事例名称 |
エチレン製造分解炉輻射管の浸炭損傷 |
代表図 |
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機器 |
エチレン製造分解炉輻射管 |
事例概要 |
初期の分解炉では、内面鋳肌のままのHK40遠心鋳造管(0.4C-25Cr-20Ni)が用いられていたが、早いもので使用1年経過後に外径で6mmの膨れを伴って、深さ7mm(原肉厚 12 mm)の浸炭と、外面側から周方向の割れを生じた。その後、内面研削加工仕上げした管を用いた結果、約10年耐用したが、局部的に浸炭損傷が生じた。特に、溶接部が著しかった。 |
事象 |
割れを生じた初期の分解炉輻射管の断面について、マクロ的およびミクロ的に組織観察を実施した結果、原肉厚12 mm に対して最大7mm 深さの浸炭が認められた。また、外径は6mm の膨れを生じていた。膨れを生じていた個所にはすべて浸炭を生じていた。内面を研削加工した管を用いた輻射管については、磁性変化を利用した浸炭計を用いて局部的に発生した浸炭を検出した。 |
経過 |
鋼の浸炭は、まず雰囲気から鋼表面への活性炭素の付着、浸炭防止力を有する表面酸化物 (Cr 酸化物) の還元または剥離、活性炭素の鋼中への拡散、炭化物の形成という経過をたどる。輻射管にはナフサ等液状炭化水素を希釈スチームとともに供給して、1~3 kg / cm2 の低圧力、930 ~950 ℃の高温条件下で熱分解する。この際、管表面で炭化水素が変質または分解してコーキングを生ずる。コーキング層は、定期的にデコ―キング操作によって除去される。浸炭機構は十分解明されていないが、雰囲気変化が管の浸炭に関与する。 |
原因 |
エチレン製造分解炉輻射管では、雰囲気から鋼表面への活性炭素の付着があり、浸炭は必然的に起こる現象である。 |
対策 |
初期の分解炉は輻射管鋳肌のままの表面状態が災いしたため、内面を研削して平滑にすることによって、1年の寿命を10年近くまで延ばすことができた。しかし、より高温に耐用するために、より耐浸炭性の高い材料開発が求められ、25Cr-20Ni のHK40 から25Cr-35Ni のHP さらに31Cr-43Ni KHR45A が実用化され、10年以上の寿命が確保されるようになった。また、コーキング抑制技術(コーティング管、フィン付き管、コーキング防止薬品)の開発も進展している。運転管理面では、膨れ、浸炭深さ、曲りなどの管の更新基準も整備されている。 |
知識化 |
内面鋳肌のままで浸炭短命化に終った輻射管の失敗教訓となって、内面平滑化による加工面の改善で大幅な寿命延長を可能にした。より高温の過酷な条件下で耐浸炭性を期すためには、材料面からの改善が必要で、高Cr-Ni 耐浸炭材が開発されたが、この種の合金での耐浸炭性は1100~1150 ℃が限界で、材料的には究極の域まで達した。さらに、改善を目指して耐コーキング性コーティング管、熱伝達率向上の内面フィン付き管、コーキング防止薬品といった新技術の開発が活発になってきている。このように歴史過程をたどって行くと、耐浸炭性技術の発展過程がよくわかる。 |
よもやま話 |
分解炉輻射管の浸炭は、使用環境から必然的に起こる現象であり、損傷事例も数多く報告されている。これに対する材料面からの改善策も精力的に行われ、究極の域まで達している。今や表面改質の面からの改善策が開発されつつある。 |
シナリオ |
主シナリオ
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無知、知識不足、過去情報不足、誤判断、狭い視野、更新基準なし、使用、運転・使用、高温浸炭雰囲気、HK40遠心鋳造管、破損、劣化、浸炭、破損、破壊・損傷、割れ
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情報源 |
(1)武川哲也:化学工学協会「高温反応系における機器と配管の材料と保守」に関するシンポジウム講演要旨集,5,23(1980)
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分野 |
材料
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データ作成者 |
武川 哲也 (元住友化学(株))
小林 英男 (東京工業大学)
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