事例名称 |
雪印乳業の乳製品による集団食中毒事件 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2000年06月27日 |
事例発生地 |
関西地方 |
事例発生場所 |
関西地方の一般消費者 |
事例概要 |
雪印乳業(株)大阪工場製造の「低脂肪乳」等を原因とする食中毒事件は、平成12年6月27日に最初の届出がなされて以降、報告があった有症者数は14,780名に達した。原因は、大樹工場において停電により製造ラインが止まり、その対応ができずに菌増殖し、乳材料に毒素が発生した。この乳材料が、本来廃棄処分すべきところ、製造に回され毒素残存脱脂粉乳となった。大阪工場でこの 毒素残存脱脂粉乳から乳製品を製造、出荷したため食中毒が発生した。さらに食中毒発生後、社告の掲載、記者発表、製品の自主回収などが遅れ、食中毒の被害が関西一円に拡大し、近年、例を見ない大規模食中毒事件となった。 |
事象 |
雪印乳業(株)大阪工場製造の「低脂肪乳」等を飲んだ人が次々と食中毒を起し、平成12年6月27日に食中毒の最初の届出がなされて以降、有症者数は14,780名にのぼった。大阪市は、6月28日に製造自粛、回収、事実の公表を指導し、6月29日に本事件の発生を公表、6月30日に回収を命令した。社告の掲載、記者発表、製品の自主回収などが遅れたため、被害が拡大した。7月2日、大阪府立公衆衛生研究所が「低脂肪乳」から黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンA型を検出し、大阪市はこれを病因物質とする食中毒と断定し、大阪工場を営業禁止とした。雪印乳業は7月11日、全国21工場の市乳生産を停止した。 7月25日 厚生省が10工場の操業再開認め、雪印乳業は10工場の操業を27日から順次再開。8月2日 厚生相が直営20工場に安全宣言。雪印乳製品の販売停止全国に広がった。捜査の過程で、8月18日に「低脂肪乳」等の原料に使用されたと思われる同社大樹工場製造の脱脂粉乳(4月10日製造)からエンテロトキシンA型を検出され、北海道は8月19日から同工場の調査を行い、8月23日に当該脱脂粉乳の製造に関連した停電の発生、生菌数に係る基準に違反する脱脂粉乳の使用、4月1日及び4月10日製造の脱脂粉乳の保存サンプルからエンテロトキシンA型の検出等の調査結果について公表した。さらに、大樹工場に対して食品衛生法第4条違反として同法第23条に基づき乳製品製造の営業禁止を命じるとともに、4月1日及び10日製造の脱脂粉乳について回収を命じた。この食中毒事件で雪印乳業は社会からの信頼をなくし、主力の牛乳事業が落ち込み、3月期連結最終赤字が529億円となった。また大阪工場等2工場の閉鎖に追い込まれた。 |
経過 |
(1)3月31日 雪印乳業大樹工場で午前11時から約3時間停電が発生した。これにより、通常なら数分間で終わるクリーム分離工程で、脱脂乳が20-30度に加熱された状態で約4時間滞留した。 また余った脱脂乳をためておく濃縮工程の回収乳タンクでも、停電により9時間以上冷却されずに放置された。このため黄色ブドウ球菌が増殖、毒素のエンテロトキシンAが大量に生成された。 (2)4月1日 本来ならパイプ内に滞留した原料は廃棄すべきだったが、殺菌装置にかけ黄色ブドウ球菌を死滅させることで安全と判断、脱脂粉乳を製造した。脱脂粉乳は830袋が製造された。このうち450袋は黄色ブドウ球菌、大腸菌、一般細菌などの検査で異常が認められなかったため出荷された(450袋のうち112袋が乳製品として使用され、のこりは倉庫に入った)。380袋は、一般細菌類が同社の自社規制値(1グラム当たり9900個)を1割強超過しており、本来なら製品にできないものであるにもかかわらず、現場の衛生管理の知識が徹底していなかったため、4月10日に製造した脱脂粉乳の原料として再利用した。大樹工場ではこれを原料に4月10日には750袋を製造・出荷し、このうち大阪工場が278袋使用している。 (3)6月20日 雪印大阪工場が大樹工場製の脱脂粉乳を入荷。 (4)6月23日 大阪工場が被害の原因となった乳製品を製造(~28日)。 (5) 6月27日 雪印乳業大阪工場製の低脂肪乳で食中毒症状を起こしたとの最初の報告が大阪市と雪印に入る。