事例名称 |
タンクローリの横転によるLPガス爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1965年10月26日 |
事例発生地 |
兵庫県西宮市川西町12-12先 |
事例発生場所 |
第二阪神国道路上 |
機器 |
5トン積タンクローリ(内径1750mm、長さ5030mm、胴厚さ12mm、材質60キロ級高張力鋼)(図2参照) |
事例概要 |
1965年10月26日夜間に、西宮市の国道を走行中の5トン積タンクローリが、運転手の居眠り運転でハンドル操作を誤り、横転した。横転した衝撃でタンクローリの頂部から突き出た安全弁とスリップチューブ式液面計が破損し、LPガスが噴出した。流れ出したLPガスは白い霧となって約1mの厚さで国道沿い200mにわたり這っていった。約5分後に何らかの着火源によって引火した。着火源は無数に考えられ、特定されていない。この火災によって死者5名、重軽傷者26名、家屋焼失31棟という大災害となった。損害額は1億2千万円といわれ、運送会社に被害総額を補償する力が無く、補償交渉は難航した。 |
事象 |
夜間に兵庫県西宮市の国道を走行中の5トン積タンクローリが、運転手の居眠り運転でハンドル操作を誤り、横転した(図3、図4参照)。タンクローリは60km/h以上のスピードを出していたとみられ、陸橋の手前で横転、ついで転覆のまま約8mすべって車体もろとも横断陸橋の支柱に激突した。転覆した衝撃で突出部の安全弁(口径50A)とスリップチューブ式液面計を折損したが、このような状況ではどのような材質の安全弁でも壊れる。なお、タンクローリは縁石に衝突し、積載位置から見て右側が深さ110mm、縦1200mm、横600mmにわたりへこんだが、LPガス漏洩箇所は認められず、その他の付属品にも特に異常は認められなかった。 折損口(50A、19.6cm2)から噴出したガスは拡散し、噴出から約5分後に着火、爆発した。折損口からLPガスがほとんど抵抗無しに放出されていたと仮定すると、着火までの5分間にほとんどのLPガスが流出したものと考えられる。流出したLPガスは白い霧となって約1mの厚さで国道沿い200mにわたり這っていった(図5参照)。その一部は陸橋南東付近に充満し、風下になった付近の民家に塀(高さ約2m)を越えて侵入した。このことはコンクリートブロック塀が歩道側に倒れていたことからも判断できる。このようにLPガスは非常に広範囲に拡散していることから、着火源は無数に考えられ、特定されていない。推定される着火源としては、(1)付近民家の発火源(屋内にある電気冷蔵庫のサーモスタット、ガス冷蔵庫の火種、屋外にあるホームポンプのモーター類、焼却炉の残火)、(2)走行中の自動車の排気ガスの火の粉類、(3)タンクローリのエンジン部分または電気的スパークがあげられる。 |
経過 |
事故を起こしたタンクローリは10月25日午後7時頃、神戸市東灘区にある車庫を出発し、10月26日午前零時頃、和歌山県有田市にある燃料工場に到着した。工場で約20分間、プロパンを主体としたLPガス5000kgを積み込み、同零時50分頃帰途についた。午前3時すぎ、居眠り運転をしていたために、右側から黒い乗用車が前を横切ろうとしたことに慌てて、左にハンドルを切ったが、左側に軽四輪が同方向に走っていたため、狼狽して再び急にハンドルを右に切ったことで車は安定を失い、横転した。 |
原因 |
(1)居眠り運転 本事故の直接的な原因は運転手の居眠り運転である。危険物を運搬する車輌の運転手は凶器を運転しているという認識をもち、常に万全の体調で仕事に臨むべきである。 (2)突起物の折損 本事故が広範囲にわたるLPガス爆発まで発展した原因は、突起物の折損口からのLPガスの漏洩である。この突起物は安全弁とスリップチューブ式液面計であり、本来安全を確保するためのこれらの機器が、事故拡大の原因となってしまっては元も子もない。 |
対処 |
本事故では、発生時刻が深夜であり、LPガスの漏洩から着火までが5分間と短かったために対処のしようがなかったが、大規模なLPガス漏洩が発生した場合には、消防への通報、付近の住民への火気の使用の禁止と避難を呼びかけることが重要である。 |
対策 |
本事故を契機として、高圧ガス取締法施行規則の改正(昭和40年12月)が行われた。 (1)移動計画書の届出制 (2)移送径路の制限 (3)200kmを超えて移動するときは運転手2名 (4)バルブ、液面計等の付属品に損傷防止措置を講ずる。 |
知識化 |
・事故を想定して設計せよ 機器を設計する際には、事故が発生した場合も想定し、事故拡大を防止できるような構造にしなければならない。 |
シナリオ |
主シナリオ
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不注意、疲労・体調不良、睡眠・休養不足、定常動作、危険動作、居眠り運転、交通事故、タンクローリ横転、破損、破壊・損傷、安全弁、液面計折損、LPガス漏洩、二次災害、損壊、火災、身体的被害、死亡、事故死、組織の損失、社会的損失、家屋焼失、社会の被害、社会機能不全、損害賠償、補償交渉難航
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情報源 |
西宮市におけるタンクローリー車事故報告について(昭和40年)兵庫県商工労働部工業課
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死者数 |
5 |
負傷者数 |
26 |
物的被害 |
家屋の焼失31棟,車輌31台 |
被害金額 |
1億2000万円 |
全経済損失 |
不明 |
マルチメディアファイル |
図2.タンクローリ
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図3.横転したタンクローリ(後方から見る)
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図4.横転したタンクローリ(前方から見る)
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図5.事故現場見取図
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分野 |
材料
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データ作成者 |
赤塚 広隆 (高圧ガス保安協会)
小林 英男 (東京工業大学)
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