失敗事例

事例名称 H-2Aロケット6号機打上げ失敗
代表図
事例発生日付 2003年11月29日
事例発生地 鹿児島県熊毛郡南種子町大字茎水(種子島)
事例発生場所 宇宙航空研究開発機構 種子島宇宙センター
機器 H-2Aロケット6号機 固体ロケットブースタSRB-A
(1)H-2Aロケットのエンジンと補助ロケット
H-2Aロケットは、約4トンの衛星を軌道に打ち上げる能力を持つ2段式ロケットで、第1段エンジン、第2段エンジン、および第1段補助ロケット(固体ロケットブースタと固体補助ロケット)を持つ。
○ 第1段エンジン(LE-7A)は、液体酸素と液体水素を推進薬とする2段燃焼サイクル式の大型エンジンである。
○ 第2段エンジン(LE-5B)は、液体酸素と液体水素を推進薬とするエンジンである。
○ 固体ロケットブースタ(SRB-A)は、ポリブタジエン系推進薬を使用する大型のもので、2本が備えられている。
○ 固体補助ロケット(SSB)は、ポリブタジエン系推進薬を使用するもので、打ち上げる衛星の要求に応じて、2本または4本が備えられる。
(2)H-2AロケットブースタSRB-A
H-2Aロケットの固体ロケットブースタSRB-Aは、H-2ロケットの固体ロケットブースタ(SRB)の技術をもとに、信頼性を確保しつつ、SRBの半分以下の低コストを目標として開発された。SRB-Aの構造を図2と図3に示す。SRB-Aは、全長15.2m、代表径2.5mの大型固体ロケットであり、真空中で2本合わせて推力4,520kN(約461トン)、比推力280秒を発生する。SRB-Aは、打上げ後約100秒間燃焼した後、それぞれ第1段機体から分離される。
SRB-Aは、高燃焼圧力化に対応するため、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)フィラメントワインディング一体型構造のモータケースを採用している。さらに、高燃焼圧力化によって可能となった、ノズルの小型化に対応して、ノズルスロートにはSRBで採用していたグラファイトに代えて、我国では初めて国産の3次元炭素/炭素複合材料(3DC/C)を採用している。また、推力方向制御として、従来のシステムに代えて整備性と運用性の高い電動アクチュエータシステムを採用している。
ノズル部の構造を図4に示す。ノズル部の形状は、第1段エンジンに対する噴射ガスの影響を低減するために、円錐型ノズルを採用している。ノズル部は、スロートインサート、ライナアフト、ホルダなどから構成されている。スロートインサートには、強度の観点から信頼性の高い3DC/Cを採用している。ライナアフトには、CFRPとシリカ繊維強化プラスチック(SFRP)を採用している。また、ホルダには、ニッケル・クロム・モリブデン鋼、アルミニウム合金などを採用している。
事例概要 H-2Aロケット6号機は、2003年11月29日(土)13時33分に種子島宇宙センターから打ち上げられた。打ち上げ後 約105秒に機体搭載の計算機から2本の固体ロケットブースタの分離信号が送出されたが、右側1本の分離に失敗した。そのままでは衛星の軌道投入に必要な高度と速度が不足するので、13時43分53秒(打上げ後 約10分53秒)に指令破壊信号をロケットに送信した。このため、ロケットと情報収集衛星は太平洋上に落下した。
文部科学省 宇宙開発委員会 技術調査部会が調査を行い、事故原因を解明した。固体ロケットブースタのノズル部から後部アダプタ内に燃焼ガスが漏洩し、分離機構に異常が発生して、ブースタと機体をつなぐ前方ブレスが未切断となった。燃焼ガスの漏洩の原因は、ノズル部の断熱材(CFRP)の局所エロージョンによる減肉と特定された。
事象 固体ロケットブースタSRB-Aの分離概念図を図5に示す、2本のSRB-Aのうちの右側のSRB-Aと機体をつなぐ前方ブレスが未切断で、SRB-Aの分離に失敗した。
SRB-Aのノズル部の構造を図4に示す、スロートインサートの材料は3次元炭素/炭素複合材料(3DC/C)、ライナアフトB2の材料は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)である。ライナアフトB2は、燃焼ガスの加熱によって表層から炭化層が剥離し、減肉しながら熱防御を行うという機能をもつ。
右側のSRB-Aの分離失敗に至った過程は、図6を参照して以下のように推定される。
○ SRB-Aのノズル部内面には、ノズルスロートとライナアフトB2の材質の違いによる減肉の差で、ライナアフトB2前端部に周方向に一様な段差が発生する。