翌28日にかけて発症者の届け出が拡大した。 (6) 大阪市は、有症者の調査、大阪工場の立入検査等を実施し、当該工場製造の「低脂肪乳」について、6月28日に製造自粛、回収、事実の公表を指導し、6月29日に雪印乳業が会見し本事件の発生を公表、6月30日に大阪市は回収を命令した。この間も多数の患者が発生し、近隣府県市に及んだ。 (7) 厚生省は、6月30日に大阪市に職員を派遣して関係府県市担当者会議を開催し、同工場が総合衛生管理製造過程の承認施設であったため、7月1日に大阪市と合同で立入検査を行った。 (8) 7月2日、大阪府立公衆衛生研究所が「低脂肪乳」から黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンA型を検出した。大阪市はこれを病因物質とする食中毒と断定し、大阪工場を営業禁止とした。また大阪府警が業務上過失傷害の疑いで捜査を開始。5日 被害者が1万人を超える。6日 雪印乳業の石川哲郎社長(当時)が引責辞任を表明。 (9) 7月10日、大阪市は、有症者の調査、大阪工場への立入検査等の結果に基づき、中間報告をとりまとめ、公表した。報告があった有症者数は14,780名に達した。 (10) 7月11日 雪印が全国21工場の市乳生産を停止。 (11) 7月25日、厚生省が京都、神戸など10工場の操業再開認める。8月2日、厚生相が直営20工場に安全宣言。 (12) 8月18日、大阪市は、大阪工場の製品による集団食中毒事件で、同社大樹(たいき)工場(北海道大樹町)が製造した脱脂粉乳(4月10日製造)から黄色ブドウ球菌の毒素(エンテロトキシンA型)が検出されたと発表した。雪印乳製品の販売停止広がる。 (13) 北海道は、大阪市の調査依頼及び厚生省の指示を受けて、8月19日から同工場の調査を行い、8月23日に当該脱脂粉乳の製造に関連した停電の発生、生菌数に係る基準に違反する脱脂粉乳の使用、4月1日及び4月10日製造の脱脂粉乳の保存サンプルからエンテロトキシンA型の検出等の調査結果について公表した。脱脂粉乳は大阪工場製の乳飲料などの原料として使用されていた。 (14) 9月23日、大樹工場から提出された停電事故対策を含む改善計画書を受理し、10月13日に営業禁止命令を解除し、10月14日から操業が再開された。 (15) 9月26日 雪印乳業が来年3月期の業績見通しを発表。連結ベースでの経常損益は538億円の赤字に転落。大阪工場の閉鎖も発表。 (16) 12月20日、雪印乳業の製品による食中毒事件の「厚生省・大阪市原因究明合同専門家会議」は、会議を開き、最終報告をまとめた。食中毒の原因を大樹工場(北海道大樹町)製脱脂粉乳と断定。同工場で起こった停電の際に、クリーム分離工程か濃縮工程の回収乳タンクのいずれかで、黄色ブドウ球菌の毒素が発生したとした。 (17) 12月22日、雪印乳業は二十二日、最終報告書を発表した。報告書は食中毒の原因を大樹工場(北海道大樹町)の脱脂粉乳製造過程と断定、3月の停電で大樹工場内の温度管理が不適切になったのが毒素発生の原因とした。 |
原因 |
1.直接原因 大樹工場の停電 停電により製造ラインが止まったが、その対応ができず、回収乳の加温状態が長引いて黄色ブドウ球菌が増殖、エンテロトキシンA型毒素が発生した。この毒素に汚染された乳材料から乳製品が製造され、食中毒が起こった。 2.主原因(組織的原因) (1) 停電により製造ラインが止まったが、その対応ができず菌増殖、毒素が発生した乳材料が、本来廃棄処分すべきが、製造に回された。 ◆現場の衛生管理の知識が徹底していなかった。 ◆現場の危機管理意識の欠如 停電時マニュアルなし。 停電などで製造工程が止まった際の菌の増殖防止や、工場の再稼動手順や製品検査、廃棄基準等を決めたマニュアルは作成されていなかった。 (2) 製造された脱脂粉乳の細菌数が同社の安全基準を上回り、本来廃棄処分すべきにもかかわらず「加熱殺菌すれば安全」と判断し、細菌数が規格を上回った製品を原料に再利用し、新たに脱脂粉乳を製造、大阪工場に出荷した。 ◆工場長をはじめ従業員はエンテロトキシンに関して熟知していなかったばかりか、「細菌から発生する毒素は加熱しても毒性を失わない」という基礎知識が欠落していた。