事例名称 |
スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1986年01月28日 |
事例発生地 |
アメリカ |
事例発生場所 |
上空 |
事例概要 |
TV中継で全世界の人々が見守る中、アメリカ・NASAのスペースシャトル・チャレンジャー号(図1)が発射直後に大爆発を起こし、7人の乗組員全員が死亡した。低温によるOリングの弾性喪失や設計ミスで燃料が漏れたことが原因であった。 |
事象 |
TV中継で全世界の人々が見守る中、アメリカ・NASAのスペースシャトル・チャレンジャー号が発射直後に大爆発を起こし、7人の乗組員全員が死亡した。 |
経過 |
1986年1月28日、打ち上げられたスペースシャトル・チャレンジャー号は、発射直後に図1に示すブースターロケットの横側(写真1、矢印)から炎が上がり、しばらくして大爆発を起こした。 |
原因 |
元国務長官ロジャース氏を委員長とする大統領事故調査委員会の委員であるファインマン氏の調査の結果、爆発の主原因は次のとおりであることがわかった。 (1) シャトルを打ち上げるためにシャトル本体についている2機のブースターロケットは、打ち上げ現場で組み立てる部分があり、このジョイント部には図2に示すようにシールのためのOリングが使われている(太さ1/4インチ、直径12フィート)。事故の起きた日の打ち上げ時の気温は-1-2℃と、それまでの打ち上げの気温に比べて13-14℃ほど低かった。そのためOリングが硬化して弾性が失われ、シール効果が不十分となり、ガス漏れ検査するための穴から燃料が漏れ、これに炎がロケット下部から燃え移り爆発した、と推定される。写真2を見ると、発射前にロケットからガスが漏れて黒煙がでていた様子がわかる(写真右下の矢印)。ファインマン氏はこれを実証するため、公開会議で氷水の中にOリングを入れて弾性が失われる実験を行なった。 (2) 調査の過程で、NASAおよびOリングを製作した会社が、低温におけるOリングの弾性の問題を予め知っていたこと、Oリングの製作会社が当日の打ち上げを中止すべきとの意見を出していたにもかかわらず、打ち上げが強行されたこと、などが判明した。 (3) Oリングのシール効果がなくなった直接の原因は、低温によって弾性が失われたためであるが、この部分の設計にも問題があった。ブースターロケット使用時にロケット内部に圧力がかかると、2つの接合部の間の外壁よりも接合部のほうが厚いため、接合部を節にして外壁が膨らむ「ジョイントローテーション」という現象が起き、図3に示すように、Oリングがシールしている継ぎ間を引きはがす方向にモーメントが働くことが知られていた。また、ブースターロケットは前回使用時に発生したひずみを矯正して再使用するが、矯正しきれなかったシール部のすき間も問題となる。これらに対して、有効な解決策は打たれていなかった。 (4) これらの技術的な問題点に加えて、NASA内では現場の技師と管理者との間の意志の疎通が不十分であったこと、およびNASAが次年度の予算を取るために技術上の問題をある程度無視せざるを得なかったのではないかと分析している。 |
対処 |
事故後、元国務長官ロジャース氏を委員長とする大統領事故調査委員会が組織され、原因調査がおこなわれた。引用文献の著者ファインマン氏も委員として参加し、精力的に事故の調査にあたった。 原因の解明とその対策のため、スペースシャトルの打ち上げが約2年間延期され、アメリカの宇宙計画に大きな影響を与えた。 |
対策 |
(1) 燃料漏れ対策(図4) A.パテによるシールをJ形溝付き粘着性シールに変更し、発射直後に内圧が上昇しても、J形溝に内圧が作用し、シールが強化される構造にした。 B.シール部にOリング付き干渉部位を追加し、ジョイントローテーションに対して、すき間が減少する構造とした。 C.ヒーターを装着し、Oリングの弾性の低下を回避した。 D.ガス漏れ検査穴を追加し、Oリングのシール機能確認を強化した。 (2) マネジメント面の対策 a.シャトルプロジェクトの管理体制の再構築(権限、責任の明確化) b.飛行の安全性確保のためのリスク評価とリスク分析の強化 c.現場技師と管理者間のコミュニケーション強化 d.飛行回数による劣化レベルの把握と対応 |
知識化 |
(1) 大事故もOリングのような機械要素のひとつの不具合から生じる。 (2) 大きなプロジェクトでは組織が分断され、そこで情報も途切れてしまう。また一度できあがった組織は、それ自体が生き延びようとして尋常でない判断がなされ、事故につながる場合が多い。 (3) 過去に成功していても、条件や環境の変化で事故が発生してしまう(今回は低温)。 |
背景 |
スペースシャトルはNASA(National Aeronautics and Space Administration)によって宇宙輸送システムとして開発された。スペースシャトルは、オービター(軌道船)、ブースターロケット、燃料タンクおよび3つのメインエンジンから構成されており、オービターを回収して再使用できるシステムであった。このシステムでの初飛行は1982年で、この事故まで9回の飛行に成功していた。 |
よもやま話 |
継ぎ目からガスが漏れやすい構造であったところに、低温によってシールのOリングの弾性がなくなったため、燃料ガスが漏れてブースターロケットが爆発した。打ち上げ前に設計者からその危険性の指摘があったにもかかわらず、管理者は取り合わなかった。 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、非定常行為、無為、不良現象、熱流体現象、破損、破壊・損傷、身体的被害、死亡
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情報源 |
畑村洋太郎編著、実際の設計研究会著:続々・実際の設計、日刊工業新聞社(1996)
ファインマン著、大貫昌子訳:困ります、ファインマンさん、岩波書店(1988)
NATINAL SPACE TRANSPORTATION SYSTEM www.fas.org/spp/51L.html
The Challenger Accident:http://www.me.utexas.edu/~uer/challenger/summary.html
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死者数 |
7 |
マルチメディアファイル |
図1.スペースシャトル全体図
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写真1.爆発の様子
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図2.ブースターロケットのジョイント部の構造
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写真2.発射台から撮影された黒煙の写真
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図3.ジョイントローテーション
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図4.燃料漏れ対策
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備考 |
燃料漏れでスペースシャトルの爆発 WLP関連教材 ・事例に学ぶ技術者倫理/スペースシャトル・チャレンジャー号事故 |
分野 |
機械
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データ作成者 |
張田吉昭 (有限会社フローネット)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)
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