○ この段差の影響によって燃焼ガスの流れが乱れ、加熱率が高くなり、下流側で減肉が進行する。
○ 加えて、燃焼初期には、推進薬の光芒(表面に溝を軸対称につけた形状)の影響によって燃焼ガスの渦が形成され、減肉の大きい領域が発生する。
○ この領域のなかには、流れの揺らぎとCFRPにおける炭化層の形成に伴う炭化層の保持力の低下などの影響が重畳して、領域によっては、比較的深い溝に発達するものが現われる。
○ 深い溝が進展し、CFRPの積層面と加熱面のなす角度が小さくなり、かつ一定の幅をもった領域が形成されると、熱分解ガスの発生に伴う層間の圧力の増加、炭化層の保持力の低下などによって、層間剥離が発生し、CFRPの積層の脱落が起きる。この剥離と脱落が繰り返されることによって、局所エロージョンが加速される。
○ また、燃焼ガスが深くなった溝に向かって流れ込み、渦を形成し、動圧と熱負荷の高い環境となって、局所エロージョンがさらに加速される。
○ ライナアフトB2の局所エロージョンの進行によって、ホルダBに燃焼ガスが到達し、その熱によってホルダBが溶融して破孔し、その結果、燃焼ガスが後部アダプタ内部に漏洩した。
○ 漏洩した燃焼ガスによってSRB-A分離のための導爆線が加熱され、導爆線が機能を喪失し、右側のSRB-Aの分離に失敗した。
経過 SRB-Aの開発に際しては、下記の地上燃焼試験を実施している。
○ 地上燃焼試験(EM)
実機サイズモータでの推進特性などの設計妥当性の確認およびインシュレーション(断熱)、ノズル部の繊維強化プラスチック(FRP)耐熱データの取得
○ 地上燃焼試験(PM)
実機仕様モータ(インシュレーション薄肉化)による推進特性および推力方向制御系などの設計・製造工程の妥当性確認
○ 地上燃焼試験(QM)
実機仕様モータの推進特性の再現性の確認および設計・製造工程の確立
地上燃焼試験(QM)の結果と対策を以下に示す。
○ 1999年8月に行った地上燃焼試験(QM)において、ライナアフトBで、周囲に比べて広い範囲で減肉が顕著に増大する事象(過大エロージョン)が発生した。ライナアフトBと組み合わされていたライナアフトAの一部が欠落したことによって、ライナアフトBの加熱面と平行な積層面にフェノール樹脂の熱分解ガスによる層間剥離が発生し、近傍のCFRPが脱落したことが原因である。この過大エロージョン対策のため、ライナアフトを当初の分割型から一体型に設計を変更するとともに、地上燃焼試験(QM)まで採用していたCFRPに替えて、SRBで採用していたCFRPに変更し、さらにライナアフトの板厚を増加した。
○ 2000年6月に行った地上燃焼試験(QM2)において、燃焼末期にスロートインサートがモータケース内に脱落し、CFRPの破片が飛散する不具合が発生した。スロートインサートの脱落対策のため、スロートインサートとラジエーションシールダの接合面に傾斜角を設けるとともに、ノズルを移動させる力となるガスの閉塞を防止するために、スロートインサートとライナアフトB2の間の隙間寸法を増加する設計変更を行った。
○ 2000年10月に行った地上燃焼試験(QM3)において、ライナアフトB2で、周囲に比べて比較的狭い範囲で減肉が顕著に増大する現象(局所エロージョン)が発生した。
この局所エロージョンは、ノズル操舵などの影響に加え、ノズルスロート上流にて発生した渦、ノズル開口部流れの偏向などの影響によって局所的にアルミナ(燃焼促進剤)の濃度の大きい流れが誘起され、ノズル開口部のCFRP内表面に接触して発生したと、原因を推定した。また、サブサイズモータの地上燃焼試験も追加実施した。しかし、局所エロージョンのメカニズムについて、十分な解明までには至らなかった。
局所エロージョンの対策として、メカニズムの十分な解明には至らなかったが、余裕のある板厚設計により対応する方針とし、ライナアフトB2の板厚を増加した。さらに安全余裕を確保するため、ノズル外周に、CFRP製のアウタパネルを追加することとした。
原因 局所エロージョンを加速させる要因について検討した。
断熱材(CFRP)の層間剥離の影響を検討するために、層間剥離の評価試験と層間剥離を伴う減肉の評価試験を行い、層間剥離のメカニズムを推定した。
○ 断熱材の減肉が不均一に増大することによって、部分的に積層面と加熱面のなす角度が小さくなる領域が発生する。
