失敗事例

事例名称 マイアナス河にかかるHWY95つり径間の崩壊
代表図
事例発生日付 1983年06月28日
事例発生地 米国コネティカット州グリニッッジ、マイアナス河
事例発生場所 ハイウェイブリッジ、第20-21橋脚間の吊り径間
事例概要 1983年6月28日、米国東海岸時間の午前1時30分、コネティカット州マイアナス河にかかるハイウェイブリッジの吊り径間が崩壊、トレーラー牽引車を含む4台の車両がこの吊り径間とともに70フィート(約21m)下のマイアナス河に落ち、その落下の衝撃で大破した。車両の乗員3名が死亡、3名が重症を負った。
事象 この橋は、東西に片側3車線ずつ交通が走るハイウェイブリッジで、いくつもの吊り径間からなり、橋脚の上にアンカースパン(定着径間)とカンチレバーアーム(片もち梁)が左右(東西)に張り出し、その両先端に吊り径間が固定される構造を持つ。崩壊したのは、第20-21橋脚間をつなぐ長さ100フィート(約30m)の吊り径間で、北東、南東の東側2隅がカンチレバーアームに、北西、南西の西側2隅がアンカースパンに固定されていた。固定方法にはハンガー(吊り材)とピンが用いられ、カンチレバーアームと吊り径間をつなぐ腹鉄筋部に垂直に設置されたハンガーを、上下2つのピンで留める仕組みになっている。さらにこのハンガーとピンは、腹鉄筋板の外側、内側の両方にとりつけられていた。このうちまず、内側のハンガーの下側のピン(吊り径間の腹鉄筋側)が緩んではずれたため、外側のピンにのみ荷重が移動。その過剰な負担からピンの肩が割れてハンガーからはずれ落ち、吊り径間が落下した。
経過 第20-21橋脚間の吊り径間とカンチレバーアームをつなぐ内側ハンガーから、何らかの理由で下部のピンが抜け落ちた。事故の9ヶ月前に当ハイウェイブリッジの定期検査が行われたが、その時点でピンの喪失は報告されておらず、また損傷、欠損の可能性についても検出されなかった。内側下部のピン喪失による余分な荷重は、長期にわたって(具体的な時間は記述無し)事故の原因となった外側下部のピンに移動し、その負担による疲労でピンの肩が割れ、ハンガーから抜け落ちた。内側、外側ともに下部のピンで支えられていた吊り径間側が支えを失い、橋を通過していた車両とともに70フィート下のマイアナス河に落下した。
原因 事故が起こる以前に南東隅の内側ハンガーパネルから下部のピンがはずれていた事実が、事前に検出できなかったために、時間の経過とともに外側のハンガーとピンに重量負担が移行し、ピンの疲労が蓄積された。この疲労によりピンの肩が割れを起こし、ハンガーから外れる原因となった。
対処 吊り径間の崩壊後、直ちにすべての車線を閉鎖した。
対策 コネティカット州交通省、連邦高速道路管理局(FHA)、米運輸交通行政官協会(AASHTO)、アメリカ運輸省(DOT)、米鉄鋼建設協会(AISC)、国家統一交通法規及び条例委員会(NCUTLO)の6団体それぞれに対し、国家運輸安全委員会(National Transportation Safety Board)による勧告書が発行された。主な内容は、各々の団体組織の働きに応じて、(1)設計(2)検査(3)メンテナンス(4)橋梁関連法規、(5)建造用材、などの基準を見直すというもの。さらに検査官教育の強化や”ピン&ハンガー”方式の橋に対する詳細な検査を強く求めている。
知識化 事故を未然に防ぐひとつの要点として、検査技術、検査人員の能力向上は大変有意義である。               現代における最も革新的な建造技術者のひとり、故Lev Zetlinは、この事故について以下のようなコメントを述べている。 ”このような致命的な事故にも、ポジティブな側面がある。マイアナス河橋の事故から学んだ事実が、他の橋を救うことを願い、またそう信じたい。そのために必要なのは、事故を防ぐエンジニアリングである。私は全てを見て、つとめて惨事を想定するようにする。それは私を恐怖させる。想像と恐怖は、悲劇を防ぐために、最も効果的なエンジニアリングなのである。”
背景 1958年開通のこのハイウェイブリッジ建設に採用された”ピン&ハンガー”方式は、コストを低く抑えることが出来るとして1950年代の橋の建造に多用された。
後日談 当事故で死亡した31歳の男性の代理人は、設計、メンテナンス、検査などの面で州が適切な処置を行わなかったと申し立て、コネティカット州は140万ドルを支払うことに同意した。この事故後、コネティカット大学をはじめ、事故の原因を事前に検出する器機の研究、開発がすすめられ、現在では疲労や損傷のモニタリングシステムなどが利用できるようになった。
よもやま話 米自然保護団体であるオーデュボン協会の観測によれば、この橋下に住む野鳥ホシムクドリの生息数は1978年に120,000羽であったが、1年後には12,000羽、翌1980年には一気に6羽にまで減少したという。同協会の見解では、ピンが緩んだことによる橋からの振動が原因である可能性が高いと報告されている。
シナリオ
主シナリオ 企画不良、戦略・企画不良、試験計画不良、価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、調査・検討の不足、事前検討不足、審査・見直し不足、使用、保守・修理、修理、不良現象、機械現象、構造の問題、メンテナンス性悪し、破損、劣化、材料強度不足、破断、身体的被害、死亡、社会の被害、社会機能不全、未来への被害、予想可能な結果
情報源 http://www.msha.gov/FATALS/1997/FTL97M09.HTM
死者数 3
負傷者数 3
物的被害 $2,300,000以上
社会への影響 事故により、両側6車線全てが直ちに閉鎖され、事故のあった北側2車線と、反対3車線が25日後に臨時開通するまで、全ての車両が完全迂回を強いられた。(橋は同年9月に完全復旧)
分野 機械
データ作成者 タカコホール (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)