失敗事例

事例名称 Na、Kを含む断熱材の使用による高温配管の外面腐食
代表図
事例概要 400~500℃の熱媒を送る配管を使用12年後に検査したところ、外面断熱材の下で管外面に局部的な腐食が広範囲に点在し、最大3mm程度減肉していることが見出された。高温のため雨水等による湿食は考えにくいので、検査対象から外れており発見が遅れた。
事象 (1)局部的な減肉部は広範囲に点在し、天地の差はなかった。深さは最大3mmに達していた。減肉部の付着物をEPMAによって分析した結果、Na、Kが検出された。熱媒(硝酸ナトリウム、硝酸カリウム)の漏れはなく、断熱材(シリカ、アルミナ系)に含まれるNa、Kに由来するアルカリ腐食と断定された。
(2)断熱材を熱分析したところ、吸熱、発熱のピークはなく、重量がなだらかに減少し、Si、Alよりも結晶性が弱いNa、Kは結晶から外れやすく、水存在下でアルカリ源となると推定された。
(3)鉄の溶融アルカリによる腐食試験を実施し、200℃を超えると腐食が急増することがわかった。
経過 (1)運転中(500℃)、断熱材のNa、Kが結合から外れる。
(2)停止中(常温)、雨水等による吸湿でアルカリが生成し、配管外面に付着する。
(3)次の運転中、鉄とアルカリの直接反応でアルカリ腐食が進行する。
Fe + 2NaOH → Na2FeO2 + H2
(4)次の停止中、反応後の鉄化合物からアルカリが再生し、次の腐食が促進される。
Na2FeO2  + 4H2O → 6NaOH + Fe3O4 + H2
原因 Na、Kを含む断熱材の使用により、アルカリが生成し、高温配管では鉄とアルカリの直接反応でアルカリ腐食が進行する。
対策 検査対象の基準を以下のように定めた。材質が炭素鋼、低合金鋼の配管で、(1)Na、Kを含む断熱材を施工し、(2)使用温度200℃以上、(3)停止回数1回/年以上、10年以上使用のもの。
知識化 想定と異なる損傷が起こることがあるので、あらゆる可能性に対して適切な材質の選定、保守管理を実施することが重要である。
シナリオ
主シナリオ 未知、異常事象発生、想定外の化学反応、計画・設計、計画不良、設計不良、断熱材の成分、使用、運転・使用、運転(高温)と停止(常温)、不良現象、化学現象、NaとKの分解、アルカリの生成、破損、減肉、腐食、アルカリ腐食
情報源 大野敦史、田仲良雄、吉田賢:材料と環境2004講演集、
分野 材料
データ作成者 鈴木 紹夫 (すずき技術士事務所)
小林 英男 (東京工業大学)