○ この領域では、分解ガスが積層面に沿って抜けにくくなり、一定の幅を持った領域が発生すれば、分解ガスによる層間の内圧が増加し、その部分のCFRPの積層間で剥離と脱落が発生する。また、炭化層の形成に伴い、炭化層の保持力の低下によっても剥離と脱落が助長される。
○ このような積層間での剥離とCFRPの積層の脱落が繰り返されることによって、ある程度加熱幅が狭くなるまで、連続的に減肉が促進される。
地上燃焼試験(QM3)における地上燃焼試験後のノズル部の減肉を測定した。その分布データから、断熱材の積層面と加熱面のなす角度が小さい箇所が確認されたことから、燃焼中に積層面と加熱面のなす角度が小さい加熱面が生じている可能性があることを確認した。また、地上燃焼試験(QM3)で発生した局所エロージョン表面の顕微鏡観察の結果から、炭化層には機械的侵食の痕跡が認められ、炭化層の剥離と脱落が発生していたものと推定される。
深い溝における燃焼ガスの流れの影響について、数値流体解析による検討を行った。解析結果から、燃焼ガスの影響は連続的であるが、深い溝が形成された場合、燃焼ガスの流れ込みによって動圧および熱負荷が高い環境となり、アルミナを含む燃焼ガスによる化学的腐食および熱・機械的侵食で、減肉がさらに加速される可能性が高いと推定される。
断熱材の減肉の評価を行うために、サブサイズおよび実機サイズモータを用いた地上燃焼試験を実施した。地上燃焼試験結果から、固体ロケットの外観に異常はなく、燃焼ガスの後部アダプタ内への漏洩は認められなかった。ノズル部には、これまでの地上燃焼試験でみられたような大きな減肉は認められなかった。
以上の検討結果から、原因を「事象」に示した過程に特定した。なお、SRB-Aは、SRBと比べて高燃焼圧力化したことによる流体力学的な環境の変化が、背景として上記の過程の現象に大きな影響を与えていると考えられる。
SRB-Aの開発段階の地上燃焼試験から6号機の左側のSRB-Aまで、燃焼ガスの漏洩の発生を示唆する現象はない。一方、6号機の右側のSRB-Aに、特に漏洩につながる製造上の特異性も発見されていない。
CFRP製のノズル部に発生する局所エロージョンは、微細なメカニズムに起因する確率的な現象であることから、その位置と深さは、確定的に求められるものではない。高燃焼圧力化に伴い流体力学的環境が当該の部位では苛酷となり、新たな知見として得られたCFRPの層間剥離の進行と併せ、より深い局所エロージョンが発生し、破孔に至る可能性が、現在のノズル設計では潜在していたと考えられる。
局所エロージョンが、ライナアフトB2のどこに発生するかを予測することは困難であり、また一度減肉の加速が始まると、そのメカニズムの特性上、集中的に進行し続けるものである。それが6号機の右側のSRB-Aにおいて、初めて破孔に至るまでに顕在化したものと考えられる。
対処 宇宙航空研究開発機構は、H-2Aロケットの打上げ再開に向けて、信頼性向上に向けた取組みをさらに強化することとし、H-2ロケット8号機の打上げ失敗を受けて実施したH-2Aロケット総点検に引き続き、H-2Aロケットの再点検を実施した。再点検は、H-2Aロケットの信頼性向上を最優先課題として位置づけ、H-2Aロケット6号機打上げ失敗の直接原因への対策のみならず、ロケット全体にわたり、設計の基本にまでさかのぼって点検・評価を行った。
宇宙開発委員会は、H-2Aロケットの確実な打上げに向けて万全を期すために、調査部会の下にH-2Aロケット再点検専門委員会を特別に設置し、宇宙航空研究開発機構の行う再点検について、調査・審議を行った。
対策 SRB-Aの設計変更の基本的方向性は、以下のとおりである。
○ SRB-Aの設計変更にあたっては、信頼性向上を第一として、当面は、H-2Aロケットの打上げ能力を下げることで、局所エロージョンの発生を極力排除したSRB-A改良型を開発する。
○ また一方で、将来に向けて、一旦下げたH-2Aロケットの打上げ能力を回復するため、局所エロージョンの発生に対する顕著な低減効果の対応策を確立して、信頼性をさらに向上させた新たなSRB-Aの開発を目指す。
SRB-A改良型のノズル部の設計変更案は、以下のとおりである。
○ 燃焼パターンの見直し
複数の候補を用いて、SRB-Aの燃焼パターンについて、打上げ能力、地上風制約、構造強度、環境条件、制御性、分離条件を評価項目とした比較検討を実施した。その結果、打上げ能力および打上げ時の地上風制約に関する適否により、平均燃焼圧力を低下させて燃焼時間を延長させる燃焼パターンを採用することとした。
