失敗事例

事例名称 チタンの水素脆化による割れ
代表図
機器 反応塔/塔本体内面チタンライニング部/チタン、JIS2種/2mmt×965φ×10,336h
事例概要 鋼製圧力容器の内面にライニングされているチタンの溶接部近傍に使用開始後5年で割れが発生した。使用条件:有機酸50%水溶液(pH3)、200℃、2MPa、チタンは外見上完全耐食を示し、割れ部以外には異常は認められなかった。割れ部を溶接補修する時、溶接熱によるガスの発生が認められた。これ以降毎年補修をくり返し数年間使用を継続したが、9年目で溶接補修が不可能になり更新された。
事象 塔内各部より切り出した試料の化学分析の結果、水素が3,000ppm以上検出された。機械試験の結果、硬度、引張り強さの上昇、および伸びの低下が認められたが、これらはそれほど大きなものではなかった。しかし衝撃値が極端に低下(未使用材の15. 7が0.3kg-m/cm2)していた。この結果、チタンが不動態を維持していたにもかかわらず長期間の使用で水素を吸収し、脆化して割れたと結論された。水素吸収速度の推定:非酸化性酸中のカソード反応(水素イオンの還元反応)による不動態保持電流を0.1μA/cm2と仮定すると、単位面積当たり還元される水素イオンの量はおよそ0.3g/cm2/年となる。板厚2mmのチタンの重量は0.9g/ cm2なので、還元される水素イオンの約10%がチタン中に吸収されるとこのレベルに達する。
高温高圧の非酸化性酸中で不動態を保持し完全耐食を維持していたチタンが不動態保持電流に相当するカソード反応である水素イオンの還元反応の過程で、原子状水素の一部が金属チタン中に吸収されて、チタン水素化物を形成して脆化し、運転中の圧力変動などの衝撃力に耐えられなくなり割れが発生した。
原因 水素脆化
対策 定修毎に溶接補修をくり返し対処したが9年目で補修不能となり廃棄した。水素脆化は水素イオン以外の他の酸化剤、たとえば酸素を共存させれば防止できるが、本系では反応条件よりこれができず、同種材料による定期的更新で対処した。
知識化 材料選定の段階で、重量減で評価される耐食性、すなわち不動態を維持できるかどうか、に関心が集中し、長期的挙動に対する考察が不十分だった。チタンのように水素化物を形成しやすい金属の場合、不動態を保持しても、その結果長期的に何が起こるか、想像力を働かせることが重要である。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、経験不足、計画・設計、計画不良、設計不良、材料選定不適切、破損、破壊・損傷、水素脆化による亀裂・割れ
情報源 北村義治、鈴木紹夫:有機酸反応塔の水素脆化、「防蝕技術」、p.210, 地人書館(1997)
マルチメディアファイル 図1.フォールトツリー図 チタンの水素脆化による割れ
図2.イベントツリー図 チタンの水素脆化による割れ
分野 材料
データ作成者 鈴木 紹夫 (すずき技術士事務所)
小林 英男 (東京工業大学)