失敗事例

事例名称 原子力発電所の配管破裂で蒸気噴出
代表図
事例発生日付 2004年08月09日
事例発生地 福井県三方郡美浜町丹生
事例発生場所 関西電力株式会社 美浜原子力発電所 3号機
機器 加圧水型軽水炉、発電用タービン、復水器と蒸気発生器をつなぐ復水管
事例概要 運転中の原子力発電所のタービン建屋(3階建て)内で、配管が破裂して高温の蒸気が噴出し、2階で定期点検の準備作業をしていた作業員11人のうち、4人が死亡し、2人が重体、5人が重軽傷を負った。後日、重体の1人も死亡した。運転中の原発の事故としては過去最悪の規模である。二次系配管なので、放射能汚染はなかった。
配管破裂の原因は、エロージョン/コロージョンによる局部減肉である。配管の内部には冷却水の流量を測定するオリフィスが設置されている。オリフィス下流部において、配管の周方向に帯状の局部減肉が経年的に生じ、断面積の減少に起因して圧力によって塑性崩壊し、大きな破口を形成した。その結果、多量の高温水が蒸気となって噴出した。
この部位がエロージョン/コロージョンによって局部減肉を生ずることは周知の事実であり、点検の検査対象部位となる。しかし、電力会社と検査会社の見落しで、点検台帳に登録されておらず、27年間も肉厚測定が行われなかった。福井県警敦賀署の捜査本部は、業務上過失致死傷容疑で強制捜査に踏み切った。
事象 2004年(平成16年)8月9日に、運転中の関西電力(株)美浜原子力発電所3号機のタービン建屋(3階建て)内で、配管が破裂して高温の蒸気が噴出し、2階で定期点検の準備作業をしていた作業員11人のうち、4人が死亡し、2人が重体、5人が重軽傷を負った。後日、重体の1人も死亡した。運転中の原発の事故としては過去最悪の規模である。二次系配管なので、放射能汚染はなかった。
破裂したのは、復水器から蒸気発生器をつなぐ復水管で、炭素鋼製、外径約560 mm、肉厚約10 mm、冷却水の圧力10 MPa、温度142 ℃である。配管は2階の天井を通る部分で、最大で約570 mmにわたってめくれるように破裂し、噴出した冷却水は800トンにのぼった。破裂した部分の肉厚は最小で約0.4 mm、大半は2~3 mm程度に減少していた。技術基準を満足するのに必要な肉厚は4.7 mmである。
配管破裂の原因は、エロージョン/コロージョンによる局部減肉である。配管の内部には冷却水の流量を調整・測定するオリフィスが設置されている。オリフィス下流部において、配管の周方向に帯状の局部減肉が経年的に生じ、断面積の減少に起因して圧力によって塑性崩壊し、大きな破口を形成した。その結果、多量の高温水が蒸気となって噴出した。
この部位がエロージョン/コロージョンによって局部減肉を生ずることは衆知の事実であり、点検の検査対象部位となる。関西電力(株)の内規では、二次系配管の肉厚は10年ごとに1/4ずつ点検し、40年ですべてを終えることになっていた。破裂した部位は1976年に運転を開始してから27年間、一度も点検されていなかった。一方、関西電力(株)は同一型式の配管がある原発8基の二次系について、1990~2003年に詳細な検査を実施している。その結果、美浜原発3号機と同様の位置にオリフィスが設置されている大飯原発1号機と高浜原発3号機で肉厚の減少を確認し、オーステナイト系ステンレス鋼製配管に交換した。美浜原発3号機の場合、関西電力(株)と検査会社(三菱重工業(株)と(株)日本アーム)の見落しで、点検台帳に登録されておらず、肉厚測定が行われなかったとみられる。
福井県警敦賀署の捜査本部は、業務上過失致死傷容疑で強制捜査に踏み切った。
経過 加圧水型軽水炉(PWR)については、1975年代後半に一部のプラントの配管で、エロージョン/コロージョンによる減肉が発生し、配管の肉厚調査が行われた。その後、1986年12月の米国サリー原子力発電所二次系配管破損事故を契機として、電力会社は、当時行っていたPWR各プラントの二次系配管の減肉状況の調査結果から得られたデータを統計的に評価し、配管の減肉に対する管理方法を検討した。その結果、1990年5月に原子力設備二次系配管肉厚の管理指針(PWR)を策定し、これを共通的な二次系配管肉厚管理手法として使用している。PWR管理指針は1990年に策定されているが、その後10年以上経過して減肉に関する多くのデータが得られているにもかかわらず、最新のデータを踏まえた見直しが行われていなかった。
