失敗事例

事例名称 重油直接脱硫装置循環ガス硫化水素吸収塔廻り配管内面の異常腐食
代表図
事例発生日付 2002年04月15日
事例発生地 北海道
事例発生場所 石油精製工場
機器 重油直接脱硫装置/循環ガス硫化水素吸収塔/廻り配管内面/炭素鋼
事例概要 1994年10月に操業開始した重油直接脱硫装置(6042kl/D)において、2001年6月に定期保全工事後、平常運転中であったが、2002年4月15日、爆発火災事故が起きた。重油直接脱硫装置の循環ガス硫化水素吸収塔のバイパス配管(外径10インチ、肉厚28.6mm、炭素鋼:STS480-S、スチームトレースあり)に内部からの腐食に起因し生成した開口部より水素ガスを含む可燃性ガスが漏洩し着火し爆発に至ったものである。空気冷却器、硫化水素吸収塔が著しく焼損し構造物に甚大な損害を与えた。開口部では年間約3mmの腐食速度の異常腐食を起こしており、水硫化アンモニウムによる腐食が種々の要因により加速されて生じたものである。当該装置から半径200m以内に位置する建物等が破損被害を受けたが、人的損害はなかった。
事象 開口部は循環ガス硫化水素吸収塔のバイパス配管で内面が著しく腐食減肉を起こしていた。初期肉厚28mmで、当該部の供用期間が8年間である。このような腐食は当該部位において想定されていなかった。開口部分を含んだ配管内面が250mm×160mmの楕円形状の範囲で皿状に著しく減肉していた。配管内面の付着物の分析結果などから、当該配管中には腐食性の水硫化アンモニウムが存在していたと考えられた。
原因 行き止まり配管であるバイパス配管内において、流体に同伴された微量の水分ミストとフランジ部で局部的な冷却により凝縮した微量水分が旋回流の影響で腐食部位周辺の配管壁に付着した。この付着水分に、流体中に含まれる硫化水素および微量のアンモニアが溶解して水硫化アンモニウムを生成し、水硫化アンモニウム濃度は最高で9wt%になった。これに旋回流やスチームトレースの影響による局部的な濃度上昇、温度上昇、および乾湿繰り返しの要因が重なって、腐食が発生し進展していったと推定された。配管の立ち上がり部に設けられているフランジの放熱効果によって流体が冷却され配管内面に流体中の飽和水蒸気が凝縮し水分が生成し、厳しい腐食性環境が生成したため異常腐食を起こして減肉し開口した。すなわちバイパス配管内の温度は49℃で運転することになっていたが、フランジ部では35℃まで低下していたため、循環ガス中の水分が凝縮し水流化アンモニウム濃度が最高で9wt%の腐食性環境が生成した。腐食加速要因として、濃度の上昇、流体の流速、温度の上昇、乾湿の繰り返し等のほか、配管中の酸素が関与し凝縮水中の溶存酸素濃度を高め、異常腐食を高めることとなった可能性がある。
対処 腐食の主原因となった当該バイパス配管の局部的な冷却・加熱等の条件をひとつでも排除すれば十分対応できるが、万全を期するという観点から、スタートアップで時間がとられるが、当該バイパス配管を撤去することにより根本的な対処がとられた。また、類似装置での腐食防止の観点からの総点検が行われた。
対策 今回の事例のような腐食条件等を早期に見出して対応すべく運転・保全管理体制において高度なシミュレーション技術等を活用してソフト・ハード両面からの対策により、設備の安全性、信頼性の向上を図る。
知識化 設備の設計において安全性、信頼性については考慮されているとしても運転・保全においても設計時との環境のふれ等を考慮したフォローを忘れてはならない。
背景 当該配管に生じた異常腐食の近傍の配管内面に付着していた物質の成分組成は硫黄、硫酸アンモニウム、硫化鉄とのことである。配管中流体の成分組成が水素ガス、炭化水素、硫化水素ガス、アンモニウム、水蒸気であることから判断して、配管中には水硫化アンモニウムが存在していたと考えられる。水硫化アンモニウムによる炭素鋼の腐食は温度、濃度、pH、流体流速、乾湿などが影響するほか、溶存酸素が存在すると腐食加速効果はきわめて大きいと言われている。
よもやま話 循環ガス中の水分が凝縮しないようにするためには、配管内の温度を設計通りに保つことが必要であるが、そのような観点からの配管内温度の設計時の確認および装置設置後の配管内の温度の点検はなされていなかった。また、溶存酸素の腐食加速影響が大きいと言われている。当該バイパス配管内の酸素については、上流部でスチームストリッピングおよび窒素封入により酸素の混入防止および酸素の除去などの一定の対策がとられていたと考えられるが、酸素濃度については定期的に測定されたデータがなく、凝縮した水分中の酸素濃度は不明である。異常腐食に対する酸素の関与の有無は断定できない。
シナリオ
主シナリオ 未知、未知の事象発生、循環水素ガス中での異常腐食、調査・検討の不足、環境調査不足、環境腐食性変化の予測、使用、運転・使用、機器・物質の監視、破損、減肉、腐食・酸化、内流体の流出、二次災害、損壊、火災、重油脱硫装置の広範囲倒壊
情報源 西晴樹:安全工学, 42, 113 (2003)、出光興産:事故調査報告書web公開資料
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 重油直接脱硫装置の甚大な損害
分野 材料
データ作成者 橋本 哲之祐 (元千代田化工建設(株))
小林 英男 (東京工業大学)