職場は食品衛生の基本的な認識が薄らいでいた。 ◆社内基準が遵守されなかった。基準マニュアルは作っただけ、形骸化している。 3.食中毒の被害が拡大原因(組織的原因) 食中毒が発生した後に製品の自主回収、社告の掲載、記者発表などが遅れ、食中毒の被害が拡大した ◆最初のミスは、被害の兆候を「通常の苦情、問い合わせ」と判断したこと、集団食中毒に発展するという意識は全くなかった。 ◆ブランドが傷付くことを恐れ、漫然と時を過ごした経営トップの危機管理の甘さ、回収、社告の掲載、記者発表等対処の決断の遅れ。トップが決定に関与しない。経営トップの責任体制、リーダーシップの欠如。 ◆責任逃れからくる事実の隠ぺい、情報伝達の不手際 |
対処 |
1. 大阪市は、有症者の調査、大阪工場の立入検査等を実施し、当該工場製造の「低脂肪乳」について、6月28日に製造自粛、回収、事実の公表を指導し、6月30日に大阪市は回収を命令した。 2. 厚生省は、7月1日に大阪市と合同で立入検査を行った。 3. 7月2日、大阪市は黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンA型を病因物質とする食中毒と断定し、大阪工場を営業禁止とした。 4. 7月11日 雪印が全国21工場の市乳生産を停止 5. 8月18日、大阪市は、大阪工場の製品による集団食中毒事件で、同社大樹(たいき)工場(北海道大樹町)が製造した脱脂粉乳(4月10日製造)から黄色ブドウ球菌の毒素(エンテロトキシンA型)が検出されたと発表した。 6. 北海道は、8月19日から大樹工場を調査、8月23日に当該脱脂粉乳の製造に関連した停電の発生、生菌数に係る基準に違反する脱脂粉乳の使用、4月1日、10日製造の脱脂粉乳の保存サンプルからエンテロトキシンA型の検出等の調査結果について公表した。さらに、北海道は、大樹工場に対して食品衛生法第4条違反として乳製品製造の営業禁止を命じるとともに、4月1日、10日製造の脱脂粉乳について回収を命じた。 7. 厚生省、総合衛生管理製造過程(HACCP=ハサップ)の承認を受けた全国の牛乳製造工場に、原料の脱脂粉乳の毒素検査を義務付ける、またエンテロトキシンを危害原因物質に加えることを検討。類似の食中毒事例の再発を防止するため、衛生基準の策定、HACCPの導入等の措置を講ずる。 HACCP: 厚生省が、高度な衛生管理システムを整えている乳処理施設などに承認を与えている「危険度分析による衛生管理」(HACCP=ハサップ)は、各工程で起こりうるリスクを分析し、その対策を完備することによって製品の安全性を確保する手法。 |
対策 |
1. 雪印、大樹工場、停電事故対策を含む改善計画 2. 雪印、抜本的な組織改革。 事件後、雪印では、事件の遠因とされる複雑な会社組織を大幅に見直した。支社制や事業本部制などを廃止し、商品の品質管理の向上のために社長直轄の商品安全管理室を設けた。 3. 厚生省、総合衛生管理製造過程(HACCP=ハサップ)の承認を受けた全国の牛乳製造工場に、原料の脱脂粉乳の毒素検査を義務付ける、またエンテロトキシンを危害原因物質に加えることを検討。類似の食中毒事例の再発を防止するため、衛生基準の策定、HACCPの導入等の措置を講じた。 4. 日本乳業協会は品質保証・危機管理マニュアルをまとめ、業界への周知徹底を図った。 |
知識化 |
(1)マニュアルは形骸化して来ている。 マニュアルが守られない。想定外の事態に対応できない。基準値外のものを出荷したり、停電というマニュアルの想定外の事態が発生した時、何の対応も取れなかった。 (2)時間の経過につれて、組織、職場内で基本的認識が薄らいでゆく。本事故では、工場長や従業員が食品衛生の基本的な認識が欠如していた。 JCOの臨界事故例でも、職場での原子核反応という基本的な認識が欠如あるいは薄らいでいた。基本的事項について、定期的に組織、職場内をリフレッシュし認識を高めておく必要がある。 (3)問題が生じた場合、担当部門では、責任逃れから事実が隠ぺいされる。対応策を練るが思い切った対応ができず、問題が大きくなる。 (4)経営に打撃を与える悪い情報は経営トップには伝わらない・・・・・情報断絶(特に減点主義で運営されがちな企業において) 情報断絶を防ぐ企業組織作りが重要 現場責任者が悪い情報を素直に経営トップに上げることが出来る組織 消費者問題等品質に関するすべての情報を共有共用する組織システムの構築 (5)経営トップは常に危機管理意識をもち、問題や事故が発生した場合は、事実を隠ぺいせず、的確な情報公開、迅速な原因究明と早急な商品回収など対処を決断しなければならない(経営トップにしかできない)。 |