関西電力(株)は1985年度から1989年度にかけて、三菱重工業(株)に委託し、体系的な減肉調査とデータの評価を実施した。そして、関西電力(株)はこのデータに基づいて、三菱重工業(株)に二次系配管の点検指針づくりを委託し、その結果に基づいて、1990年にPWR管理指針を策定したのである。1990年当時、三菱重工業(株)がPWR管理指針に基づいて、美浜発電所3号機に係る点検リストなどを作成した際に、すでに破損箇所が記載漏れになっていた。記載漏れは、美浜発電所3号機の全オリフィス下流部39箇所のうち、復水流量計下流部2箇所(事故を起こしたA系統とB系統)とスチームコンバータ加熱蒸気流量計下流部1箇所の計3箇所であった。三菱重工業(株)で記載漏れとなった経緯は不明で、委託元の関西電力(株)も点検リストなどのチェックを行っていなかった。
関西電力(株)は1996年に、点検業務の委託先を三菱重工業(株)から(株)日本アーム(関電の関連会社)に変更した。この時点でも、点検リストなどの記載漏れは是正されなかった。
(株)日本アームは、2001年度から2002年度にかけて点検箇所データのメンテナンスを実施してきたが、2003年4月に、メンテナンス作業中の作業員が美浜発電所3号機の破損箇所の記載漏れを発見し、(株)日本アームの管理システムに登録した。その結果、(株)日本アームは破損箇所を第20回定期検査工事報告書に記載し(2003年6月)、第21回定期検査工事計画における点検箇所として、関西電力(株)に提案した(2003年11月)。関西電力(株)はこの際に、破損箇所の記載漏れを認識していなかった。
すなわち、破損箇所は、減肉管理が必要な箇所であるにもかかわらず、当初の管理リストから欠落し、27年間も肉厚測定が行われなかった。皮肉なことに、事故の前年に記載漏れが発見され、事故の年に肉厚測定が行われる予定であった。
原因 PWRの主要系統と破損位置を図2に示す。配管の破損箇所は、タービン建屋2階の脱気器側の天井付近にある第4低圧吸水加熱器から脱気器へ行く、A系統とB系統の2系統ある復水配管のうちのA系統復水配管で、A系統の復水流量を計測するオリフィスの下流近傍である。オリフィスとは、流体の流れている管路の断面を狭める絞り機構のことで、管に流れる流量を測定するために設置される。
配管の破損状況を図3に示す。配管の材料は炭素鋼(SB42)、外径は558.8 mm、公称厚さは10 mm、温度は約140 ℃、圧力は約0.93 MPa、流量は約1,700 m3/ hである。配管は上部で減肉が著しく、軸方向に最大515 mm、周方向に930 mmにわたって破口が認められた。配管の厚さは、最も薄いところで0.4 mmであった。
なお、その後の調査の結果、オリフィスのベント孔下流部において、配管の減肉が肉厚を貫通し、オリフィスを支えるフランジ部に達している箇所が確認された。ベント孔下流の状況を図4に示す。オリフィスのベント孔とは、空気抜きのためにオリフィス上部に設けた孔で、この場合には直径4 mmである。
オリフィス下流部では、配管下部を除いて全体的に、エロージョン/コロージョンの特徴である鱗片模様を呈していた。配管下部にはほぼ公称厚さの部分が残されており、その部分では配管内面に厚い表面被膜(0.4 mm)があり、鱗片状模様は認められなかった。
調査結果をまとめれば、以下のとおりである。
○ 破損した配管はエロージョン/コロージョンの発生しやすい炭素鋼であり、破損箇所は流れの乱れの発生しやすいオリフィスの下流であった。
○ 給復水系のpH、溶存酸素などの水質データは、管理値内に維持されていた。
