ左旋回を始めた直後に、高度2800フィート・バンク角30度で右旋回を始めた。軌道を外れて航行していると指摘する管制官に対し、副操縦士はレーダーベクトルの変更を依頼、これを受けて管制官は340度方向に機首を向けるよう指示したが、機体はバンク角30~40度で左旋回。この後、副操縦士の問いに対し、管制官は「機体が直進しているように見える」と返答。副操縦士からの雲高に関する問い合わせを最後に、通信は途絶える。レーダーによると、高度3600フィートでやや北よりに機首を向けていた機体は、左手方向に向かってきりもみ降下を始め、およそ25秒間に高度2900フィート・バンク角は約45度に拡がり、機首方向230度を過ぎてレーダーから消えた。降下中に機体右手エンジンの外側から翼が外れ、水平尾翼が故障、胴体部分が断裂し、航空燃料に引火。炎に包まれた状態でリーズブラッドフォード空港の北東およそ10キロメートルの畑地に墜落した。
原因 まず第一に、事故機に搭載されていた2つの人工水平儀のうち、1つもしくは2つとも故障したことによって機体の水平状態が得られなくなり、その結果、飛行状態を維持することができなくなったことが挙げられる。また、事故機には正確な高度を参照できる計器が他に搭載されておらず、飛行計器の故障を判別する装置すらなかったことも機械的要因の1つである。人的要因は、事故機を操縦していたとされる機長が人工水平儀によらない状態で機首を制御できず、結果として、他の飛行計器を参照しながら悪天候のなかを飛行する間、機体のコントロールができなかったことにある。加えて、強風・雷雨という不良な気象状態のなかで操縦担当者の方向感覚が失われたために、きりもみ降下から回復することができなかったことも挙げられる。
対処 リーズブラッドフォード空港離陸前に、整備員が運用許容基準をもとに機体の整備点検を行い、離陸準備を完了していた。
対策 事故の調査内容をふまえ、イギリス国内のA社A型機に取り付けられた人工水平儀に関して各種の安全勧告がなされた。そのうち、イギリス民間航空局に課せられたのは、a.設計権限当局が点検整備規格と適切な梱包・取扱・保管条件を定めるよう命じる、b.設計権限当局が認可した施設において点検整備を行い妥当な規格に戻すキャンペーンを、可能な限り早急に行う、c.適切な頻度で定期点検を行い人工水平儀の規格を維持する、d.公共輸送部門に属する航空機のうち座席9席以上のものに対して、独立した電力供給で作動する3つ目の人工水平儀を取り付ける、e.航空技能証明保持者に対して、運用許容基準の原本とオペレーションズマニュアルに記載されている運用許容基準とを定期的に照合させる、の5点。また、欧州合同航空当局へなされた勧告では、輸送部門に認可された全航空機のうち、2基以上のタービンエンジンで作動し9名以上の乗客を乗せる機体に対し、最低30分間録音できる4チャンネルのボイスレコーダーを搭載する必要があるか検討すべきだとしている。
知識化 「事故が発生してからでは遅い」という事実を教訓に、安全基準の検討や計器の信頼性およびパイロットの飛行技術向上など、行政・製造元・航空会社それぞれが「有事に備える」取り組みを断行しなければならない。コストがかさんで収益が見込めないという理由から、入念な整備もせずに経年機を使用していれば、かえって損害が大きくなることも十分にありうるのである。
背景 調査の結果、事故機の人工水平儀は、2つとも同一の直流電流母線から電力供給を受けるよう設計されていた。これは、何らかの理由で電力供給が停止した場合、ただちに両人工水平儀が機能を停止して現在の飛行状態を知ることができなくなることを示しており、計器の設計そのものに欠陥があったと見るべきである。また、事故機の人工水平儀に対して、突発的に故障して交換したときの平均使用時間を調査すると、他のA社A型機3機の平均時間よりも約4倍短いことや、事故機の機齢15年間に交換された人工水平儀のうち、取り付けてから40時間以内に取り替えられたものが総数の4分の1を占めていたことが判明した。さらに、事故時点におけるA社A型機の累計飛行時間は、機長は1000時間以上だったが、副操縦士はわずか46時間しかなかった。その機長も、事故までのA社A型機の機長経験は、5月10・18・19日の3回のみだったことから、機長・副操縦士ともに職務経験が浅く、悪天候下での操縦技術が未熟であったと考えられる。
後日談 A社A型機の人工水平儀に関連するトラブルは、この他にも2件発生している。1995年6月4日、離陸前後に人工水平儀が2つとも故障する事故が発生したが、地平線が肉眼で確認できたため、無事に着陸した。同年8月24日、90ボルト以上の過電圧によって停電が発生し、電力受給先を同じくする2つの人工水平儀が作動しなくなるトラブルがあったが、有視界飛行状態で航行していたため、事なきを得た。
よもやま話 1980年代はじめ、「A型機の人工水平儀はメンテナンスが難しい」という意見が寄せられたA社は、イギリスで認可を受けた航空機に対し、新しい人工水平儀を取り付けるよう提案した。なお、事故機の機長席側に取り付けられていたのは、そのメンテナンスが難しいとされる部品の人工水平儀だった。
データベース登録の
動機
飛行計器の故障、操縦者の飛行技術不足、視界が遮られるほどの悪天候、などは、単独で発生したならば大事に至ることはまずないと言えるが、どんな些細な問題でも、いくつか重なれば大事故につながる可能性があるのだから、軽視したり先送りしたりせず、適切かつ迅速に対策を講じるべきだと考えた。
シナリオ
主シナリオ 非定常行為、変更、手順変更、使用、運転・使用、非定常操作、緊急操作、進路変更、無知、知識不足、過去情報不足、教育・訓練不足、機能不全、ハード不良、機械・装置、破損、大規模破損、衝突、身体的被害、死亡
情報源 http://www.uoguelph.ca/~aroza/index2.html
http://www.aaib.dft.gov.uk/formal/goeaa/goeaa.htm
http://aviadoresonline.com/firmas/Turbohelice.htm#Ref.: T-1014
死者数 12
負傷者数 0
物的被害 A社製A型機が全壊、墜落した畑地で栽培していた穀物の一部が失われた。
被害金額 70万USドル。A社製A型機1機の価格に相当。算出根拠は情報源を参照。
備考 高さはフィート、距離はメートルに換算し、単位を統一した。
分野 機械
データ作成者 サトミヨコタ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)