事例名称 |
福島第一原子力発電所1号機 原子炉格納容器気密試験に係る不正 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1991年06月13日 |
事例発生地 |
福島県大熊町 |
事例発生場所 |
東京電力株式会社福島第一原子力発電所1号機 |
機器 |
原子炉格納容器 |
事例概要 |
原子炉格納容器の気密試験(漏えい率検査)に際して、漏洩率不良を隠ぺいするために、圧縮空気を注入し、偽装工作によって立合い検査に合格した。後日、これが発覚した。原子炉において重要な安全機能を有する設備の性能試験で意図的な偽装を行って保安規定に違反し、国の定期検査を妨害したという極めて悪質なもので、東京電力に対して福島第一原子力発電所1号機の1年間の原子炉運転停止という行政処分が行われた。 |
事象 |
格納容器(高さ32 m、最大直径18 m)は、炉心を包む圧力容器などから漏れた放射性物質の外部放出を防ぐための機器である。気密試験では、窒素を注入して容器内を2.6気圧以上に高めた後、予備試験と本試験で各6時間かけて漏洩の推移をみる。容器の約400箇所で配管が貫通し、弁もあるため、窒素はわずかに漏れ出る。 1号機の場合、1日換算の漏洩率が0.348%以下なら合格である。2002年12月に、経済産業省 原子力安全・保安院の検査官が立ち合って実施した気密試験では、0.092%で問題はなかった。ところが、1991年と1992年の気密試験で、漏洩率の偽装のために空気注入がされたことが発覚した。 |
経過 |
1991年6月12日午後5時に、格納容器に窒素を注入、2.8気圧にした。圧力降下が大きいため、弁などを点検したが、異常は見つからなかった。 6月13日午後8時40分に、東電の発電部長、第一保修課長、副長、主任、副班長の5人が話し合い、日立の子会社の担当者に指示し、主蒸気配管を通じて空気注入を始めた。 6月14日午後4時に、旧通産省の検査官が立ち合い、本試験に合格した。7月8日に運転を再開した。 1992年3月に定期検査に入ってからも漏れの場所は特定できなかった。4月ごろに、東電の主任と日立側の現場責任者の相談で、もう一度空気注入するしかないという結論になった。 6月14日午前10時に、気密試験のために窒素注入を開始した。夕方の調査で漏れの大きい弁を見つけ、日立側の社員が板を挟んで配管を遮断した。この社員は酸素ボンベを装着して作業をした。 6月15日午前10時すぎに、格納容器内の圧力は安定せず、空気注入を開始した。その前に、日立側の現場責任者は、1.4 m3の空気注入で漏洩率が0.294 %分下がることをメモに残した。そのメモが福島第一原発内の日立事務所に保管されており、偽装解明の重要な手掛かりとなった。このときは、ほこりを吹き飛ばす場合などに使う圧縮空気を流用した。原子炉建屋内には、水道栓のような圧縮空気の取出し口が10箇所ほどある。格納容器内に通じる配管までホースでつなぎ、流量計も取り付けた。偽装には、発電部長、第一保修課長らの6人が関与した。 6月16日午後3時に、旧通産省の検査官が立ち合う本試験に合格した。7月12日に、運転を再開した。 一連の偽装を知っていたのは発電部長までで、副所長以上や本社幹部は関与していなかったとされる。 |
原因 |
現場の思いつきで場当たり的に実行した。よくないことだと思っても、法令違反の認識まではなかった。とは言っても、温度が1度違えば空気の体積は約0.3 %変わる。0.348 %という合格基準の試験で、温度の調節をしないで空気を注入すれば、結果がどうなるのか。簡単にできないことをやったのは、まさに職人技である。職人技の悪用は恐しい。 気密試験の目的が忘れ去られ、単に合格すればよいという技術的対応が優先した。 |
対処 |
法令の遵守 |
対策 |
検査管理の基準作成 |
知識化 |
職人技の悪用 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、安全教育・訓練不足、組織運営不良、管理不良、作業管理不良、組織運営不良、構成員不良、構成員資質不足、使用、保守・修理、検査、気密試験、不正な圧縮空気注入、漏洩率不良の隠ぺい、不良行為、規則違反、法規違反、組織の損失、社会的損失、信用失墜、社会の被害、人の意識変化、行政・企業不信
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情報源 |
「職人技」悪用し空気注入、朝日新聞、2002年12月18日(水)
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
マルチメディアファイル |
図1.気密試験の偽装工作
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分野 |
材料
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データ作成者 |
小林 英男 (東京工業大学)
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