○ 破損箇所周辺の復水の温度は140℃程度であり、エロージョン/コロージョンの発生しやすい温度であった。
○ 配管内面は大きく減肉しており、おおむね全体にわたり、エロージョン/コロージョンの特徴である鱗片状模様を呈していた。
○ B系統のオリフィス下流部でも、同様に配管内面は大きく減肉しており、鱗片状模様を呈していた。
以上のことから、配管が破損した原因は、オリフィス下流部において、エロージョン/コロージョンによって配管の厚さが運転に伴い徐々に減少した結果、運転時圧力によって減肉部が塑性崩壊し、破口を形成したと推定される。なお、ベント孔下流部のエロージョン/コロージョンによる減肉は、オリフィス下流部のエロージョン/コロージョンによる減肉に先行して発生している。ベント孔下流部では、オリフィスを支えるフランジ部の存在によって偶然に漏洩には至らなかったが、典型的な局部減肉で、減肉速度は極めて高い。しかも、ベント孔下流部は点検対象箇所ではなく、検査も不可能である。したがって、ベント孔下流部のエロージョン/コロージョンの原因を、究明する必要がある。ベント孔下流部の局部減肉は、それ以外にも見逃しているエロージョン/コロージョンの発生部位があり得ることを示唆している。さらに、ベント孔下流部のエロージョン/コロージョンの原因である流れの乱れが、オリフィス孔下流部の流れの乱れに干渉して、エロージョン/コロージョンを加速したと考えられる。
本事故の技術的な原因は、配管のエロージョン/コロージョンによる減肉である。しかし、本事故のより直接的な原因は、関西電力(株)、三菱重工業(株)と(株)日本アームの3者が関与する二次系配管の減肉管理ミスによって、減肉管理が必要な箇所が当初の管理リストから欠落し、かつ事故に至るまで修正できなかったことにある。すなわち、関西電力(株)の品質保証と保守管理が機能していなかったことによって生じた。具体的な原因を以下に示す。
○ 破損箇所が点検対象箇所からもれていたこと。
○ これが修正されないまま長年にわたり放置されてきたこと。
○ 点検漏れが発見された後、関係者への連絡が不十分であり、その後の点検計画に適切に反映されなかったこと。
対処 原子力安全・保安院は、事故発生後、美浜発電所3号機二次系配管破損事故調査委員会を設置し、第1回(2004年8月11日)から第6回(9月27日)まで調査委員会を開催し、調査結果を中間とりまとめとして整理した。
その中で、加圧水型軽水炉(PWR)原子力発電所、沸騰水型軽水炉(BWR)原子力発電所および火力発電所における配管の減肉管理の実態および今後の対応を示した。
○ PWR配管に係る減肉
PWRの管理手法を検討し、PWR管理指針の妥当性を評価し、PWR管理指針の今後の課題を示している。
○ BWR配管に係る減肉
BWRでも、エロージョン/コロージョンによる減肉が一部のプラントで認められ、水質の環境改善対策として給復水系への酸素注入を行い、炭素鋼の表面にヘマタイト(Fe2O3)の不動態被膜を生成させるとともに、エロージョン/コロージョン対策材への取替えを行ってきている。減肉管理については、サリー原子力発電所二次系配管破損事故を契機として、各プラントで減肉データの測定が行われ、これに基づいて各電力会社が独自に管理手法を定めている。
BWRの各電力会社独自の管理手法をPWR管理指針と比較すれば、点検対象範囲はBWRの方が広く、点検頻度はPWRの方が高い。BWRとPWRでは減肉の傾向が異なり、減肉速度はBWRがPWRを下回っている。これはBWRとPWRの水質の違いと考えられる。PWRでは、二次系の水質管理として、脱気アルカリ処理を基本とし、炭素鋼の表面にマグネタイト(Fe3O4)の酸化被膜を生成させている。
○ 火力発電所の配管に係る減肉
火力発電所を所有する電力会社から2004年8月20日までに報告された結果によれば、802発電所の1,467ユニットのうちで、704ユニットで配管の肉厚測定が実施されており、763ユニットで実施されていなかった。
