失敗事例

事例名称 油の混入によって圧縮空気貯槽が爆発
代表図
事例発生日付 1995年07月31日
事例発生地 埼玉県桶川市上日出谷
事例発生場所 三菱マテリアル株式会社 桶川製作所 鋼合金課 押出し設備
機器 アキュムレータ設備(高圧ガス製造設備)は、銅合金などの継目なし管を製造する1,650トン押出しプレス装置の一部で、空気圧縮機、圧縮空気貯槽2基、アキュムレータなどの機器で構成されている。アキュムレータ(accumulator)は縦型油圧式で、ピストンによって空気の蓄圧と緩衝を行う。圧縮空気貯槽(エアボトル)は、同仕様のA号機とB号機の2基がある。圧縮空気貯槽は内筒材(SM50A-SR相当材)、層成材(SM50A相当材)、外筒材(SM50A相当材)および鏡板(SM50A-SR)で構成される多層巻円筒製圧力容器で、設計圧力210 kg/cm2、内容積1.8 m3である。
事例概要 1995年7月31日8時27分頃、埼玉県下の三菱マテリアル(株)桶川製作所内のアキュムレータ設備で爆発事故が発生した。工場周辺の住民2名を含む負傷者18名(13日後に1名死亡)を出す大事故となった。アキュムレータ設備の一部の圧縮空気貯槽2基が完全に破裂し、工場内の建物と設備ばかりでなく、圧縮空気貯槽を中心に半径約1,500 m以内の工場外の一般家屋の窓ガラス、屋根、外壁などを破損する被害をもたらした。破裂した圧縮空気貯槽の破片は、最大約1,200 mの距離に飛散した。
圧縮空気貯槽に油が経年的に混入し、変質した油の発火が爆発の原因である。高圧空気への油の混入の危険性が、改めて認識された。爆発の危険性がないと思われている圧縮空気貯槽も、混入油類の性状管理と清掃排除が必要である。
事象 1995年7月31日8時27分頃、埼玉県下の三菱マテリアル(株)桶川製作所内のアキュムレータ設備で、設備担当作業者が押出しプレス装置を稼動させるために、アキュムレータの上部に設置されている手動バルブを開ける操作を行っていたところ、瞬時のうちに圧縮空気貯槽2基が同時に爆発した。アキュムレータ設備の概略を図2に示す。
工場のレイアウトと被害状況を図3に示す。圧縮空気貯槽2基の貯槽本体はばらばらに飛散し、周囲の建物と設備を破損する被害をもたらした。圧縮空気貯槽A号機は13個の破片に分離し、破片の最大飛散距離は630 mであった。B号機は11個の破片に分離し、破片の最大飛散距離は1,200 mにも及んだ。
アキュムレータと附属装置、空気圧縮機の破損は軽微で、圧縮空気貯槽の破裂による被害であった。押出しプレス装置が設置されていた工場建屋は、外壁、屋根、中柱が吹き飛ぶ被害を受けた。また、圧縮空気貯槽を中心に、半径約1,500 m以内の工場外の一般家屋の窓ガラス、屋根、外壁などが破損する被害を受けた。負傷者は、工場周辺の住民2名を含む18名(13日後に1名死亡)を出した。
通商産業省は全国に類似の設備が多数設置されていることを踏まえ、1995年8月4日に高圧ガス保安協会内に「圧縮空気貯槽等破損事故調査委員会」(委員長 大島榮次 東京工業大学名誉教授、委員13名)を設置し、事故原因の究明、再発防止策の検討などを行った。
経過 圧縮空気貯槽2基は、事故が起こる約30年前の1966年にアキュムレータとともに押出しプレス装置に設置された。事故直近の検査としては、定期自主検査を1994年12月11日に、保安検査を1995年6月6日に実施し、設備に問題がないことを確認していた。しかし、圧縮空気貯槽は設置以来、内部の清掃が適切に行われていなかった。
アキュムレータはピストン式であり、空気部分と油部分の完全な隔離構造ではない。油圧作動油がピストン摺動面に沿って空気部分に流出する。事故後の調査で、手動バルブ、接続配管系内、圧縮空気貯槽下鏡板に油類が付着していた。また、アキュムレータの油圧作動油は、事故により油圧系配管が損傷したために流失し、ピストンは最下部に降りていた。ピストン上面には、黒色の汚泥状の油が高さ42 mm(約14リットル)溜まっていた。これが事故以前の状態か否かは不明である。しかし、事故以前に油類が設備系内に存在していた可能性が高い。
圧縮空気貯槽内に溜まる油類などのドレンは、液面計で堆積量を確認し、ドレン抜き作業を実施していた。しかし、ドレンは排出溝に排出され、ドレン量と性状の確認は行われていなかった。
ガスクロマトグラフ分析の結果、設備系内に残存していた油類のうち、空気圧縮機用潤滑油は空気圧縮機と付近の配管だけに検出され、残りの箇所はすべてアキュムレータ用油圧作動油であった。したがって、爆発に関与した物質は、アキュムレータ用油圧作動油であると推定される。残存油は長期間にわたり空気の圧縮と膨張が繰返される過程で変質して炭素化し、低沸点成分の炭化水素の生成をきたしていた。このために、空気中での発熱開始温度は新しい油と比較して約60℃低下しており、発火しやすい状態であった。
設備は7月29日まで押出し作業が実施されていた。手動バルブの開閉を伴う運転の開始と停止の操作は、ひんぱんに行われていた。7月29日15時に設備の運転を停止したが、その時点で圧縮空気貯槽側の圧力は195 kg/cm2であった。
