失敗事例

事例名称 デポジット剥離による局部腐食
代表図
機器 希硫酸ポンプ/インペラー、ケーシング/ウォーサイト(19Cr-21Ni-2.7Si-1.9Mo-1.7Cu)
事例概要 銅精錬における硫酸製造装置で、溶鉱炉ガス洗浄水の循環用として適用されていた希硫酸ポンプである。ポンプはインペラー、ケーシングとも黒いスケールで覆われていたが、約2か月でスケール剥離部分が激しい局部腐食を受けた。また、ケーシングのフランジ部ではすきま腐食も起こっている。インペラースピードは 24m/s (外周)であるが、エロージョン以外の腐食である。
事象 ポンプ内面に付着していたスケールは酸化物 (30%) と硫化物 (50%) で構成され、X線回折の結果主に CuO とCu2S・BiS2 であり、構成元素は銅鉱石中に含まれるものである。アノード分極曲線の測定により、希硫酸中に酸化性のCu2+が存在すると、ウォーサイトの腐食が促進されることを示した。
(1)溶液中に浮遊する酸化物と硫化物の微粒子がポンプ内面にスケールのように付着して、あたかも酸化物のような効果を示す。
(2)流速が大きく、乱流が生じるのでポンプ内面でスケールが部分剥離する。
(3)剥離した部分がアノード、スケールに覆われた部分がカソードとなり、アノードに比べてカソードの面積が大きいため、剥離した部分で激しい局部腐食が起こる。
原因 局部腐食(孔食)
対策 酸化性環境に強い硬鉛製ポンプに変更するとともに、フィルターを設置し、循環水を交換した。
知識化 銅精錬の溶鉱炉ガス洗浄水の循環用ポンプは、硬鉛製ポンプに変更して問題が起こらなかったが、亜鉛精錬の同目的の硬鉛製ポンプで、ウォーサイトポンプと同様の局部腐食を起こしている。このことは、材質の変更とともに、フィルターの設置、循環水の交換を組み合わせた効果と考えられる。従って、アノード分極特性の検討から耐食材料を選定した場合でも、材料の変更だけでなく、他の対策との組み合わせが必要なこともある。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、経験不足、使用、運転・使用、機械の運転、ポンプ、インペラー・ケーシング、高合金、材料選定不適切、酸性溶液、固形物付着、不良現象、機械現象、乱流、皮膜剥離、破損、減肉、局部腐食
情報源 熊田 誠:事例紹介と設備管理の有り方、日本材料学会腐食防食部門委員会資料 No.198, Vol.36, Part 6 Nov. 14, 1997
マルチメディアファイル 図1.フォールトツリー図 デポジット剥離による局部腐食
図2.イベントツリー図 デポジット剥離による局部腐食
分野 材料
データ作成者 武川 哲也 (元住友化学(株))
小林 英男 (東京工業大学)