また、電気事業者など(一般電気事業者、共同火力、自家用電気工作物設置者など)から9月21日までに報告された結果によれば、運転開始後20年以上経過した火力発電所に係る肉厚検査実施計画によって、約249,000の調査対象箇所のうち、約213,000箇所がこれまで検査未実施であったが、各事業者は順次検査などを実施していく予定である。
対策 これまでPWR管理指針に基づく点検によって、PWR各プラントで、二次系配管の減肉データが数多く蓄積され、その結果の一部を用いた評価結果から、同指針はおおむね管理手法として適切であると考えられる。しかしながら、配管減肉に係る管理に万全を期すため、PWR電力会社を含む関係者は、これまでの測定実績および海外における知見も参考にして、中立的な機関により、透明性のあるプロセスで検討し、公開される新しい民間指針をとりまとめるべきである。その際、以下の項目を検討する必要があると考えられる。
○ 測定実績を踏まえた減肉速度
○ 測定実績を踏まえた測定範囲
○ 全数点検を行う箇所とサンプリング点検を行う箇所の区分および適切なサンプリング数
○ 余寿命評価結果に応じた点検頻度
○ 局部減肉現象などの新たな知見(最小肉厚、最大減肉速度、減肉速度の変化率など)を踏まえた必要最小肉厚および健全性評価方法
○ 測定手法の検討(詳細な測定手法の指針への追加など)
また、BWRについても、各電力会社が統一された管理手法で点検が行われることが望ましいことから、BWR電力会社を含む関係者は、PWRにおける取り組みと協調し、検討を行うべきである。
さらに、火力発電所については、現在のところ配管肉厚に係る共通の技術的指針がないが、今後、各電力会社において測定される配管減肉に関する実績データを集積し、適切な配管肉厚管理のための技術的指針を策定することが望ましい。
なお、現行の減肉の管理手法においては、1断面当たり8点または4点の測定ポイントについて測定を行い、一定の判断基準肉厚以下になった場合には、詳細測定を行い、測定された最小肉厚を技術基準から計算される必要肉厚と対比して判定が行われている。この管理手法では配管全周が、測定された最小肉厚まで減肉していると想定して判定が行われている。
配管の減肉に関するこうした管理手法は、測定において最小肉厚部位を検知している限り十分に保守的なものであるが、実際の配管の減肉現象においては、局部的に減肉の進展度合いの異なる局部減肉が多く見られる。
したがって、上記のように、中立機関において新しい民間指針を検討するに際しては、このような局部的な減肉の発生しやすい部位を摘出するとともに、その測定方法および詳細測定においてこれが確認された場合の健全性評価方法などについても、併せて検討することが望まれる。
事故の直接的な原因と考えられる関西電力(株)、三菱重工業(株)と(株)日本アームの3者が関与する二次系配管の減肉管理ミスが生じた背景には、過去における関西電力(株)の品質保証と保守管理が機能していなかったことがある。
2003年10月の検査制度改正によって、品質保証と保守管理に対する具体的な要求事項が法定化され、また新たに定期事業者検査が導入された。この新しい検査制度の下では、事業者に品質保証と保守管理の体制を構築することが義務付けられている。また、原子力安全・保安院は、事業者による品質保証と保守管理の実施状況を、保守検査と定期安全管理審査によって確認する仕組みがとられている。こうした状況を踏まえ、減肉管理に係る品質保証と保守管理の観点から、以下に示す対策を行うことが必要である。
○ 点検リストの作成と統一的管理
○ 的確な外注管理(協力企業の調達管理)の実施
○ 配管肉厚管理の規定化
○ 問題を未然に防ぐための事業者間の情報共有の着実な実施
知識化 ○ エロージョン/コロージョンとは
