失敗事例

事例名称 蒸留装置配管系の局部腐食
代表図
機器 蒸留装置/配管系/SUS 316 純銅
事例概要 蒸留装置はボトムから出た液が、リボイラーで加熱されて再び蒸留装置に戻るタイプのものであり、同一配管系には、純銅とSUS 316 が使用されている。使用条件変更前は腐食性のない環境であったが、変更後は pH3.5~5, Cl-250~500 ppm の酸性環境となり、使用条件変更後1~2箇月の短期間で腐食による漏洩が、純銅の側から起こった。
事象 純銅とSUS 316 配管の内面調査から判明したことは、酸性の雰囲気で使用されたため、配管系を含めてまず銅が腐食し、溶け出したCu2+ が循環するうちにSUS316 配管の表面で還元され、ステンレス鋼表面にメッキ状に付着した。純銅の配管部分での漏洩は孔食によるものであったが、SUS316 配管にも漏洩部分があり、内面に無数の小さい孔食が見られた。また、孔食断面の顕微鏡観察では、孔食底に応力腐食割れによる小さい割れが認められた。Cl-を含む酸性溶液中でCu2+ が含まれると、Cu2+ の酸化力によってSUS316 の自然電位Ecが、孔食電位Vc以上まで上昇し、SUS316 に容易に孔食が発生したと考えられる。
使用条件変更後酸性環境となった蒸留装置の配管系に適用されていた純銅とSUS316のうち、まず純銅が孔食を起こした。次いで、溶け出したCu2+ が循環するうちに、SUS316 表面にメッキ状に付着するとともに、Cu2+ の酸化力によりSUS316 の自然電位が孔食電位まで上昇し、SUS316 にも容易に孔食が発生した。
原因 孔食
対策 Cl-を含む酸性環境中で Cu とステンレス鋼を一緒に使うことを避ける。
知識化 Cl-を含む酸性環境中にCu2+ が存在すると、その酸化力によってステンレス鋼の孔食が誘発される。また、 Cl-を含む環境中でのステンレス鋼と炭素材との組合わせ、ステンレス鋼とオゾンとの組合わせもCu2+ の酸化力による場合と同様に、ステンレス鋼の孔食が誘発される。このことから異種材料を同じ環境で使う場合には、適切な材料の組合わせかどうかの事前検討を十分に行う必要がある。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、過去情報不足、非定常行為、変更、運転条件変更、環境条件変更、使用、運転・使用、機械の運転、リボイラー、配管、異種金属接触、銅・ステンレス鋼、破損、減肉、孔食、銅、破損、破壊・損傷、応力腐食割れ、ステンレス鋼、肉厚貫通、漏洩
情報源 熊田 誠:事例紹介と設備管理の有り方 2.蒸留装置配管系の局部腐食、日本材料学会腐食防食部門委員会資料 No.198, Vol.36, Part 6 Nov. 14, 1997
マルチメディアファイル 図1.フォールトツリー図 蒸留装置配管系の局部腐食
図2.イベントツリー図 蒸留装置配管系の局部腐食
分野 材料
データ作成者 武川 哲也 (元住友化学(株))
小林 英男 (東京工業大学)