○ ノズル形状の見直し
ノズル形状の見直しに当たっては、局所エロージョンを加速させる層間剥離を有効に防止するため、ノズル開口部の初期立ち上がり角を増加させるベル型ノズルを採用することとした。
その際、初期立ち上がり角を増加したベル型ノズルで行った実機サイズモータ地上燃焼試験の2回の結果(2003年4月、2004年2月)などについての検討の結果、初期立ち上がり角の増加によって適切な効果が得られていることを確認した。なお、SRB-A噴流ガスの第1段エンジン(LE-7A)への影響の度合いおよびライナアフトの板厚増加に対する許容範囲により、初期立ち上がり角の増加の程度の小さいベル型ノズルを採用することとした。
○ スロートインサート(3DC/C複合材)範囲の拡大
スロートインサートを下流側に広げることにより、CFRP製ライナアフトの減肉の低減を図ることができる。しかし、3DC/Cの端部が薄くなることから、部材に欠けと剥離が発生するリスクに係る検討を実施した。その結果、現在まで実施してきた実機サイズモータ地上燃焼試験の結果(2003年4月、2004年2月)などから、問題となるような端部の欠損は発生しないと判断し、スロートインサート範囲を下流側に拡大することとした。
○ ライナアフトの板厚設計の見直し
SRB-A改良型のノズル設計において、板厚設計における十分な信頼性の確保のため、CFRPの減肉について最悪量モデルを作成し、これに板厚余裕を加えた新たな板厚設計基準を設定し、これに基づきライナアフトの板厚を増加することとした。
なお、ベル型ノズルでは、局所エロージョンを加速させる層間剥離が有効に防止されると考えられるが、この最悪量モデルにおいては、このような層間剥離が発生した場合の影響を最大限考慮している。
○ 製造・検査の改善
以下のとおり、製造・検査の改善を行うこととした。CFRPの材料特性の安定化のため、CFRP原材料と製品の材料特性管理を強化する。CFRPおよび3DC/C部材の欠けなどの可能性を一層低減するため、それらの欠陥に係る検査を強化する。ライナアフトの板厚増加に伴い、2つのCFRP部材を接着する2重構造ライナとすることについて、CFRP部材と金属ライナとの接着も含めて、工程毎に非破壊検査を行う。
さらに、導爆線および電気配線の艤装について、H-2Aロケット6号機の打上げ失敗の原因究明の結果を踏まえ、ミッションの不達成に繋がる連鎖事象を極力排除し、冗長構成とクリティカルな部品などを分離して配置するという観点から、設計変更案を作成した。
具体的には、SRB-A内において、分離用導爆線および電気配線の2系統をメイントンネルとサブトンネルに分けて艤装を行い、それらを分離して配置することによってリスクの低減を図ることとした。また指令破壊系機器については、H-2Aロケット6号機において燃焼ガスが漏洩した後部アダプタ内から、前部アダプタ内に移設することとした。
知識化 H-2ロケット6号機打上げ失敗の教訓から、開発と設計に共通した一般的な知識化を導くことができる。
(1)起きた事象を謙虚に受け止める姿勢
固体ロケットブースタは世界最先端の研究開発分野であり、専門家が予測しがたい要素を含んでいる。地上燃焼試験(QM3)で局所エロージョンが発生した際に、過去の知見にとらわれることなく、事象を謙虚に受け止め、それ以前のエロージョンとの発生のメカニズムの相違の検討、確定的に予測しがたい現象への対処、外部の専門家の活用などの幅広い観点を持つべきであった。
(2)あらゆる可能性を追求する真摯な姿勢
設計の要求条件を超えた限界条件での検討と、これを支える基礎研究の継続が必要である。地上燃焼試験(QM3)で層間剥離が発生した際に、CFRP材料の加熱試験で層間剥離が発生しないことを確認するばかりでなく、層間剥離の発生する条件と材料特性の把握という観点を持つべきであった。
後日談 2000年6月に行った地上燃焼試験(QM3)において局所エロージョンが発生したけれども、H-2Aロケット1号機~5号機の打上げは成功し、打上げが失敗した6号機でも、左側の固体ロケットブースタSRB-Aは健全であったと考えられる。局所エロージョンの発生が確率事象であり、6号機の右側のSRB-Aでのみ偶発的に起きたのであれば、試験または打上げの回数を増すことによって、局所エロージョンの発生を再現できると考えられる。
2004年7月7日に、局所エロージョンの技術データを取得することを目的として、6号機と同じコニカル型ノズルによる実機大モータ地上燃焼試験を実施した。なお、ノズルには、計測のために超音波センサ用の穴が加工されている。
