事例名称 |
LPガス充填所のタンク爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1964年09月14日 |
事例発生地 |
大阪府茨木市茨城560番地 |
事例発生場所 |
LPガス充填所 |
機器 |
LPガス容器、横置タンク |
事例概要 |
1964年9月、大阪にあるLPガス充填所で、タンクローリのポンプを利用してLPガス容器にLPガスを充填する作業の中断中に、LPガスが漏洩して着火し、火炎にあぶられてLPガス容器と横置タンクが次々と破裂し、死者3名、重軽傷者61名の大惨事となった。この事例を契機として、LPガス充填所の経営者と作業員に対する保安管理体制の教育、設備の点検指導が全国的に実施された。 |
事象 |
LP(液化石油)ガス充填所で、故障していたコンプレッサーとポンプの代わりに、タンクローリのポンプを利用して10キロと50キロ容器にLPガスを充填しようとしたところ、うまくいかなかったため作業を中止した(図2、図3参照)。 作業中止から約30分後、突然「シュー」という音とともに白煙があたり一面にたちこめて着火した。この火炎にあぶられてLPガス容器と横置タンクが次々に破裂し、死者3名、重軽傷者61名の大惨事となった。 事故後の調査によれば、ホースの劣化による破裂またはタンクローリの移動によるカップリング切損が原因で、ガスが噴出したものとみられている。この事例を契機として、LPガス充填所の経営者及び作業員に対する保安管理体制の教育、設備の点検指導が全国的に実施された。 フォールトツリー解析の結果を以下に示す。 ○ 図4 破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図 LPガスは、約20秒でブロック塀に囲まれた充填所敷地内から溢れ出すほど激しく噴出した。着火直前の白煙の全容積は約600m3以上、ガス噴出量は360リットル/分と推定される。これほどの噴出は10キロと50キロ容器からは起こりえず、タンクローリから横置タンクまでのいずれかの場所に噴出口ができたと考えられる。 事故後の調査によって、タンクローリの本体、ポンプ、ホース接続口まで破壊した跡は無く、横置タンクはタンクローリ及び容器充填所と連絡を断たれていた(図5参照)。したがって、LPガスが大量に噴出した箇所はカップリングを含むタンクローリと横置タンクの連結ホースとなる。LPガス用のホースの破壊圧力は、通常90kg/cm2であるが、古くなると使用圧力で裂けることもありうる。 また、タンクローリが所定の位置より2m後方に移動しており、この位置ではホースの長さが完全にタンクの受入れ口に届かない。さらに、送液ラインのカップリングのねじ逃げ部が切損しており、均圧ラインのカップリングは引抜かれて、ねじ山がつぶれた状態になっていた。ねじ逃げ部の厚さは2mmと薄く、曲げ強さは0.8トン程度と非常に弱いため、タンクローリが移動すれば容易に切損すると考えられる。 以上より、LPガスの噴出原因はホースの劣化による破裂、またはタンクローリの移動によるカップリングの切損と考えられるが、タンクローリが移動していたこと、カップリングが折損しやすかったことを考えると、タンクローリの移動によるカップリングの折損の可能性が高い。 横置タンクは、胴板長手方向の延性破壊によって破裂していた。胴板(60キロ級高張力鋼)は再結晶温度まで加熱されており、温度650℃での耐圧強度は20.7kg/cm2である。安全弁の作動圧力29.8kg/cm2は耐圧強度よりも高く、安全弁が作動する前に胴板が長手方向に延性破壊で破口を形成したと考えられる。 爆発後の横置タンク内面には気液の境界に相当する色彩変化が明瞭に残っており、これより爆発寸前の横置タンク内には6トンあまりの液体が残っていたと推定される。また、安全弁は爆発寸前まで作動しており、これらは横置タンク内のLPガスが臨界温度以下であったことを示している。したがって、内圧の上昇によってできた破口から大量のLPガスが放出され、内圧が瞬時に低下すれば、気液の平衡が破れ、過熱状態となった液体は激しく沸騰し、大量のガスが瞬時に蒸発して、激しい衝撃圧をタンクに加える。こういった現象は蒸気爆発といわれており、この結果、破口を形成した横置タンク全体がばらばらに破裂した。 イベントツリー解析の結果を以下に示す。 ○ 図6 横置タンク爆発のイベントツリー図 タンクローリの移動またはホースの劣化によって漏洩したLPガスが、何らかの着火源によって着火して、火災が発生した。火炎にあぶられた横置タンクは、安全弁の作動圧力が不適切に高かったために内部の圧力が上昇し、加熱による強度低下とあいまって、破口の形成に至った。破口による圧力の急低下で、横置タンク内に残っていた大量のLPガスが蒸気爆発を起こした。 |
経過 |
LPガス充填所には10トン横置タンク1基が設置され、10キロと50キロ容器にLPガスを充填している。充填所の月間販売量は約100トンで、3日に2台の割合(タンクローリの容量4.8トン)で横置タンクに充填していた。 事故当日、経営者はタンクの残量が多いので、予約していた配車を中止するよう電話したが、すでにタンクローリは出発した後であった。一方、充填所ではコンプレッサー及びポンプが故障していたので、ポンプを使用しない流し込み充填が行われていた。 午後、タンクローリが到着したが横置タンク内のLPガス量が多かったため、運転手に横置タンク内のLPガス量を減らすまで待機するように依頼した。運転手は流し込み充填が非能率なのをみて、タンクローリのポンプを利用して充填することを考え、横置タンクとタンクローリ間の均圧ラインを連結し、ポンプを運転したがうまくいかなかったので、作業を中止した。 作業中止後30分ほど経過したところ、突然「シュー」という音とともに白煙があたり一面にたちこめ、何も見えなくなった。そして、ガスが噴出してから約20秒後に着火した。この火炎にあぶられてLPガス容器が破裂し、横置タンクの安全弁からは断続的にガスが噴出した。着火後約18分が経過したときに横置タンクが爆発し、破片が周囲に飛散した。 |
