失敗事例

事例名称 タンタル板のグラスライニング補修部での水素脆化割れ
代表図
機器 有機硫酸塩のエステル化反応槽/グラスライニングの貫孔補修部の当板/タンタル/直径約100mmの円盤
事例概要 グラスライニング反応槽底部を貫孔補修して運転再開したが、7ケ月後に補修部のTa円盤カバーに割れが発生した(プロセス液:硫酸10%を含み、約100℃)。
事象 Ta板の顕微鏡組織検査、破面観察、水素分析、およびプロセス液を用いたTa等の浸漬試験、U字曲げ応力負荷試験:事故材表面は外見上全く健全であるが著しく脆化しており、典型的な脆性破壊である。Ta中の水素が570ppm(取出した状態での測定値で、運転中は更に高いと推定される。健全材:5ppm以下)と高いが、3ケ月間までの浸漬試験では再現できなかった。
Ta円盤カバーを固定していたTa製ボルトがゆるみ、プロセス液がまず漏出した。これによって鋼製容器壁の腐食が起ったが、その際Ta板と容器壁間にマクロ電池が形成され、カソードのTa部での水素発生によって水素脆化が引起され割れた。
原因 水素脆化
対策 鋼製容器とTa板を絶縁する。Ta板にPt,Pdなどの貴金属を接触させてTaの水素脆化を防止する方法も効果的である、と指摘している。
シナリオ
主シナリオ 不注意、注意・用心不足、作業者不注意、調査・検討の不足、事前検討不足、既製構造設計流用、使用、保守・修理、グラスライニング容器、貫孔補修、タンタル板、ボルト締付け不良、破損、劣化、炭素鋼容器壁、腐食、水素発生、破損、破壊・損傷、水素脆化割れ
情報源 大久保・武川:防食からみた構造設計-4. 有機合成化学工業における事例とその解析・対策、化学工学協会 第4回化学装置材料シンポジューム;化学装置, 28(1972.12)
マルチメディアファイル 図1.フォールトツリー図 タンタル板のグラスライニング補修部での水素脆化割れ
図2.イベントツリー図 タンタル板のグラスライニング補修部での水素脆化割れ
備考 オキシ法塩ビモノマープラントにおける類似事例(Ta/Fe基材の電食によるTaの水素脆化割れ)の報告があり、両金属の絶縁・Ptなどの貴金属小片接触と、同じ対策が示されている。(榊 孝:材料と環境, 48, 263(1999))
分野 材料
データ作成者 篠原 孝順 (元東洋エンジニアリング(株))
小林 英男 (東京工業大学)