失敗事例

事例名称 カーボンセメントの塩酸による劣化腐食漏洩
代表図
事例発生地 日本
機器 化学プラント/塩酸加熱濃縮塔
事例概要 26%塩酸(含6%芳香族系溶剤)を55℃で受入れて加熱濃縮(~110℃)するリボイラー付塔の壁面に、稼動開始後12年目に孔が開き漏洩事故が起った。塔壁は、炭素鋼製塔の内面にブチルゴムライニングを施した上に、カーボンブロックを積んでカーボンセメント(黒鉛粉とフェノール樹脂を1:1で混合したもの)を用いて固定した構造になっていた。
事象 カーボンブロックを固定していたカーボンセメントには多数の割れが発生しており、ゴムライニングには硬化して脆くなっている部分や軟化溶融し消失している部分があった。漏洩は、ゴムライニングの消失部で炭素鋼壁が腐食によって破孔した箇所で起っていた。
経過 高温・高濃度塩酸を取扱う装置のため、炭素鋼製塔の内面にゴムライニング+カーボンブロックの防食対策を施していたが、長年に亘る使用期間中にブロックを固定していたカーボンセメントに塩酸が浸透して損傷させた。その損傷箇所の下でゴムライニングの劣化消失が起り、炭素鋼壁にプロセス流体が触れて腐食・破孔・漏洩となった。
原因 腐食、劣化、割れ
対策 カーボンセメントに塩酸が浸透する過程とゴムライニングが劣化する過程とが、損傷律速因子となる。両過程の速度を把握して、塔の寿命を考えた運転・メンテナンスを行うこととした。
知識化 耐食用非金属材料メーカーが準備しているデータは、使用可否の大まかな判断を下すためのものしかない場合が多い。今後は、寿命推定に役立つレベルの定量的データまで整備していく必要があろう。
よもやま話 不浸透性黒鉛(黒鉛+フェノール樹脂、本件のカーボンセメントに相当)は優れた耐食性、耐熱性、熱伝導性を持っているため、塩酸環境中で熱交チューブなど広く使用されてきた。しかし、塩酸の内部への浸透によって経年劣化し空孔やクラックが発生することが分かってきたため、その劣化状態を非破壊検査によって評価するなどの対応技術の開発が進められている。
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、事前検討不足、カーボンセメントの耐塩酸性、ブチルゴムライニングの耐塩酸性、計画・設計、計画不良、カーボンブロック・ゴムライニングの性能過信、使用、保守・修理、カーボンブロック・ゴムライニングの点検不良、破損、劣化、カーボンセメントの割れ、ゴムライニングの硬化・消失、破損、減肉、炭素鋼壁腐食、二次災害、損壊、プロセス流体漏洩
情報源 山本健太郎ら:材料と環境2002 講演要旨集, 47(2002)
分野 材料
データ作成者 篠原 孝順 (元東洋エンジニアリング(株))
小林 英男 (東京工業大学)