事例名称 |
高速列車ICEの脱線転覆 |
代表図 |
|
事例発生日付 |
1998年06月03日 |
事例発生地 |
ドイツ ニューザクセン州 |
事例発生場所 |
エシェデ村 |
事例概要 |
ドイツ鉄道の超高速列車「インターシティ・エクスプレス(ICE)」が脱線転覆、一部が道路橋脚に激突。死者101名、負傷者200名に達した。二重構造の車輪の外輪が金属疲労で破損したことが直接の原因であった。(写真1) |
事象 |
ドイツ鉄道の超高速列車「インターシティ・エクスプレス(ICE)」が脱線転覆、一部が道路橋脚に激突。死者101名、負傷者200名に達した。 |
経過 |
9:00頃、 ドイツ北部 ニューザクセン州 エシェデ付近で、ハノーバ駅を出発したICE特急884号(ミュンヘン発ハンブルグ行き、先頭と最後尾に機関車連結の14両編成、乗客約300人)が走行中、運転士が異常を感じて緊急停車し点検したが、異常を発見できなかった。 10:58、時速200kmで進行中、陸橋手前約6kmで、先頭から2両目の1号客車車輪の1つの外輪が、車輪から外れ、レールに何回かぶつかった後、台車に引っ掛かった。(この数分間にがらがらと響く騒音が聞こえたと、事故の後に複数の生存者が語っている。) 陸橋手前約200mの切替えポイントに差し掛かったとき、1号客車の破損した外輪がポイントにぶつかり、衝撃で台車が回転し脱線した。 さらに120m先のもう1ヶ所の切替えポイントで、脱線していた1号客車の台車の衝撃でポイントが切り替わり、その衝撃で連結器が外れ、1号客車は先頭の機関車から切り離された。 2号、3号客車も脱線。しかし、列車は走り続け線路右側に大きくはみ出して行った。 1、2号客車は陸橋を通過したが、3号客車後部が陸橋の橋脚に激突。全車両に緊急ブレーキが作動した。 先頭の機関車は脱線せず、客車の分離で感応した自動停止システムでによって作動した緊急ブレーキで約2km先に停止した。機関士は、このときになって初めて、列車が連結していないことに気付いた。 1~3号客車は脱線したまま陸橋から数百m過ぎて停止。4号客車は陸橋通過後、線路盛土の右側に横転。陸橋は衝突の衝撃で崩落。 5号客車の後ろ半分と6号客車は崩落した陸橋の下敷きになり、後続の車輌も折り重なるようにぶつかり合い大破。陸橋の上に駐車していた自動車も転落し、事故現場に飛び込んだ。 |
原因 |
(1) 先頭客車の車輪外側の外輪が破損した(直接原因) 車輪は、乗り心地改善やコスト軽減のため、車輪本体の外側に薄いゴムクッションを介して鋼製タイヤ(外輪)を貼り付ける二重構造が採用されていたが、この外輪が金属疲労で破損してしまった(図1)。ICE884号は旧型の第一世代車両60台のうちの1つで、二重構造の車輪のままだった。 (2) メンテナンスでのミスジャッジ・・・・・ルール無視 ニュースマガジンのデルシュピーゲルによると、脱線した列車は事故の前夜、定期メンテナンスとしてコンピュータによる点検を受けていた。ミュンヘン検定センターでは、音響センサーにより、各車輪の外径とスリーブの厚さを計測している。許容誤差は0.6mmであったが、脱線車両の一つの車輪の誤差は、1.1mmだったという。しかし、安全技師たちは、この誤差はいくらか振動が発生するが乗り心地に少し影響があるだけと考え、交換や修理をしなかったとのことであった。 (3)不具合検出システムの不備 ICEには、個々の車輪破損を検知し警報を出したり緊急停止させるシステムは設置されていなかった。日本の新幹線では、走行中に車輪の変形や欠損が生じて回転異常を起こすと、信号が点灯して運転士が非常ブレーキをかける車軸が損傷するなどしてずれた場合には、摩擦熱による温度センサーが捉え140℃以上になると、自動停止する仕組みになっている。 |
対処 |
ドイツ連邦鉄道局は、事故直後、原因解明のための調査をスタートした。 事故後、同じ構造の59両すべてを回収して、総点検を実施した。 |
対策 |
1998年6月末までに、第1世代のICE列車59両の車輪は全て交換された。新品の鋼製タイヤか第2世代ICEに使用されているものと同じ一体式車輪に交換された。 |
知識化 |
(1)製品の変更は事故発生の危険性を持つ。技術改良のための変更はもちろん必要であるが、時には「技術の封印」をすることが必要である。特に実績のあるものの変更については、慎重に行なう。変更による改良点のみに着目しがちである。(改悪点を忘れることが多い) (2)ルール・検査基準は容易に曲げられる。 (3)人間の感知が及ばないところは、センサーシステムが有効である。 |
背景 |
1991年、ドイツ鉄道の超高速列車ICEの開業当初、第一世代の列車40台には安全な高速走行に適しているといわれる一体型車輪が使われていた。しかし、この一体型車輪は振動が伝わりやすく騒音が生じやすい構造だった上、車輪が楕円形に変形するという現象も発生しており、これらのことがICEの乗り心地を悪くしていた。 ドイツ鉄道では、騒音や振動を減らして乗り心地をよくするため、二重構造の車輪(VSC製「Bochum84」型)の導入を決定。二重構造の車輪は、時速284kmに耐えられるように設計。内輪とレールに接する外輪の2つの部分からできている。車輪の直径は91cm、厚さ13cm。内輪と外輪の間にゴムの緩衝材が挟まっている。摩耗や破損した場合、外輪だけを交換すればよく、一体型より経済的でもあった。 1992年、ICE用に新たに設計された二重構造の車輪の生産開始。一体型の車輪は次々に二重構造に交換。この結果、乗り心地は大幅に改善され乗客の数も年々増え続け、1997年までの5年間で凡そ3倍になった。 1997年、空気圧を使った新型のスプリングが開発され一体型の車輪でも振動や騒音の問題を解決できる目途がたったため、ICEに再び一体型の車輪を導入するという方針転換を行った。新しく生産される第二世代の車両から切替えが行われ、1998年に44台の車輪が一体型に替わっていた。 |
よもやま話 |
ICEは、「自動車の2倍の速さ、飛行機の半分の速さ」これがドイツ国有鉄道の宣伝文句の一つだったという。1991年以降、1億2000万人を超える旅客がICEを利用した。1997年には、ICEの旅客数は約2700万人で、長距離旅客輸送の30%弱を占めていた。この事故が起こるまで、ドイツ国有鉄道はICEに十分な安全策を講じていると信じられてきた。しかし、実績のある一体型の車輪から、二重構造の車輪へと変わっていた。この変化に起因する事故だったといえる。 |
シナリオ |
主シナリオ
|
誤判断、誤った理解、使用、保守・修理、不良現象、機械現象、破損、大規模破損、身体的被害、死亡
|
|
情報源 |
日経メカニカルオンライン:http://nmc.nikkeibp.co.jp/kiji/t536.html
ICE Train Accident in Eschede http://www.ndt.net/news/2000/eschedec.htm
|
死者数 |
101 |
負傷者数 |
200 |
マルチメディアファイル |
写真1.ICE列車の脱線状況
|
図1.車輪構造と不具合
|
備考 |
車輪の金属疲労で高速列車脱線転覆 |
分野 |
機械
|
データ作成者 |
張田吉昭 (有限会社フローネット)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)
|