事例名称 |
敦賀発電所1号機シュラウドサポートのひび割れについて |
代表図 |
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事例発生日付 |
1999年12月09日 |
事例発生地 |
福井県敦賀市 |
事例発生場所 |
日本原子力発電株式会社 敦賀発電所1号機 |
機器 |
炉内構造物シュラウドサポート |
事例概要 |
第26回定期検査においてシュラウド取り替え工事を計画していた。新シュラウド据えつけ前に実施した下部シュラウドサポートの上端開先加工部の検査においてひび割れが発見された。その後、下部シュラウドサポートを詳細に調査したところ合計300箇所のひび割れが発見された。 ひび割れは、すべてニッケル合金(インコネル)の溶接部に発生しており応力腐食割れである。ひび割れは構造健全性に影響を与えるものではないと判断されたが、ひび割れ部をすべて除去した上にひび割れが発生した反対側に溶接肉盛りを実施し新シュラウドサポートを据えつけた。 |
事象 |
(1) 図2破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図 シュラウドサポートと原子炉圧力容器との溶接部で発見されたひび割れ個数は、228箇所。 228箇所のひび割れはシュラウドサポートの下側から発生。 228箇所のひび割れの方向と応力解析の結果求めた応力分布の主応力方向はほぼ直角となっておりひび割れの発生に応力が関与していることを示している。 ひび割れはニッケル基合金(インコネル溶接金属)については、割れ感受性があるが今回のケースは、溶接施工上の検討課題である。 (2) 図3設計及び製造・運転における不適切・不良に着目したフォールトツリー図 設計段階、製造段階及び運転段階で不適切な行為をしているかどうか検討した結果、溶接残留応力は高いものの耐圧試験(1.5倍)が重畳してひび割れが発生したと考える。 (3) 図4機器の負荷履歴、環境と材料に着目したフォールトツリー図 機器の負荷履歴、環境及び材料に着目し検討を行ったが漏えいのトリガーとなる問題点はなかった。 (4) 図5イベントツリー解析の結果 ニッケル基合金(インコネル)溶接金属は、応力腐食割れを発生する感受性がある。溶接残留応力に耐圧試験の圧力が加わり溶接部の残留応力分布は変化した。さらに運転圧力が加わり応力腐食割れが発生した。 |
経過 |
第26回定期検査において計画していた炉内構造物シュラウドの取り替え工事において、新シュラウドを取りつける前に行った検査で既設側の溶接開先面にひび割れを発見した。 |
原因 |
(1) ひび割れはシュラウドサポートの溶接部及びその近傍の金属の結晶粒界で生じており粒界型応力腐食割れの特徴を有している。 (2) 使用を開始する前までの製造時段階でひび割れ発生箇所には高い応力が残留したと推定される。 (3) 溶接に用いたニッケル基合金(インコネル182)は、化学成分によっては応力腐食割れが発生する可能性があることが研究により明らかにされていた。 (4) 以上より、当該部でのひび割れの発生原因は、応力・環境・材料の各因子が重畳して発生する粒界型応力腐食割れと推定される。 |
対処 |
(1) 耐食性の高いニッケル基金属の溶接部でも応力腐食割れが発生することの認識が重要。(耐食性の高い材料は環境や応力の組み合わせ条件により割れ〔応力腐食割れ〕が生ずることの認識が重要。) (2) 溶接部の検査方法は重要である。 (3) 将来き裂が拡大したと仮定しても構造強度上や機能上問題がなければ使用することも考慮する必要がある。ただし、き裂を残す場合は、検査を計画的かつ保守的に実施することが重要である。 |
対策 |
(1) 原子炉圧力容器との取り付け部を残し下部シュラウドサポートを新品と取り替えた。 (2) ひび割れはすべて除去。 (3) 構造強度上問題がなかったが、付加的余裕の観点より取り付け部上部に補強溶接を行い従来と同等の強度を確保した。 (4) 溶接金属には、応力腐食割れ抵抗性が高いものを採用した。 (5) 水素注入を実施し環境改善を図る。 |
知識化 |
ニッケル基合金(インコネル)溶接金属は、環境・応力・材料の条件が重畳した場合、応力腐食割れが発生する。ただし、原子力環境においてこの応力腐食割れ現象は発生頻度が低い事象である。 |
シナリオ |
主シナリオ
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未知、未知の事象発生、製作、ハード製作、機械・機器の製造、日本で初めてシュラウドサポートを製造、材料:インコネル、使用、保守・修理、検査、運転圧の1.5倍で耐圧試験の実施、インコネル溶接金属部に高い残留応力が発生、破損、破壊・損傷、応力腐食割れ、き裂・割れ、検査困難箇所、上部構造物取替時にき裂発見
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情報源 |
通商産業省資源エネルギー庁日本原子力発電(株)敦賀発電所1号機の定期検査中に発見されたトラブルの原因と対策について(2000年6月1日)
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
マルチメディアファイル |
図1.シュラウドサポートひび割れ状況図
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図2.破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図
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図3.設計及び製造・運転における不適切・不良に着目したフォールトツリー図
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図4.機器の負荷履歴・環境と材料に着目したフォールトツリー図
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図5.ひび割れが大きくなるまでのイベントツリー図
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分野 |
材料
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データ作成者 |
村上 弘良 (日本原子力発電(株))
小林 英男 (東京工業大学)
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