事例名称 |
蒸気タービンロータのバースト事故 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1974年06月19日 |
事例発生地 |
米国 テネシー州 ギャラティン |
事例発生場所 |
テネシー峡谷開発会社(TVA) Gallatin 2号機 |
機器 |
中・低圧タービンロータ(1954年に大気溶解された955℃焼ならしCr-Mo-V鍛鋼(ASTM A470 Class8)製で1957年5月から出力225MWでベースロード運用されており、蒸気条件は13.8MPa、566℃で回転数は3,600rpmである。) |
事例概要 |
運転開始後106,000h経った1974年6月19日の冷機起動中(回転数3,400rpm)に脆性破壊した。その結果、数十個の破片となり、その一部はボイラ建屋まで飛散した(図2、図3参照)。当時、このロータに対しては中心孔の探傷検査が義務付けられていなかったため、中心孔付近に存在した大きな硫化マンガン(MnS)偏析域に気付かずに運転が続けられ、そこからのクリープ疲労き裂の進展と運転中の焼戻し脆化により脆性破壊に至った。事故後、全てのロータの中心孔探傷検査が実施されるとともに、米国電力研究所(EPRI)が蒸気タービンロータの継続運転/廃棄(Run/Retire)を判定する専用コード(SAFER)を開発し、同コードがロータの運用管理に使用された。 |
事象 |
(1)フォールトツリー解析の結果 ○ 図4 破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図 1950年代の大気溶解インゴットから製造された当該タービンロータの中心孔付近にMnS偏析域が内在していた。しかし、当該ロータの熱処理条件では当時、中心孔の超音波探傷を要求しないものであったことから、その存在に気付かずに10万時間を超える運転が続けられ、その間にクリープ疲労相互作用によるき裂が成長していった。また、その長期運用に伴う焼戻し脆化が生じていたため、補修による長期停止後の冷機起動中に脆性破壊に至った。 ○ 図5 機器の設計と製作における不適切・不良に着目したフォールトツリー図 当時の蒸気タービンロータ鋼(Cr-Mo-V鍛鋼)では、焼ならし温度が1100℃の場合のみ中心孔の探傷検査が実施されていたが、当該ロータの焼ならし温度は955℃であったため、中心孔の超音波探傷は行われなかった。そのため、インゴット製造時に生じた大きなMnS偏析域が中心孔付近に存在することに気付くことなく長期間の運用に供され、バースト事故に至った。 (2)イベントツリー解析の結果 図6 超音波探傷不実施による製造欠陥の見落しならびにそこを起点とするクリープ疲労き裂の成長と焼戻し脆化の重畳による蒸気タービンロータのバースト事故のイベントツリー図 大気溶解によるCr-Mo-V鍛鋼インゴットに生じたMnS偏析が中心孔付近に内在することが、中心孔探傷の要求されない955℃という焼ならし温度で熱処理されていたため、検知されないまま長期運用に供された。その結果、内在したMnS偏析域からクリープ疲労によるき裂が発生・成長し、長期運用に伴う焼戻し脆化と相俟って、冷機起動中に脆性破壊するに至った。 |
経過 |
当該ロータは脆性破壊により数十個の破片となり、その幾つかはボイラ建屋まで飛散した。事故後、飛散した破片を回収し中心孔の超音波探傷を実施したところ、MnS偏析域が検出された。また、破壊のプロセスについても詳細な調査が行われた。 |
原因 |
事故を経験した焼ならし温度1100℃のロータに対しては、中心孔探傷検査を要求していたが、事故対策として焼ならし温度を955℃に変更したロータには中心孔探傷検査を要求しなかった。全てのロータに中心孔探傷検査を要求していれば、大きなMnS偏析域の存在は検知され、バースト事故は生じなかった。 |
対処 |
(1)本事故を契機に全ロータに中心孔探傷検査が要求されるようになったが、特に1950年代に製造された大気溶解によるCr-Mo-V鋼のロータには中心孔探傷検査が不可欠である。 |
対策 |
(1) ロータの取替(中心孔検査の結果に基づきロータを取り替える水平展開の実施) (2) 中心孔探傷検査の義務付け (3) ロータ寿命解析コードの開発とそれによる寿命(Run/Retire)管理 (4) 真空溶解法の開発・導入 (5) 中実ロータの開発・導入 |
知識化 |
確固たる技術的根拠なくして非破壊検査を免除すべきではない。 (技術的に曖昧なところがあれば、非破壊検査すべき) |
シナリオ |
主シナリオ
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誤判断、狭い視野、規格不良、計画・設計、計画不良、無検査、蒸気タービンロータ、大気溶解CrMoV鍛鋼、中心孔、MnS偏析の見落とし、使用、運転・使用、機械の運転・操縦、破損、破壊・損傷、クリープ疲労、き裂・割れ、ロータバースト(飛散)
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情報源 |
(1)L.D.Kramer and D.Randolph, “Analysis of TVA Gallatin No.2 Rotor Burst : Part 1-Metallurgical Considerations,” Proc. 1976 ASME-MPC Symposium on Creep-Fatigue Interaction, pp.1-24(1976). (2)D.A.Weisz, “Analysis of TVA Gallatin No.2 Rotor Burst : Part 2-Mechanical Analsis,” Proc. 1976 ASME-MPC Symposium on Creep-Fatigue Interaction, pp.25-40(1976).
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マルチメディアファイル |
図2.バーストしたロータの破壊経路
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図3.バースト事故後の回収破片
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図4.破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図
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図5.機器の設計と製作における不適切・不良に着目したフォールトツリー図
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図6.超音波探傷不実施による製造欠陥の見落しならびにそこを起点とするクリープ疲労き裂の成長と焼戻し脆化の重畳による蒸気タービンロータのバースト事故のイベントツリー図
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備考 |
死傷者数不明 |
分野 |
材料
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データ作成者 |
新田 明人 ((財)電力中央研究所)
小林 英男 (東京工業大学)
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