事例名称 |
ボイラ主蒸気管のクリープ損傷による蒸気漏洩事故 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1983年03月06日 |
事例発生地 |
米国 |
事例発生場所 |
フィラデルフィア電力エディストン1号機 |
機器 |
主蒸気管(ASTM TP316ステンレス鋼)。なお、エディストン1号機は1960年2月5日に運転開始された、蒸気条件が649℃、34.5MPa(352kg/cm2g)の世界最初の超々臨界圧プラントである。 |
事例概要 |
運開後130,520h経った1983年3月6日の定期点検後の起動時に、8本の主蒸気管(内径101.6mm、最小肉厚61mm)のうち、過熱器出口管寄せからボイラ止弁までの垂直部において蒸気漏洩が発見されたため、直ちにプラントが停止された。蒸気漏洩は4B主蒸気管の保温外被から水漏れによって発見され、保温材を外したところ、貫通割れ(き裂長さは最大で686mm)が確認されたため、その後主蒸気管全体の調査を行い、多数のき裂(未貫通)が発見された。貫通亀裂は管外面から発生しており、その原因は、プラント停止時の給水によって管内面が急冷されたことのよる管外面の引張残留応力と内圧応力の繰り返しによるクリープ損傷の累積であるとされている。これらの主蒸気管は全て取り替えられた。 |
事象 |
○ 図4 破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図 主蒸気管損傷部はC、Ni量が低く、結晶粒界に多量のシグマ相の析出が認められたことから、クリープ破断強度の比較的低い溶鋼から製造されたもの(14ヒート中の少なくとも4ヒート)と推察された。また、本ユニットは貫流ボイラの初期設計に特有の起動バイパス系統が主蒸気管の途中から分岐する構造(図2)となっており、プラント停止時等にボイラ止弁/バイパス弁から上流側の主蒸気管は急冷されて降伏点を超える熱応力が発生することになる。このように大きな熱応力は室温において逆の残留応力、すなわち外面では引張残留応力を生じさせることになる。これに内圧応力が重畳し、比較的に早い時期(約30,000h運転後)から外表面にクリープ損傷が発生することにより、外面から内面へ向かってクリープき裂が進展・貫通し、蒸気漏洩に至った。 ○ 図5 機器の設計と製作における不適切・不良に着目したフォールトツリー図 主蒸気管のき裂貫通部はクリープ破断の比較的低い材料が使用されていたことと、初期設計の貫流ボイラに特有の起動バイパス系統に起因する主蒸気管外表面の引張残留応力に内圧応力が重畳しクリープ損傷が生じやすかったことが相俟って蒸気漏洩事故を起こした。 (2)イベントツリー解析の結果 ○ 図6 低クリープ強度材(316ステンレス鋼)とボイラ設計に起因する外面引張残留応力の重畳によるクリープ損傷の発生・進展で起こった主蒸気管の蒸気漏洩事故のイベントツリー図 クリープ破断強度の低い材料であったことに、初期の貫流ボイラ特有の起動バイパス系統構成に起因する残留応力等が重なって、外表面にクリープ損傷によるき裂が発生し、内圧応力および熱応力によって管内面へ進展し貫通するに至った。 |
経過 |
当該プラントは当事世界最高の超々臨界圧蒸気条件で運転されていたが、その主蒸気管の蒸気漏洩事故は各国の火力発電プラントの高効率化に携わっていた技術者・研究者に大きな衝撃を与えた。事故後、日米の関係メーカー等を中心に原因究明のための調査ならびに損傷解析が精力的に行われ、材質の不備とボイラ構造上の問題が重畳したことによるクリープ損傷に起因することが明らかにされた。その結果、損傷した主蒸気管の全数取替えや主蒸気管の状態監視などの対策が採られた。 |
原因 |
(1) 引張残留応力を発生させるボイラ構造(設計) 初期の貫流ボイラ特有の起動バイパス系統構成に起因する大きな残留応力等の発生がなければ、主蒸気管のクリープ破壊は起こらず、蒸気漏洩事故には至らなかった。 (2) 材料製造・品質管理の不備 シグマ相の析出等の材質劣化を起こしやすい材料(ヒート)が使用されていなければ、上記のボイラ構造であっても、クリープ損傷の発生・進展による蒸気漏洩事故には至らなかった。 本事故は上記した両要因が重畳して起こったものであり、どちらか一方の条件しかない部位では13.8万時間後においてもき裂の発生等は認められていない。 |
対処 |
(1)損傷した過熱器出口管寄せからボイラ止弁までの主蒸気管の全数取替え (2)主蒸気系統のその他の主蒸気管、弁類、管寄せ類はそのまま使用 (3)非破壊的な金属組織検査手法によるボイラ止弁および下流側の主蒸気管の状態監視 |
対策 |
(1) 材料選定の適正化 (2) 起動バイパス系統構成の見直し (3) 余寿命評価技術の高精度化 |
知識化 |
材料選びは慎重に! |
シナリオ |
主シナリオ
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無知、知識不足、経験不足、計画・設計、計画不良、設計不良、ボイラ主蒸気管、引張残留応力、製作、ハード製作、機械・機器の製造、316ステンレス鋼、σ相析出、使用、運転・使用、機械の運転・操縦、破損、破壊・損傷、クリープ、亀裂・割れ、蒸気漏洩
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情報源 |
(1)John F. Delong、木原重光、中代雅士、石本礼二、梶谷一郎、「超高圧高温プラントにおける主蒸気管貫通割れ調査結果」、火力原子力発電、Vol.35、No.3、pp.227-237(1984) (2)J. F. Delong、W. F. Siddall、F. V. Ellis、羽田寿夫、土屋喬、大黒貴、増山不二光、瀬戸口克哉、「エディストン1号機主蒸気系統高温耐圧部の信頼性評価」、火力原子力発電、Vol.35、No.11、pp.1225-1248(1984)
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マルチメディアファイル |
図2.主蒸気管系統図
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図3.蒸気漏洩した主蒸気管の外観
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図4.破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図
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図5.機器の設計と製作における不適切・不良に着目したフォールトツリー図
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図6.低クリープ強度材(316ステンレス鋼)とボイラ設計に起因する外面引張残留応力の重畳によるクリープ損傷の発生・進展で起こった主蒸気管蒸気漏洩事故のイベントツリー図
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分野 |
材料
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データ作成者 |
新田 明人 ((財)電力中央研究所)
小林 英男 (東京工業大学)
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