事故後の調査で、アキュムレータに接続する油圧配管系にあるソレノイドバルブの漏洩試験の結果、作動油の漏洩が確認された。したがって、設備を停止して長時間放置すると、ソレノイドバルブから作動油が漏洩し、アキュムレータ内部の圧力は、大気圧近くまで低下する。解析の結果、7月29日に設備が停止してから休日をはさみ、事故当日の7月31日に手動バルブを開くまでの約41時間で、アキュムレータ内部の圧力は22.5 kg/cm2まで低下していたと推定される。このために、手動バルブを開いた際に、圧縮空気貯槽側の高圧空気が油類を含む可燃性混合気となって、アキュムレータ側の低圧空気へ高速で噴出し、設備系内に噴霧を形成したと考えられる。
手動バルブと圧縮空気貯槽の接続配管には、塑性変形による膨張が認められ、圧縮空気貯槽の爆発に先行して、配管内を火炎が可燃性混合気の燃焼を伴って伝播したと考えられる。
発火位置は、圧縮空気貯槽2基がほぼ同時に爆発したことと、破壊モードから判断して、アキュムレータ内部または手動バルブとアキュムレータの接続配管系内の可能性が高い。発火原因としては以下が考えられるが、特定できない。
○ 断熱圧縮による温度上昇
○ 静電気放電
○ 固形物による摩擦熱
発火によってアキュムレータ内部で燃焼が起き、火炎が接続配管系の内部を可燃性混合気の燃焼を伴って伝播し、圧縮空気貯槽2基にほぼ同時に達し、圧縮空気貯槽内部で可燃性混合気と劣化油類の急激な燃焼(爆発)を引き起こしたと考えられる。
なお、圧縮空気貯槽側の安全弁のシート面に真新しい打痕傷が認められた。安全弁は圧縮空気貯槽の爆発時に、急激な圧力上昇によって作動し、傷が付いたと考えられる。
破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図を図4に示す。圧縮空気貯槽の爆発のイベントツリー図を図5に示す。
原因 (1)作動油の変質
運転の開始操作において、アキュムレータ側と圧縮空気貯槽側の圧力差を確認することなく、作業が継続されていた。
アキュムレータ側の空気の圧力が低下している状態で手動バルブを開くと、断熱圧縮によって温度が上昇する。この操作の繰返しによって設備系内の空気に混入した油分が変質して炭素化し、低沸点成分の炭化水素を生成し、設備系内の潜在的な発火と燃焼の危険性を助長した。設備はドレンと油類の性状の管理と清掃が適切に行われておらず、定期的な清掃によって事故は未然に防止できたと考えられる。
(2)圧力差
事故の直接の原因は、潜在的な発火と燃焼の危険性をもつ雰囲気にあったアキュムレータ設備において、アキュムレータ側と圧縮空気貯槽側に大きな圧力差がある状態で手動バルブを開いたことによって、発火を引き起こす可燃性混合気の環境を形成したことにある。
対策 対策として考えられるものを、以下に示す。
(1)空気に換えて、窒素を用いる。
 これは経済的にも、現実的ではない。
(2)空気部分と油部分を隔離する構造とする。
 ピストン式の宿命であり、完全な隔離構造の実現は難しい。
(3)設備系内の状態を適切に確認できる構造とする。
(4)ドレンと油類の性状を管理し、定期的に清掃する。
(5)手動バルブの操作に際して、衝撃的な流れが発生しない構造とするか、または作業手順を定めて実施する。
結局、現実的な対策は、(3)と(4)という日常的な維持管理となる。この工場では、アキュムレータの作動油の漏洩に対処せず、また30年の間、圧縮空気貯槽の内部を清掃していなかったのである。
知識化 ○ 油は変質する
難燃性の油であっても、長期間の使用によって変質し、燃焼しやすくなる。定期的な管理と清掃で設備内に推積した油分を取り除く必要がある。
○ 高圧空気への油の混入の危険性
高圧空気に油が混入すれば、燃焼の危険性のあるガスとなることを認識する必要がある。
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、管理不良、作業管理不良、手順の不遵守、手順無視、操作手順無視、使用、保守・修理、油類の性状管理、清掃、アキュムレータ、不良現象、熱流体現象、流体現象、圧力差、可燃性混合気、不良現象、化学現象、発火、燃焼、破損、大規模破損、破裂、圧縮空気貯槽、二次災害、損壊、事業所内設備、事業所外建物、身体的被害、死亡、身体的被害、負傷
情報源 圧縮空気貯槽等破損事故調査報告書,高圧ガス保安協会,平成8年2月
死者数 1
負傷者数 17
物的被害 アキュムレータ設備の破損、事業所内建物の破損、車輌7台損傷、事業所外建物の損傷78件、畑と水田の被害27件
被害金額 不明
全経済損失 不明
マルチメディアファイル 図2.アキュムレータ設備の概略
図3.工場のレイアウトと被害状況
図4.破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図
図5.圧縮空気貯槽の爆発のイベントツリー図
分野 材料
データ作成者 小林 英男 (東京工業大学)