原因 |
(1)未熟練な作業員による不慣れな作業 LPガス噴出の根本的な原因は、タンクローリのポンプを用いて充填する作業である。この作業は通常行われているが、当該充填所では初めてであり、しかも、このときに保安監督者は出かけていた。 また、タンクローリは傾斜のついた敷地内で水平を保つために、普段から後輪を枕木の上にのせて駐車しており、車輪止めもしていなかった。さらに、作業中止後もホースは圧力が加えられたままポンプに接続されていた。これらのことから、保安意識が低かったことが伺える。 (2)狭い敷地 当該充填所は非常に敷地が狭く、個々の設備の配置が密集していた。このために、最初の着火から3分後には消防隊が駆けつけたにもかかわらず、LPガス容器が次々に破裂し、そちらの消火に当たっている間に横置タンクが爆発した。また、横置タンクと防火壁の距離が近く、防火壁の高さが低すぎたために、横置タンクの上半部に強い火炎輻射が集中し、横置タンクの破裂に至った。 |
対処 |
充填所で火災が発生した場合、初期火災であってもまずガスの噴出、漏洩を止めることが先決である。爆発的引火のあと、火炎は通常一定の方向、一定の大きさをしばらく保っているので、安全な方向から元弁などに接近して噴出、漏洩を阻止できることが多い。 しかし、本事例のようにLPガスが液状で噴出した場合、蒸発、冷却による白霧の範囲内は爆発限界以上の濃度であるから、引火しないことを見極めた場合以外は、その中に入るべきではない。 |
対策 |
本事例を契機として、以下の対策が実施された。 (1)各設備間の距離を十分に取るか、間に障壁を設ける。 (2)LPガスタンクには散水装置、液面計を設ける。 (3)過流防止弁の検査、突出部の保護、ホース・カップリングの構造寸法の統一といったタンクローリ関連の改善 (4)タンクローリを駐車するときはサイドブレーキを引き、車輪止めをする。 (5)経営者の自主保安意識の向上 (6)充填所作業員(タンクローリ運転者を含む)の実務教育の実施 (7)自主保安基準を周知徹底し、充填所設備の質的向上を図る。 |
知識化 |
・保安意識を高く持て 保安意識を高く持って、日頃から保守管理をきちんとしていれば、今回の事故は未然に防ぐことができた。事業者は自分の扱っているものの危険性をきちんと認識し、常に万全の体制を敷いておくべきである(図7参照)。 ・火災時のLPガスタンクの危険性 LPガスタンクが火炎にあぶられれば、安全弁の作動圧力以下の圧力上昇によって破裂する危険性がある。もちろん、安全弁が作動すれば、LPガスが漏洩する。この問題への技術的対処は、極めて難しい。 |
背景 |
当時、LPガス事業は急速に発展しており、充填所の様式、規模も逐年変化していた。歴史が浅いために技術経験の積み重ねが乏しく、充填所の保安管理体制も十分でなかった。 |
後日談 |
本事例を契機として、充填所の経営者と従業員に対する保安管理体制の教育、設備の点検指導が全国的に実施された。 |
シナリオ |
主シナリオ
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組織運営不良、管理不良、保守管理不良、コンプレッサー、ポンプ故障、誤判断、狭い視野、未経験・不慣れ、非定常操作、操作変更、タンクローリのポンプを用いた流し込み充填、ホース連結のまま放置、定常動作、不注意動作、タンクローリ移動、破損、破壊・損傷、カップリング切損、二次災害、損壊、漏洩、火災、破損、劣化、横置タンクの高温強度低下、破損、破壊・損傷、横置タンク破裂、LPガス放出、不良現象、熱流体現象、熱現象、内圧低下、二次災害、損壊、蒸気爆発、横置タンク爆発
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情報源 |
LPガス充填所の事故対策調査報告,高圧ガス保安協会報号外,昭和40年1月
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死者数 |
3 |
負傷者数 |
61 |
物的被害 |
LPガス容器,横置タンク1基,タンクローリー1台,LPガス充填所,周辺の建物 |
被害金額 |
不明 |
全経済損失 |
不明 |
社会への影響 |
一般の火災では爆発することは無いと言われてきたLPガスタンクが、安全弁が作動していたにもかかわらず爆発したため、LPガス関係者に大きなショックを与えた。 |
マルチメディアファイル |
図2.事故現場見取図
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図3.充填所設備配置図
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図4.破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図
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図5.タンクローリと横置タンクの接続状況
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図6.横置タンク爆発のイベントツリー図
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図7.LPガスの危険性の認識
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分野 |
材料
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データ作成者 |
赤塚 広隆 (高圧ガス保安協会)
小林 英男 (東京工業大学)
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