背景 |
「乳業業界は衛生管理のトップランナー」雪印乳業の集団食中毒事件が起きるまで、業界はこう自負していた。1998年1月、厚生省の定めるHACCPの基準「総合衛生管理製造過程」の承認を最初に取得したのが、雪印乳業など乳業大手であった。 HACCP取得のため、乳業各社は一斉に全製造工程の作業手順をマニュアル化した。最終的に作成した書類は一工場当たり厚さ七、八センチのA4サイズのファイル二冊分に及んだ。ち密なマニュアルが「最も腐りやすい原料(牛乳)を使う企業が、最も衛生的」との神話を生んだ。食品業界ではHACCPやISOなどを取得するためのマニュアルを作ればよいという風潮が広がっていた。しかし、マニュアルはあくまでマニュアルに過ぎない。これを使いこなして作業工程の管理にいかさなければ意味がない。一方で、マニュアル過信では想定外の事態に対応できない。雪印は工場のバルブの洗浄などをマニュアル通りに作業していなかった。脱脂粉乳から毒素が見付かった大樹工場(北海道大樹町)では、停電というマニュアルの想定外の事態が発生した時、何の対応も取れなかった。その結果集団食中毒事件となった。 食品業界では価格競争に勝つために正社員に代わりパート、アルバイトの数を増やしたり、下請けに作業を丸投げするケースが増えている。メーカーは経験の少ないアルバイトや下請けでも一定の品質を保てるように、作業のマニュアル化を進めているが、きちんといかされているとは言い難い。 マニュアルを持つことが企業に対する信頼を保証するものではない。マニュアルがきちんと守られているのか、想定外のことにきちんと対応できるようになっているのか。マニュアルだけでは企業の安全管理はできない。 |
よもやま話 |
創業七十五年の名門企業に計り知れない打撃を与え、トップの辞任を招いた雪印乳業の食中毒事件は、大樹工場の停電という突発的な原因に端を発し、脱脂粉乳の製造現場の危機管理、衛生管理の欠如が食中毒を引き起こし、さらに経営トップの情報伝達の不手際、危機管理や決断力の甘さ、リーダーシップの欠如が、事件公表や回収の遅延により被害を拡大させた。 原因となった脱脂粉乳の製造現場だけではない。速やかに事態を公表しなかったために被害がさらに広がったとして、トップの責任も問われた。 雪印乳業は、事件公表の遅延による被害者の増加、大阪工場及び大樹工場におけるずさんな衛生管理、製造記録類の不備等の食品製造者として安全性確保に対する認識のなさを猛省する必要があり、安全対策の基本部分からの再構築が強く望まれる。 |
シナリオ |
主シナリオ
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誤判断、誤った理解、使用、輸送・貯蔵、非定常動作、状況変化時動作、身体的被害、発病、組織の損失、経済的損失
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情報源 |
厚生省生活衛生局:雪印乳業食中毒事故対策本部会議の結果について(第2回および4回)
厚生省生活衛生局:「雪印定脂肪乳」等における黄色ブドウ球菌食中毒の経緯
厚生省・大阪市原因究明合同専門家会議:雪印乳業食中毒事件の原因究明調査結果について(中間および最終報告)
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備考 |
メーカー工場の停電への対処ミスにより集団食中毒 |
分野 |
機械
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データ作成者 |
張田吉昭 (有限会社フローネット)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)
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