配管の内部を流体が流れる場合、内面が減肉して、減肉が局部的に配管肉厚を貫通したり、配管が破裂する事故が起きる。減肉のメカニズムは、腐食(corrosion)と壊食(erosion)である。壊食の代表例が、キャビテーション・エロージョンである。腐食と壊食は両者が同時に関与し、どちらが支配的か区別がつかない。そこで、一般的には、エロージョン/コロージョンという。英語ではcorrosion and / or erosion で、日本語の/はand / orを意味する。原子力分野では、FAC ( flow accelerated corrosion )またはFIC ( flow induced corrosion)ともいう。これは炭素鋼の酸化被膜(Fe3O4)が流れによって溶解するという特定のメカニズムを意味し、腐食に近い。エロージョン/コロージョンの特徴は、全面減肉ではなく、局部減肉になることである。
○ 局部減肉は欠陥
減肉は全面減肉(general metal loss)と局部減肉(localized metal loss)に分類される。一方、欠陥はき裂状欠陥(crack-like flaws)または平面状欠陥と、局部減肉状欠陥(localized metal loss)または非平面状欠陥に分類される。すなわち、局部減肉は欠陥であり、疲労き裂または応力腐食割れと同様に、維持規格の健全性評価(欠陥評価)の対象となるのである。
○ 局部減肉の速度の予測は難しい
局部減肉の速度は、全面減肉の速度よりも著しく高い。局部減肉は特定の部位(流れの乱れ)で、特定の運転条件(温度、化学種、流速)においてのみ起きる。局部減肉の速度はプロセス条件と材料のわずかな変化に敏感であり、一般的な腐食データから予測できない。応力腐食割れと同じである。
○ 減肉管理の現状
軽水炉では、PWR 二次系とBWR給復水系の炭素鋼配管が減肉管理の対象であり、水質管理(温度、溶存酸素、pH)と材質変更(低合金鋼、オーステナイト系ステンレス鋼)で対処している。炭素鋼にすれば局部減肉を起こし、オーステナイト系ステンレス鋼にすれば応力腐食割れを起こす。材料に絶対安全の神話はないのである。
○ 検査の現状
超音波によって減肉測定の検査を行うが、全面減肉と局部減肉の区別がなく、代表部位の傾向管理である。許容基準は必要肉厚である。
○ 局部減肉の課題
局部減肉は、維持規格の健全性評価(欠陥評価)の対象とすべきである。局部減肉の形状と寸法によって許容基準(塑性崩壊基準)を作成し、局部減肉が生ずる部位を特定して、形状と寸法の定量測定の検査を行う。余寿命予測のために、局部減肉速度予測の精度向上を図り、暫定的にはモニタリングで対処する。
○ 類似事例
H-2Aロケット6号機の打上げ失敗(2003年11月29日)は、固体ロケットブースタのノズルの炭素繊維強化プラスチックが燃焼ガスの流れの乱れによる局所エロージョンで減肉し、肉厚貫通して、燃焼ガスの漏洩に至ったことが原因である。局所エロージョン(局部減肉)の速度の予測は難しい。
後日談 「東北電力(株)の事例」
2004年9月29日に、東北電力(株)から原子力安全・保安院へ、女川原子力発電所1, 2号機の高圧給水加熱器ベント管のオリフィス下流側配管の減肉事象について、報告書が提出された。過去に、女川1号機で再三再四の減肉と取替えがあり、女川2号機でも減肉と取替えがあった事例である。
点検による減肉の検出と取替えの記録の詳細は以下のとおりである(高圧給水加熱器は第1と第2のそれぞれにA, Bがある)。
○ 女川1号機
  第5回点検(1989)、第1のA, Bを取替え(炭素鋼 → 炭素鋼)
  第6回点検(1990)、第1, 2のA, Bを取替え(炭素鋼 → 低合金鋼)
  第9回点検(1993)、第1, 2のAを取替え(低合金鋼 → 低合金鋼)
  第11回点検(1995)、第1, 2のA, Bを取替え(低合金鋼 → ステンレス鋼)
○ 女川2号機
  第2回点検(1997)、第1, 2のA, Bを取替え(低合金鋼 →ステンレス鋼)
