事例名称 |
敦賀原子力発電所2号機化学体積制御系再生熱交換器連絡配管からの一次冷却水漏洩 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1999年07月12日 |
事例発生地 |
福井県敦賀市 |
事例発生場所 |
日本原子力発電株式会社 敦賀原子力発電所2号機 |
機器 |
化学体積制御系再生熱交換器連絡配管エルボ |
事例概要 |
配管エルボに高サイクル熱疲労で貫通き裂が発生し、一次冷却水が漏洩した。漏洩開始から漏洩箇所隔離まで約14時間で、漏洩量は約51m3であった。 安易な流用設計の失敗の結果として、新しい問題(想定外事象)が提起された。 |
事象 |
(1)フォールトツリー解析の結果 ○ 図2 破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図 設計想定外事象の高低温水の混合流による熱応力振幅に、内圧による周方向平均応力が重畳し、高サイクル熱疲労で配管エルボの内面に3箇の軸方向表面き裂が発生し、進展に伴い合体して外面に貫通し、漏洩に至った。 ○ 図3 機器の設計と製作における不適切・不良に着目したフォールトツリー図 漏洩事故が起きたのは抽出ライン出口側配管(オーステナイト鋼)であり、その上流側に位置する再生熱交換器の胴(フェライト鋼)の内面にも、高サイクル熱疲労による亀甲状のき裂が多数発生していた。高サイクル熱疲労が発生した原因は、配管ではなく、再生熱交換器にある。再生熱交換器は容量の大きい同種機器の流用設計で、熱交換性能を改善するために、再生熱交換器の胴と管の間に内筒を設置した。すなわち、再生熱交換器は二重の胴をもつ構造である。 ○ 図4 機器の負荷履歴、環境と材料に着目したフォールトツリー図 内筒の存在によって、高低温水の熱成層が形成され、さらに胴の熱変形によって内筒の支持リングと胴の間にすき間が形成され、高低温水の流動パターンが周期的に変動する。高低温水の混合流による温度変動の結果、再生熱交換器の胴と抽出ライン出口側配管は熱応力の繰返しを受け、高サイクル熱疲労に至った。 (2)イベントツリー解析の結果 ○ 図5 高低温水の混合流による高サイクル熱疲労のイベントツリー図 再生熱交換器において、内筒の存在によって、高低温水の熱成層が形成され(低温の主流は約170℃、高温のバイパス流は約250℃、温度差は約80℃)、さらに支持リングにすき間が形成され、高低温水の流動パターンが周期的に変動した。配管の内面は、高低温水の混合流による温度変動の結果、熱応力の繰返しを受け、高サイクル熱疲労に至った。 熱応力には方向性がなく、応力振幅も小さい。配管には、内圧による周方向応力と、軸力と曲げモーメントによる軸方向応力が存在する。これらが平均応力として作用し、配管エルボの両脇腹内面(対称位置)に複数の軸方向表面き裂が、エルボと配管の周継手止端部内面に複数の周方向表面き裂が発生した(総数12箇)。エルボの片脇腹内面に発生した3箇の軸方向表面き裂は、進展に伴い合体して外面に貫通し、漏洩に至った。 この破面には、ビーチマークが8~10本認められた。敦賀2号機は、1987年から1998年の間に、9回の定期検査と1回のトラブル停止を経験しており、起動・停止のサイクル数とビーチマークの数はほぼ対応する。すなわち、運転開始から事故直前までの継続運転の結果として、起動・停止に伴う応力変動に重畳して、熱応力の繰返しが生じ、前者を平均応力、後者を応力振幅とする高サイクル熱疲労による漏洩事故が発生した。破面解析から得られた応力振幅は108 MPa、き裂発生寿命とき裂進展寿命は、それぞれ10^5回のオーダである。 もう一方の片脇腹内面に発生した2箇の軸方向表面き裂は、食違いが大きくて合体せず、貫通に至らなかった。周継手止端部に発生した周方向表面き裂は、平均応力が低く、貫通に至らなかった。運転を継続すれば、これらの表面き裂は、いずれは貫通に至ると判断される。一方、再生熱交換器の胴の内面の複数亀甲状き裂は、方向性のない熱応力による疲労の特徴を示しており、内圧による周方向応力と軸方向応力(平均応力)が低いので、表面き裂として進展せず、貫通に至らないと判断される。 |
経過 |
運転員の適切な対応によって漏洩事象は安全に収束し、漏洩に伴う環境への放射線物質による影響はなかった。 |
原因 |
(1)安易な流用設計 内筒を設置しなければ、事故は発生しなかった。 (2)高サイクル熱疲労 内筒を設置しても、熱流体解析、構造解析と疲労解析を実施すれば、事故は防止できた。 |
対処 |
(1)性能変更、構造変更を伴う流用設計は、解析が必須である。 (2)現状では、設計想定事象は起動・停止に起因する低サイクル疲労のみで、特に高サイクル熱疲労は設計想定外事象である。高サイクル熱疲労を想定した設計、施工、検査、運転管理の基準作成が必要である。 |
対策 |
(1) 再生熱交換器の取替え (2) 自主検査の充実 ○高サイクル熱疲労割れの発生防止 ○格納容器内第3種管の検査の充実 (3) 運転管理面の改善 (4) 放射線被ばくの管理(作業性の改善) (5) 検査手法の高度化 |
知識化 |
「流用設計」 機器の設計に際しては、要求性能・機能を満足し、かつ安全性・信頼性を保証するために、解析を行う。しかし、同種機器の使用経験がある場合の機器の設計では、要求性能・機能の相違を満足するように若干の構造変更を行うだけで、解析なしで同種機器の設計をそのまま流用することが、しばしば行われる。これが流用設計である。安易な流用設計が、事故の原因となる。 |
シナリオ |
主シナリオ
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無知、知識不足、思い込み、計画・設計、流用設計、既製品流用、熱交換器、内筒設置、不良現象、熱流体現象、熱現象、高・低温混合流、配管エルボ、破損、破壊・損傷、疲労、亀裂、肉厚貫通、漏洩
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情報源 |
(1) 日本原子力発電(株) 敦賀発電所2号機 再生熱交換器連絡配管からの一次冷却材漏えいについて、経済産業省 資源エネルギー庁、平成11年10月25日
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
マルチメディアファイル |
図1.連絡配管に観察された12個のき裂
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図2.破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図
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図3.機器の設計と製作における不適切・不良に着目したフォールトツリー図
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図4.機器の負荷履歴、環境と材料に着目したフォールトツリー図
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図5.高低温の混合流による高サイクル熱疲労のイベントツリー図
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図6.再生熱交換器(中段)胴側流れ図
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分野 |
材料
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データ作成者 |
小林 英男 (東京工業大学)
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