失敗事例

事例名称 貯槽底板の敷砂による応力腐食割れ
代表図
事例発生場所 有機合成化学工場
機器 SUS304L 常圧円筒型貯槽
事例概要 使用2年3ヶ月経過した時点で、有機化学プロセス液貯槽のSUS304L製底板に貫通割れが発生した。割れは敷砂と接している範囲に限って、多数の孔食と分枝状の割れが存在し、80℃の内部液が砂上に漏洩していた。
事象 敷砂と接触している底板外面には、全面的に多数の孔食と分枝状の割れが多数発生していた。断面ミクロ組織観察により、外面側に生じた孔食底を起点として、分枝状に進展した貫粒割れであることが確認された。また、底砂について成分分析した結果、Cl 0.87%, H2O 0.91% が検出された。一般に、川砂中に含まれる Cl は数ppm 程度であり、ここでは洗砂不十分な海砂が用いられていると判断された。
経過 施工時には十分乾燥された敷砂が敷き詰められていた。しかし、長期使用するうちに、空気中の水分を吸収し、砂中の塩分を溶解し、80℃内部液による加熱状態の温度条件と、底板自体が有する残留応力とが相俟って、孔食を発生するとともに、孔食底に応力が集中して、オーステナイト系ステンレス鋼の応力腐食割れ発生条件を満たすところとなり、2年3ヶ月経過の時点で貫通割れを生じた。
原因 長期使用の間に吸収した空気中の水分と酸素の存在、敷砂中に含まれていた塩分の存在、内部液により与えられた80℃の温度条件、溶接その他加工により存在していた底板の残留応力などの環境条件が、オーステナイト系ステンレス鋼の応力腐食割れ発生条件を満たすところとなり、2年3ヶ月の時点で、応力腐食割れを発生させた。
対処 取敢えずの措置として、割れを生じた部分の底板の更新に際して、ポリエチレンシートを底板と敷砂との間に敷いて、底板を割れ発生環境と隔離することを図った。
対策 抜本的には、塩分含有のきわめて少ない川砂を敷砂として用いることが好ましい。適当なシートを底板と敷砂との間に敷いて、割れ発生環境との遮断が可能になれば対策となる。
知識化 水分の存在下で温度が高く、溶接その他加工による残留応力が存在する条件で、オーステナイト系ステンレス鋼を使用する場合、最も留意せねばならぬ問題は塩分の存在である。ここでは、底砂に海砂を用いることは避けねばならない。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、勉学不足、使用、運転・使用、ステンレス鋼、環境条件の変化〈水分付加〉、塩分の存在、高温、残留応力、破損、破壊・損傷、応力腐食割れ、漏洩
情報源 武川哲也:化学装置、Vol.14, No.12, 28 (1972)
分野 材料
データ作成者 武川 哲也 (元住友化学(株))
小林 英男 (東京工業大学)