すなわち、女川1号機では、炭素鋼配管を取替えても、さらに減肉に強いとされる低合金鋼配管に変更しても、減肉に対処できずに、最終的にオーステナイト系ステンレス鋼配管に変更したのである。女川2号機では、女川1号機の減肉の経験によって、設計当初から低合金鋼配管を使用したが、結果は女川1号機と同じであった。なお、女川3号機では、設計当初からオーステナイト系ステンレス鋼配管を使用しており、現在までに減肉は検出されていない。また、同じ設計の東京電力(株)柏崎刈羽1号機では、減肉は検出されていないが、すでに炭素鋼配管から低合金鋼配管に取替えられている。
上記の減肉は局部減肉であるが、原因はエロージョン/コロージョンではなく、ベント管が巻き込んだ凝縮水のジェット噴流によるエロージョンである。以下に減肉のメカニズムの詳細を示す。
(1)給水加熱器内のベント管には、蒸気と非凝縮性ガスを吸い込むためのベント穴があり、ベント穴を通して、凝縮水の一部を巻き込む。
(2)ベント管が巻き込んだ凝縮水は、ベント管内の蒸気流によって、オリフィスまで到達する。
(3)オリフィスに到達した凝縮水は、蒸気流とともに水滴として、オリフィス下流側へ音速に近い速度で噴出される。
(4)オリフィスの広がり方向(45度方向)に沿って噴出された水滴によって、下流側配管内面が円周にわたる帯状で、エロージョンにより減肉する。
なお、女川1, 2号機のオリフィスの孔縁は、45度のテーパがついている。女川3号機の孔縁の断面は、ストレートである。45度のテーパが、局部減肉の一因と考えられる。
女川1,2号機では、すでにオーステナイト系ステンレス鋼配管への取替えによって一応の対応はなされている。東北電力(株)は、定期検査ごとの点検によって余寿命を確認し、さらにオリフィス形状の変更を検討するとしている。
関西電力(株)の事故は腐食が支配的なFACで、東北電力(株)の事例は完全なエロージョンとの結論である。原子力発電所において、両極端が顔を出したという事実は、その中間のエロージョン/コロージョンの芽が数多く存在することを意味する。エロージョン/コロージョンによる局部減肉への根本的な対策が必要である。
「火力発電所の事例」
関西電力(株)の事故の直後の2004年8月15日に、福島県新地町の相馬共同火力発電(東北電力(株)と東京電力(株)の出資会社)新地発電所2号機で、タービン建屋内の配管が破裂し、蒸気が漏洩する事故が起き、運転を停止した。破裂した炭素鋼配管(直径300 mm、肉厚約10 mm)の破損部位はバルブ(弁)の下流で、破裂箇所の肉厚は約1.4 mmに減少しており、典型的なエロージョン/コロージョンによる局部減肉であった。
関西電力(株)の事故を受けて、原子力安全・保安院が全国の火力発電所に配管点検の状況を報告させている最中だった。破裂した配管は運転を開始した1995年以来、点検をしたことがなく、原子力安全・保安院の調査対象になっていた。
エロージョン/コロージョンによる局部減肉は、原子力発電所だけの問題ではなく、火力発電所、石油精製・石油化学と一般化学の事業所に共通した課題である。
よもやま話 原子力発電所以外の事業所を対象として、配管のエロージョン/コロージョン(E/C)の損傷事例の調査結果を示す。法規制(高圧ガス保安法、石油コンビナート等災害防止法、消防法、労働安全衛生法)によって、漏洩、破裂、火災などの損傷事故は、国への届け出が義務づけられている。損傷事故の原因では、腐食が最も多い。1971~1997年の間に、届け出のあった腐食損傷事故が53件、損傷が起きる前に検出し、補修・取替えした腐食事例が19件で、合計72件を調査の対象とした。72件のうちで、E/Cの事例が22件を占める。E/Cが損傷事故に直結していることがわかる。
E/Cの事例(22件)について、縦軸に配管の公称厚さ、横軸に使用年数をとり、事例のすべてをプロットした結果を図5に示す。局部減肉が肉厚を貫通して損傷事故を起こすと仮定すれば、図に示す直線の勾配が減肉速度を示すことになる。E/C以外のデータのプロットは省略するが、腐食の分類ごとに、損傷事故を起こすような減肉速度(mm/年)は、下記の範囲内に収まることがわかる。
  ○ 一般腐食:0.15~0.3 mm / 年
○ 加速腐食:0.3~0.5 mm / 年