試験の結果、点火後約50秒でノズル部が破孔し、燃焼ガスが漏洩した。局所エロージョンによる減肉が漏洩の原因であり、局所エロージョン溝部のライナアフトB2が超音波センサ用穴の影響によって破断し、6号機事故よりも早期に破孔したと考えられる。
上記の地上燃焼試験の結果によって、6号機事故の原因推定の結果が確証された。局所エロージョンの発生は、かなり高い確率で起こり得るのである。
その後、H-2Aロケット再点検専門委員会報告書(2004年9月2日)で取りまとめられた内容に沿って、SRB-A改良型の具体的な設計変更が進められた。そして、下記の3回の地上燃焼試験が実施された。
○ 2004年9月16日、実機大モータ地上燃焼試験
○ 2004年11月9日、実機大モータによる認定型地上燃焼試験(QM1)
○ 2005年1月12日、認定型モータ地上燃焼試験(QM2)
以上の結果から、ノズルの断熱・耐熱機能の評価は、以下のとおりである。
○ ライナアフト部の減肉の最大値と平均値は、5回のベル型ノズルの地上燃焼試験結果(2003年4月、2004年2月、および上記の3回)が同程度で、良好な再現性を示し、コニカル型ノズルの地上燃焼試験結果と比較して、半減している。
○ ライナアフト部の積層面と加熱面のなす角度は一定角度以上であり、層間剥離は発生していない。
2005年1月28日、宇宙開発委員会 調査部会H-2Aロケット再点検専門委員会は、これまでに実施された3回の地上燃焼試験の結果は良好であり、SRB-A改良型の設計変更は妥当なものであることを確認し、開発を完了したとの(独)宇宙航空研究開発機構の報告を了承した。
2005年2月26日、H-2Aロケット7号機は種子島宇宙センターからの打上げに成功し、6号機打上げ失敗から1年3ヶ月で汚名をすすいだ。
よもやま話 (1)H-2Aロケット6号機の目的
H-2Aロケット6号機は、情報収集衛星2号機を所定の軌道に投入することを目的としている。情報収集衛星は、閣議決定に基づき、わが国の自然災害への備えと安全の確保に必要な情報収集能力を強化することを目的とする衛星である。情報収集衛星1号機は、2003年3月28日にH-2Aロケット5号機によって成功裏に打上げられた。安全の確保に必要な情報収集とは、具体的に北朝鮮の監視である。したがって、機密上の理由から、5号機と6号機の打ち上げに際しては、一般見学が厳しく制限された。6号機の早期の破壊指令信号の送信も、衛星の機密保持のためという見方もある。衛星は1号機のみでは機能せず、わが国の安全の確保は危うい状態にある。
(2)エロージョン/コロージョン
2004年8月9日に、福井県美浜町で「原子力発電所の配管破裂で蒸気噴出」の事故があった。配管破裂の原因は、エロージョン/コロージョンによる局部減肉である。H-2Aロケット6号機打上げ失敗の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の局所エロージョンによる減肉は、金属材料のエロージョン/コロージョンによる局部減肉と同じ現象である。CFRPの局所エロージョンは、燃焼ガスによる化学的腐食と機械的侵食の共同作用である。したがって、正確には、エロージョンではなく、エロージョン/コロージョンである。CFRPと金属材料のいずれでも、エロージョン/コロージョンによる局部減肉が生じ、減肉速度の予測は困難で、漏洩の原因となるのである。
シナリオ
主シナリオ 未知、未知の事象発生、調査・検討の不足、事前検討不足、使用、運転・使用、ロケット打上げ、不良現象、熱流体現象、燃焼ガス、破損、減肉、エロージョン、二次災害、損壊、漏洩、火災、機能不全、ハード不良、制御システム不能、固体ロケットブースタ分離失敗、破損、大規模破損、墜落、ロケット打ち上げ失敗、組織の損失、社会的損失、社会の被害、社会機能不全、安全の喪失
情報源 (1)H-2Aロケット6号機打上げ失敗の原因究明及び今後の対策について、宇宙開発委員会、平成16年6月9日
(2)H-2Aロケット再点検専門委員会報告書、宇宙開発委員会調査部会H-2Aロケット再点検専門委員会、平成16年9月2日
マルチメディアファイル 図2.H-2AロケットとSRB-Aの構造
図3.SRB-Aの構造
図4.SRB-Aノズル部の構造
図5.SRB-A分離概念図
図6.局所エロージョンが加速するプロセス
分野 材料
データ作成者 小林 英男 (東京工業大学)