失敗事例

事例名称 熱炭酸カリによる炭素鋼装置の応力腐食割れ
代表図
機器 吸収塔/塔本体/炭素鋼
事例概要  110℃、26 kg/cm2の砒素化合物を含む熱炭酸カリ水溶液を用いて、プロセスガス中のCO2を吸収除去するSB49炭素鋼塔装置で、現地溶接局部焼鈍した3ヶ所の溶接部に、使用9年目に割れが生じた。
事象 溶接ビードに直交して母材に及ぶ割れが周溶接全体に分布しており、レプリカ法による組織検査の結果、分枝状の貫粒割れで応力腐食割れの特徴を示していた。当時開発仕立ての可搬型X線残留応力測定装置を用いて、溶接部の残留応力を測定の結果、割れ部では15~25 kg/mm2の値を示したのに対して、健全部では5~7kg/mm2と明確な有意差を示した。また、硬さレベルの異なる応力負荷試験片について5年に及ぶ実地試験の結果、硬さHV200を境にそれ以上の試験片はすべて割れを生じていたのに対して、以下の試験片はすべて健全であった。
熱炭酸カリ水溶液に対して、通常炭素鋼は激しく腐食されるが、砒素化合物の添加で腐食が抑制され、炭素鋼でも耐用するようになるが、応力腐食感受性を帯びるようになる。従って、溶接部は応力除去焼鈍を必要とする。この使用条件に対して工場溶接、炉内焼鈍した溶接部は健全であったが、現地溶接、局部焼鈍した溶接部は、使用9年目で応力腐食割れを起こした。両者の溶接部の残留応力には明らかな有意差のあることを、可搬型X線応力測定装置で確認した。
原因 応力腐食割れ
対策 現地溶接部の残留応力を、工場溶接部並みの応力に低下させる局部焼鈍法を開発して、実地に適用することによって、その後の応力腐食割れの発生は防止できた。
知識化 定量的な測定法がなかったために、局部焼鈍でも応力腐食割れに対して有効な応力除去ができると過信していた。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、思い込み、製作、ハード製作、機械・機器の製作、炭素鋼、溶接継手、熱処理の不適切、使用、運転・使用、機器・物質の使用、高温流体、吸収塔、溶接継手、破損、破壊・損傷、応力腐食割れ、肉厚貫通、漏洩
情報源 Takegawa & H.Isimaru : Preventing Stress Corrosion Cracking in the Carbon Dioxide Absorber of Ammonia Plant, Ammonia Plant Safety and related facilities Vol. 22, p.170, 1982
マルチメディアファイル 図1.フォールトツリー図 熱炭酸カリによる炭素鋼装置の応力腐食割れ
図2.イベントツリー図 熱炭酸カリによる炭素鋼装置の応力腐食割れ
備考 アンモニアと工業誌 Vol.33, No.3, p.12 1980 に同内容の報告あり。
日本材料学会腐食防食部門委員会研究会資料 No.18, Nov. 7 1980 に同内容の記述あり。
分野 材料
データ作成者 武川 哲也 (元住友化学(株))
小林 英男 (東京工業大学)