  ○ 一般E/C : 0.5~1.0 mm / 年
  ○ 加速E/C : 4 mm / 年
ここで、一般腐食に対して加速腐食は、海水、地下の影響がある腐食および応力腐食割れである。また、一般E/Cに対して加速E/Cは構造と材料選定の不適切があるE/Cである。いずれにせよ、E/Cの減肉速度が腐食の減肉速度よりも極めて高いことがわかる。設計では通常、配管の厚さに腐れ代(くされしろ)を見込むが、10年で数mmという値までは考慮されていない。
E/Cの原因分類を、以下に示す。すべての事例が、いずれかの原因に分類される。
○ 部位
(ティー(T)管、閉塞(盲腸)管、曲管、エルボ、バルブ下流、オリフィス下流)
○ 流体の事象
(水注入、触媒顕粒の衝突、熱水のフラッシング)
○ 設計
(構造不適切、材料選定不適切)
単独の原因では、E/Cの損傷事故とはならない。複数の原因の複合効果によって、E/Cの損傷事故となる。原因の複合の例を、以下に示す。
○ 構造不適切(部位)の複合
  ティー管、閉塞管、水注入
○ 流体の事象と部位の複合
  水注入-ティー管、エルボ
  触媒顕粒の衝突-曲管、エルボ
  熱水のフラッシング-バルブ、オリフィス
○ 構造不適切と材料選定不適切の複合
水注入とエルボの複合の例を図6に示す。水注入の位置が構造不適切である。水注入による流れの乱れが、エルボでのE/Cを加速する。環境の影響もあって、4 mm / 年という極めて高い減肉速度を示した。この損傷事故から類推されるように、関西電力(株)の事故では、ベント孔が水注入の役割を果たし、オリフィス孔下流部のE/Cを加速したと考えられる。
熱水のフラッシングとオリフィスの複合の例を図7に示す。熱水のフラッシング(気相と液相の分離)が生ずる条件では、オリフィス孔下流部のE/Cが加速される。関西電力(株)の事故と比較すれば、オリフィス孔下流部の減肉と破口の様相は極めて類似している。
同一の装置、類似の部位は数多いが、E/Cによる局部減肉は特定の装置、部位に優先的に発生し、事故に至る。なぜ当該の事故にのみ優先したかという、素朴な疑問が生ずる。いくつかの損傷事故について、運転条件の履歴に着目したケーススタディを行った結果、運転条件の変更(意図的変更)が、流速と環境の変化を介して、減肉速度の加速(非意図的変化、累積的変化)をもたらすことが判明した。E/Cによる局部減肉は、そもそもが確率的事象ではあるが、運転条件の変更も大きな要因である。
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、管理不良、調査・検討の不足、事前検討不足、点検台帳登録なし、使用、保守・修理、点検・検査、点検なし、使用、運転・使用、配管、不良現象、熱流体現象、流体現象、流れの乱れ、オリフィス、破損、減肉、エロージョン/コロージョン、破損、破壊・損傷、破裂、蒸気噴出、身体的被害、死亡、事故死、組織の損失、社会的損失、信用失墜
情報源 (1)関西電力株式会社美浜発電所3号機 二次系配管破損事故に関する中間とりまとめ、原子力安全・保安院、平成16年9月27日
(2)小林英男、技術管理を適確に実行するために規格が必要になっている、原子力文化、35-10、11~13、平成16年10月号
(3)女川1, 2号機高圧給水加熱器ベント管の減肉事象について、東北電力(株)、平成16年9月29日
(4)柳田省三、小林英男、圧力設備の腐食損傷事例と腐食速度の解析、高圧ガス、35-3、203 / 214(1998)
(5)柳田省三、小林英男、圧力設備(配管)のエロージョン/コロージョンの損傷事例と腐食速度の解析、高圧ガス、36-8、720 / 728(1999)
死者数 5
負傷者数 6
マルチメディアファイル 図2.PWRの主要系統と破損位置
図3.配管の破損状況
図4.ベント孔下流の状況
図5.エロージョン/コロージョンの減肉速度
図6.水注入による損傷事故
図7.熱水のフラッシングによる損傷事故
分野 材料
データ作成者 小林 英男 (東京工業大学)